第4話 確定演出
先程までお祭り騒ぎだった教室は、担任が戻ってきた事で水を打った様に静まりかえっていた。
CWについての職員会議(2回目)が終わり返ってみれば、教室は動物園状態である。
先生が怒りたくなるのも無理はないだろう。説教直行コースだ。
少なくとも俺と一条さんは完全なとばっちりだけど。
その後は先生の説教のお陰か、静かに待機して下校することが出来た。
待機といっても30分もしない内に下校の指示が出たから、俺としては有り難かった。
下校の際は寄り道せずに、CWを開かずに帰れとのお達しがあったが……前者はともかくとして、後者は無理だろう。
学校の通りを一本抜けた大通りでは、多くの生徒がCWを開きながら話し合い下校している。
ちなみに、俺も今後の予想なんかを楽しく話ながら皆で下校しようと思っていたのだが、俺が誘う前に三人はそそくさと帰ってしまっていた。ダメ元で誘った一条さんには断られた。
仕方ないので、俺は一人虚しく帰っている。
まあ、このまま行きたい所もあったから良いけどね。ほんとに。
××××××××××
「たっだいまー」
寄り道を終えて家に帰った俺は、玄関に入るなり靴を蹴飛ばすように脱ぎ捨て床に寝転がった。
フローリングのひんやりした冷たさが疲れた体に染み渡る。気持ち良くて、このまま玄関で寝てしまいたい気分だ。
「おかえりー……って、なにその荷物」
「おー、渚も帰ってたのか」
いつまで経っても姿を見せない俺を怪しんだ妹の渚が、リビングからひょっこり顔を出していた。
どうやら妹も早く帰ってきていたらしい。
今日は生徒会で家に帰るのが遅くなると言っていた渚だが、すでに部屋着姿で口にアイスを咥えていた。
そんな暢気な妹は俺の両サイドに置かれたぱんぱんのビニール袋を見て、怪訝な顔をしている。
「ねえ、これ何買ってきたの?」
「何って食料にきまってるだろ? 色々たくさん買ってきた。緊急事態になってからでは遅いんだぞ?」
俺は下校の途中に行きたかった所──と言うよりも、行くべき場所に行って、しっかり用事を済ませておいた。
行ったのは勿論ショッピングモールである。
明日から未曾有のゲームが始まるのだ。必要以上の食料と、サバイバルグッズは必須と言っていいだろう。
「ふーん」
玄関まで来ていた渚が、俺の説明に興味ゼロの返事を返しながら、ガソゴソと袋を物色する。
「あ、幸せバターのポテチもらっていい?」
「いいけど、兄の食料を何でもかんでも食べるなよ」
「はいはーい」
妹は俺のビニール袋を二つ持つと、そのままリビングに戻ってしまった。
これからのために水や缶詰なんかを大量に買い漁ってきた俺だが、勿論お菓子を買うのも忘れていない。
やっぱり人間ってのは、体に良い物ばかり食べてもダメだよな。時には体に悪い物も食べないと。
その後、俺は二階にある自分の部屋へと向かった。
部屋に入り、ジャージに着替えると即座にスマホを手に取る。
スマホでする事と言えばもちろん情報収集。
本当は学校にいる時にしたかったのだが、校則でスマホは持ち込めない。
スマホを持ち込めないなんて、ボッチにはかなりキツい校則だ。
「お。CWがトレンド入りしてる」
SNSアプリを開くと、やはりCWの話題がトレンドに上がっていた。
どうやらこいつは世界中の全ての人に現れたらしい。
そのまま俺は、同じくトレンド入りしている『ガチャ』の結果も見ていった。
大勢の人が10連ガチャの結果を写真や箇条書きで投稿しており、その内容を簡単に知ることが出来た。
××××××××××
他人のガチャ結果を見るだけでも楽しいもので、気付いた時には夕方になっていた。
SNSに上がっていた大勢のガチャ結果を見たところ、分かった事がいくつかある。
まず、星アリと星ナシの割合は五分五分だった。これは学校での三人の結果と一致する。
そして、星アリのアイテムには<武具><道具><使い魔><称号><スキル>の五種類が存在する。
最後に、ガチャの最高レアリティーは星5だった。この星5のアイテムは排出率がかなり低く、調べても一人しか居なかった。写真付きで結果を投稿していたから、真実性は高いだろう。
その他にも、CWについても色々と調査したが、目新しい情報は無かった。
「ふー、少し疲れたな……」
スマホで凝った肩と目をほぐしながら時計を見る。すでに時刻は五時半を回っている。そろそろ夕飯時である。おなかの減りを感じた俺は、そのままリビングへと降りた。
「お、なんだまだ寛いでたのか」
リビングにつくと、妹がソファーに寝そべりながらポテチをつまみ、CWを難しい顔で見つめていた。
「やっぱり渚にも現れてたんだな、ソレ」
「ステータスウィンドウ?って言うんだって。クラスの男子達が騒いでた」
さすがは中学生。
アニメやラノベが好きなヤツだったら直ぐに気付く。きっと渚もそこから情報を貰ったのだろう。
「渚はもうガチャ引いたのか?」
「うん、でも全然いいの出なかったー」
渚はどこか悔しそうに言いながら、ソファーにだらしなく手足を投げた。
取り敢えず、何が当たったのか見せて貰おう。
「アイテム見せくれ」
「ん、いいよー」
ガチャで排出されたアイテムは、『アイテム』で見れるため、渚に操作してそこまで行って貰う。
ちなみにCWはその本人しか触れないようになっている。一条さんので実証済み。
「はい、出来たよ」
操作が終わり『アイテム』を見る。
妹のガチャ結果はと言うと──
────────────────────
☆☆ スーパーキューブ<道具>
囲碁盤
☆ 鉄の鎧<武具>
☆☆☆ 気配遮断<スキル>
国語辞典
輪ゴム
☆☆☆☆☆ 重力魔法<スキル>
☆ 毛皮の鎧<武具>
☆ 包丁<武具>
洗濯ばさみ
────────────────────
「え? コレめちゃくちゃ良くないか?」
どこに悔しがる要素があると言うのか。
俺が見てきたガチャ結果の中で一番良い。
最高レアリティの星5があるし、星3だってある。
「碁盤っていくらで売れるかな?」
「おい、渚も結局は金か」
「ねえ、お兄ちゃんのガチャで10万出たら私にちょうだい。最悪、ブランド品なら何でも良いから!」
「はいはい、当たったらな。……それより、父さんと母さんは?」
時計をちらりと見る。この時間に二人とも家に帰ってないのは少し珍しい。
「お母さんは夜勤が入ったんだって。お父さんは残業。テキトーにカップ麺でも食べといてってさ」
そう言いながら、渚がスマホで母さんとのトーク履歴を見せてくる。
父さんは相変わらずの社畜として、母さんに急な夜勤が入るのは珍しい。
そう言えば、CWの影響で事故が多発したと言っていた。
看護師として働いてる母さんの急な夜勤は、その所為かもしれない。
そんな事を考えながら夕食の準備をしていると、一つ大事なことを思い出した。
「あ。渚、一ついいか?」
「んー?」
「明日は学校休めよ」
「は?」
俺の言葉に、渚は信じられないものを見るような目で見てきた。
明日から謎のゲームが始まると分かってる。そんな中、暢気に学校など行ってる場合ではない。
今日の騒ぎで学校側が休みと判断すれば良いけど、その可能性は望み薄だろう。
「なんでお兄ちゃんがそんな命令するの? 意味わかんない」
明日起るかもしれない事を考えれば、妹がこの家に居ることは大切だ。
その事を詳しく説明しても良いが、渚がきちんと理解して受け止める可能性は限りなく低い。
だから俺は出来るだけ真剣な表情で渚を見つめ、
「理由はあした説明する。だから一日だけ休んでくれ」
そう口にした。
それでも渚は色々と言ってきたが、俺はその全て突っぱねた。
「んー、まあ分かった」
俺の真剣さが伝わったのか、最後には少しふてくされながらも、渋々といった感じで了承してくれる渚。
その返答に満足した俺は、晩飯のカップ麺を持って自分の部屋に戻った。
××××××××××
自分の部屋に戻ったはいいものの食事以外にやることが無い。
情報収集は昼間のでほとんど終わったし、CWで触れていない機能ももう無い。
勉強も今更する気にはなれないので、後はガチャを引くだけだ。
だが今はまだ引けない。
俺がガチャを引くのは、自分の運気が最大になる0時ちょうどじゃないといけないのだ。
俺はこの零時教によって、幾度となくスマホゲームでレアアイテムをゲットしてきた。だから今回もこのジンクスを頼りにガチャを引かせてもらう。
そんなこんなでやることが無く、スマホで再び他人のガチャ結果を見ていたら、いつの間にか時刻は0時を迎えようとしていた。
「よしっ、やるか」
ベットの上に正座して、すーっと一つ深呼吸をする。
CWのガチャ画面を開き、時計に意識を集中させる。
このガチャに今後の命運が掛かっているのだ。最高の結果にすべく、一秒一秒をしっかりとカウントし、
そして、0時まで5秒を切った。
「よし、いくぞ……4……3……2……1……──今だッ!!」
時計の全ての針が12に重なった瞬間、俺は勢いよくガチャを引いた。
今の運気は多分MAX。今日は一条さんといっぱい話せたから、運勢も悪くない。きっと良い結果になるはずだ。
すると──
「おお!! なんだコレ!?」
画面に初めて見る変化が現れた。
正面に描かれている銅の扉が虹色に輝きだし、左右の天使のラッパから金管楽器の盛大な音が響き渡ったのだ。
「か、確定演出!?」
これが出たと言うことは、確実に良いアイテムが当たる!
画面内の扉が重々しく開き、派手なエフェクトともにアイテムが一つ一つ表示され、そして10個のアイテムが全て出揃った。
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☆ 木刀<武具>
☆☆☆☆☆ 海神の三又槍<武具>
味噌ラーメン
☆☆ 鬼の牙<道具>
割り箸
☆☆☆☆☆ 天空神の雷霆<道具>
☆☆☆ 陽光玉<道具>
☆ ナイフ<武具>
延長コード
☆☆☆☆☆ 初回十連ガチャで全ての運を使い果たす者<称号>
────────────────────
「え? これマジ……?」
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