第5話 後悔と始まり

「え? これマジ……?」


 目をこすり、ガチャの結果をもう一度じっくり見る。


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   ☆    木刀<武具>

 ☆☆☆☆☆  海神の三叉槍<武具>  

        味噌ラーメン

  ☆☆    鬼の牙<道具>

        割り箸

 ☆☆☆☆☆  天空神の雷霆<道具>

  ☆☆☆   陽光玉<道具>

   ☆    ナイフ<武具>

        延長コード

 ☆☆☆☆☆  初回10連ガチャで全ての運を使い果たす者<称号>


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「星5が三つもある……のか?」


 確定演出が出た時点で星5のアイテムが来るかもと期待していたが……完全に予想の斜め上をいってる。

 信じられない。まさかの神引きとは……!


 取り敢えず、『アイテム』で詳しく見ていこう。

 まずは「海神の三叉槍」。<武具>と書かれた星5のアイテム。

 興奮に震える指でアイコンをタップすると、小さなテキストウインドウが出現した。


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「海神の三叉槍」<武具>

 ☆☆☆☆☆

海神の力を宿した三叉槍。

神々の武器の一つであり、海と陸を支配する権能を持つ。

──ギリシャ神話シリーズ──

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 これって、もしかしなくても有名なヤツだよな?

 海と陸を支配するギリシャ神話の神が使っている武器────トライデント。

 まさか、こんな有名な武器がガチャから出てくるとは思ってもみなかった。

 さすがに本物だとは思わないけど、神々の武器をモチーフにしたアイテム。強力に違いない。


 よ、よし。次はもう一個の星5アイテムを見てみよう。

 次のアイテムは「天空神の雷霆」と書かれている。


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「天空神の雷霆」<道具>

 ☆☆☆☆☆

天空神の力を宿した魔石。

神々の武器の一つであり、あらゆる天候を支配する権能を持つ。

──ギリシャ神話シリーズ──

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 これも同じ「ギリシャ神話シリーズ」。

 まさか、ギリシャ神話最強の二柱のアイテムが手に入るとは。何という強運。

 もしかして俺は明日死ぬのだろうか。逆に怖くなってきた。


 しかも驚くことに、星5のアイテムはあと一つある。

 他の二つと違って長ったらしい名前に<称号>との文字。

 ネーミングから漂うネタ感がすごく強いが、取り敢えず調べてみよう。


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「初回10連で全ての運を使い果たす者」<称号>

 ☆☆☆☆☆

初回10連ガチャで圧倒的な強運を発揮した人物に贈られる称号。

確率の壁を越えた引きを実現する事が出来る。ただし初回10連だけ。

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 なんだこのふざけた称号は?

 説明文を読んでも訳が分からない。

 たしかに、俺は星5の武器を二つも引き当てた。それは最早、強運としか言えない。

 だが、それで俺は運を使い果たしたのだろうか?

 やっぱり死ぬのかな、車とかに轢かれて。


 その後、他のアイテムも一通り調べてみた。

 だが、どのアイテムも星5の武器を超えそうな感じはしない。

 『天空神の雷霆』と『海神の三叉槍』があれば、無用の長物だ。


 あと星ナシのアイテム『味噌ラーメン』をタップしたところ「使用しますか?」と表示され、「はい」を押すと味噌ラーメンの袋が目の前に突然現れた。

 ガチャで手に入れたアイテムは、タップ一つで現実世界に持ち込めるらしい。

 しかし星アリのアイテムの場合は、現界は出来なかった。

 これらはゲームが始まってから手にすることが出来るのだろう。


「もうこんな時間か……」


 ふと気になって時計を見ると、いつの間にか時刻は一時を超えていた。

 夢中になってアイテムを調べていたせいで時間が早く過ぎたのだろう。

 意識すると、一気に疲労が押し寄せてきた。


「もう寝るか」


 明日は学校をサボるつもりだから夜更かししても良いのだが、今日は色々あり過ぎて疲れた。

 俺はCWを消すと、直ぐに布団に入り深い眠りについた。


 ××××××××××


 目が覚めたのは、9時過ぎだった。

 いつもなら学校へ行くため7時半には起きるのだが、今日は違う。

 初めて学校をサボった。


「ステータスオープン」


 別に声に出す必要はないけど、雰囲気で言ってみる。

 CWはきちんと呼び出せた。

 昨日の出来事が嘘でなかったと改めて自覚させられる。

 画面は、初めて現れた時と同じようにカウントダウンを刻んでいた。

 数字は今も減り続けている。現在の残り時間は、


 02:35:20


 カウントダウンが0になるまで、あと2時間半。


「さて、下で朝飯でも食べるか」


 俺は動きやすい格好に着替えて、自分の部屋を出た。

 謎のゲームが間近に迫っているというのに、不思議と緊張感はない。

 いつも通り家でぐっすり寝れたからだろうか。

 それに妹も今日は学校をサボって家に居るだろうし、予想外の事が起きても二人でならなんとか乗り切れそうだ。


 そんな事を考えながらリビングに降りると、電気が付いておらず、窓からの朝日が部屋を薄く照らしていた。

 あれ、渚はまだ寝ているのか?

 いつも早起きなのに珍しい。休日でも朝の七時には起きてるというのに。


 なんか嫌な予感がする。

 取り敢えず、妹の部屋に行って扉を叩いてみる。


「おーい。まだ寝てるのか?」


 …………

 返事がない。

 ゆっくり扉を開くと、部屋に妹の姿はなかった。

 念のため玄関に行ってみる。妹の通学靴が無くなっていた。


「おい、マジか……」


 昨日、学校をサボれとあれだけ言ったはずなのに、妹はしっかりと学校へ登校したようだ。

 今から学校に電話して帰してもらおうか?

 ……いや、上手い言い訳も思いつかないし、第一、妹にサボる気が無いのなら俺が何を言っても無駄だろう。


 考えてみれば当然の話である。

 両親ならまだしも、妹が兄である俺の言うことを聞く義理などどこにもない。

 それが学校をサボれなどという非行を薦めるお願いなら尚更。あいつ生徒会だし。

 結局どうすることも出来ずに、俺は朝食をとって自分の部屋に戻った。


「くそッ……!」


 俺は自分の不甲斐なさに、マットレスを殴りつけた。

 今になって分かった。結局俺は、完全には信じていなかったのだ。

 突然現れたCWに、SFじみた『ガチャ』。それにCWから読み取れる情報の数々。

 これだけ非現実的な物が揃っているのに、俺はいつもと変わらぬ日常が続くのではと、心のどこかで思ってしまっていた。

 いや、正直に言ってしまえば、今も少しだけ思っている。

 部屋のベランダから外を眺めると、いつもと変わらない日常が広がっているのだ。

 本当に何の変哲もない、俺が17年間暮らしてきた平穏な街の風景だ。


 これが変わってしまうなど、一体どうやって確信を持てばいい?

 想像するのは難しく、信じきるのはもっと難しい。


 もし本気で信じていたなら、俺は両親にも家に居るようお願いしていたはずだ。


「今更後悔しても遅いか……」


 妹の心配は残るものの、学校にいるのならまだ安心できる。


 自分の頬を軽く叩き喝を入れると、俺はCWを開いた。

 画面に映る数字は、もう少しで0を迎える。

 俺は出来るだけの準備を済ませて、静かにベッドへ座った。


 これから始まるのは多分、未曾有の災害ゲームだ。

 今までの日常は終わりを告げ、きっと全ては混乱と破壊のうちに変わってしまうだろう。

 例え今は想像が出来ないとしても、どんな危険な事が待ち受けているとしても、俺は必ず生き延びてみせる。


 その決意だけは、しっかりと胸に刻む。


 ー00:00:00ー


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    《ジェネシス・ワールド》


    第一部 《獣たちの狂乱》編


    第一章「エリアボス襲来」


        開始スタート

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