第2話 ジェネシス・ワールド

 てことで俺は一条さんと一緒にステータスウィンドウのメニューを調べることになった。

 調べるといっても順に見ていくだけだし、有力な情報があるとは限らないが……何もしないよりはマシだろう。


 まずはホームから見ようと、メニューバーのホームボタンをタップする。

 画面はすぐに切り替わった。


 ホームの画面は意外とシンプルだ。

 画面全体の背景は黒から電子的な薄い青色に変わり、ボタンやアイコンがいくつか出現した。

 左上の端には三つの小さなアイコン。それぞれにイラストが描かれている。

 右側の中央には横長のボタンが一つあるだけ。左側の三つと違ってこのボタンには何も書かれていない。真っ白だ。

 押してみても何も起きないし、何か起こりそうな気配もない。よく分からん。


「この絵は何を意味するのかしら?」


 どうやら一条さんのホーム画面も俺のと全く同じもののようで……一条さんの指の先には、左端の三つのアイコンがあった。

 それぞれにメガフォン、剣、プレゼント箱のシンボリックなイラストが描かれている。

 これはゲームでは定番のヤツだろう。

 メガフォンがお知らせで、プレゼントがアイテムの受け取り、剣は……剣はよく分からん。


「これも順に見ていこう」


 メガフォンのマークをタップする。

 新しいページが開いた。

 想像した通りお知らせのページだが、意外な事に一件だけ通知が入っていた。

 通知のタイトルには『【重要】ジェネシス・ワールド カウントダウン開始!』 と書かれている。

 重要という文字に俺はごくりと唾を飲み込んだ。

 多分、この通知もタップすれば開けるだろう。

 さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。


────────────────────

【重要】ジェネシス・ワールド カウントダウン開始!


この度、現実世界での新作ゲーム『ジェネシス・ワールド』をリリースすることとなりました。

リリースまで残すことあと1日となりましたので、カウントダウン開始を全プレイヤー様へお知らせします。


また、カウントダウン開始にあたり、『ジェネシス・ワールド』の新規プレイヤーの皆様にスタートダッシュキャンペーンを行っております。

キャンペーンのプレゼント内容は以下の通りです。

 ・コントロールウィンドウ

 ・ノーマルガチャ 10連チケット


今後とも『ジェネシス・ワールド』をよろしくお願いいたします。

────────────────────


 なんだこれは……

 重要なお知らせというから身構えたが、分からないことがさらに増えたぞ。

 思ったより文章が少ないし、必要最低限の事しか書かれてない感じだ。


 まず一つ言えることは、このステータスウィンドウ(お知らせではコントロールウィンドウと書かれている)は、運営から贈られたプレゼントと言うことだ。

 何故必要なのかは書かれていない。

 そして次に気になるのは『ジェネシス・ワールド』と言う単語。

 前の文章には、「現実世界での新作ゲーム」と書かれている。

 なら、ステータスウィンドウが突然現れたことと、謎のカウントダウン。この二つが『ジェネシス・ワールド』という新作ゲームに関連してると見て間違いないだろう。

 そしてゲームの開始が一日後に迫ったとある。

 最初の画面に表示されていたカウントダウンは、ゲーム開始までの時間を表していたという訳だ。

 カウントダウンが0になった時、『ジェネシス・ワールド』なるゲームが開始される。

 多分、ゲームというからには今の日常からかけ離れたナニカが起こるのは明白だ。


「よく分からない言葉が沢山あるけど、これがコントロールウィンドウって言うのだけは分かったわ」


 いつになく難しい顔の一条さん。

 確かに、ステータス以外の機能があるのなら、ステータスウィンドウと呼ぶのもおかしな話か。

 俺もお知らせにならってコントロールウィンドウと呼ぶことによう……長いからCWでいいや。


 よし、そうと決まれば今度はプレゼントのページだ。

 タップして開いてみる。

 お知らせにあった通り『ノーマルガチャ 10連チケット』の文字があった。

 タップしてみると「受け取りますか?」と表示され、文字の下に「はい」「いいえ」のボタン。

 もちろん「はい」だ。


 それにしても、この二つだけを見ても、やはり仕様はスマホゲームに酷似してる。

 お知らせにプレゼントの受け取り。

 どちらもゲームには欠かせない機能だ。

 だが、最期の剣のマークだけがよく分からない。

 タップして開いてみても、何も書かれていない空白の小ウィンドウが展開されるだけだ。


 けれど嫌な予感はする。

 剣から連想できるのは大抵、争いや勝負と言った血生臭いものだ。

 それに似たような事が今後、ゲームとして待ち構えているのかもしれない。


「どうしたの? 突然思い詰めたような顔して」


「いや、何でもない。多分思い過ごしだと思う」


 ……そうだな。まだ戦いが始まると決まったわけじゃない。

 これだけの情報で決めつけてはダメだ。

 お知らせには新作ゲームと書いてあった。ゲームにはバトル以外にも色々ある。クイズやパズル、カードを使った頭脳ゲームだ。

 これなら殺し合いなんて起きないし、血も流れる事はない。安全で楽しいゲームだ。

 え? 今際の国のア○ス? なんだそれ、知らん。


「そう。それじゃ次見ていきましょう」


「ああ。えーっと、次は……ステータスか」


 メニューバーを開き、ホームの横にあるステータスのボタンをタップする。


────────────────────

 名前:北原 弓弦

 レベル:1


 体力:10

 筋力:8

 耐久:7

 魔力:11

 敏捷:5


 スキル 0/10


 使い魔


 称号


────────────────────


 マジか……

 筋力とか魔力とか、めちゃバトルじゃん。殺し合い始まっちゃうじゃん。

 ステータスって文字から薄々勘付いてはいたが、これで『ジェネシス・ワールド』がバトルゲームである可能性は高まった。

 スキルや使い魔の文字からファンタジー感溢れてるけど、危険なゲームとなると素直に喜べない。


 いや、待てよ。

 使い魔って項目があるという事は魔物が出るという事だろうか?

 それなら話は違う。クラスメイト全員にCWが配られた時点で、俺はてっきり人間同士で殺し合うデスバトルだと思っていた。

 けれど、もしかすると魔物を狩るハンティングゲームかもしれない。

 それならまだマシだ。まぁマシと言っても気休め程度だが……それでも人間同士で殺し合うよりずっと良い。


「なんだか物騒な単語が並んでるけど、これどう思う?」


 うーん。どう思うって聞かれてもな……

 今俺が想像してることを説明してもいいが、一条さんが信じてくれるかどうか。

 魔物が出るとかバトルするとかは、今はまだ俺の妄想でしかない。

 可能性は高いだろうが、それを説明したとしても変な奴だと思われそうだ。


 なんと言って説明しよう……


 ××××××××××


「なるほどね。これからモンスターが現れるかもしれないと」


「いやまあ、あくまで想像の話だから絶対にとは言い切れないけど」


 結局、上手い言い訳も思いつかなかったので、一条さんに素直に話した。

 話してる途中で小馬鹿にされるかと思ったが、一条さんは意外にも真剣に耳を傾け、俺の話を理解しようとしてくれてるみたいだった。


「レベルが上がれば筋力とかの数値も上がっていくと思うよ。あとスキルも結構重要かも」


「そういうものなのね」


 そんな風に次はステータスに書かれている項目について説明していると、突然教室の扉が開かれた。


「おーい、お前ら一旦席に着いてくれー」


 担任の原田先生だ。

 先生が教室に入ってくると、今まで騒がしかったクラスメイト達は直ぐに静かになった。


「皆も気になってると思うが、さっき出現した謎の物体の事で先生たちは職員会議をしてきた。その事について話すぞー」


 さっきまで教室に先生がいなかった理由はそれか。


「先生達が調べたところ、外はこの謎の物体の影響で少し混乱しているらしい。それで、学校側が安全と判断した時点で、各学年ごとに順番に下校する事になった。親たちからの心配の電話も鳴り止まないしな。勿論、部活動も無し。放送があるまで教室で待機だ」


 先生の説明を聞いてクラスメイトたちは一気にざわついた。

 CWが現れたのは、この学校に限った話じゃないということか。

 それにしても外はそんなに危険なのだろうか。


「あー、混乱と言っても心配するほどのものでもないから安心しろ。ちょっと車の事故が多発したって程度だ。多分、すぐに帰れるようになる。あと、心配だったら親御さんに電話もかけて良いから。じゃ、五限の授業はこれで終わり。休み時間の後は時間割通りに教室にいるように」


 そう言うと、先生は教卓の椅子に腰掛けた。

 教室が静かになって気付いたが、確かにサイレンの音がちらほらと聞こえてくる。

 先生は心配するなといったが、これでは難しいだろう。

 ま、昼間のこの時間、両親は職場内で仕事してるから多分大丈夫だ。妹も学校にいるし。


「せんせー、この変なやつが邪魔で前が見にくいんですけどー」


 と、クラスの長谷川くんが呑気な声で質問する。


 あ。確かにソレについては考えてなかった。

 出現した時からCWは視界の真ん中にある。

 前が見えないほどではないが、どこかへ移動したりするには少し危ない。

 CWは突然現れたから、消し方が分かる人なんているとは思えないし。


「あー、それなら大丈夫だ。消えろって頭で念じれば消えるから」


「ま、マジっすか……?」


「今まで職員会議で先生たちはソレについても少し調べてたんだ。危険性は無いって分かったし、消せることも判明した。安心しろ」


 先生はデモンストレーションに、その場でCWを出したり消したりしてみせた。

 おー、とクラスから控えめな驚きの声が上がる。

 先生たちもただ会議してたわけじゃないらしい。消せること以外の機能は流石に分からなかったみたいだけど、それでも危険性の有無や消し方が分かっただけでも大きい。

 俺もCWについてもう少しちゃんと調べよう。と、その前にトイレへ行くか。


 俺は先生が言ったやり方でCWを消すと、トイレに行くために席を立った。

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