初回10連ガチャで全ての運を使い果たした俺は最強になれますか?
緒方 悠
第1話 崩れ去る日常
「お、おい……なんだコレ……!?」
五限目の授業中。教科書を読むふりをしながら、うとうとと眠りこけていた俺はそんな声で目を覚ました。
誰かの困惑したような声に、絶え間ないざわめき。授業中だというのに教室はやけに騒がしく、そこら中からひそひそと話し声が聞こえてくる。
いったい何事だ?
「ねぇ、これって幻覚じゃないよね……?」
「いきなり出てきたぞ」
「なんなんだ?」
うるさくて寝れないな……
普通なら黙々とノートをとっている時間のはずで、決して喋っていい時間ではない。
それなのに教室は謎の喧騒に包まれていた。
「おい、これヤベーって! マジヤベーって!!」
陽キャの長谷川君の声が特にうるさいな。
ヤバいヤバいって、いったい何がヤバいんだ?
不思議に思い顔を上げると、
「え……?」
俺の目に飛び込んできたのは、宙に浮いた謎の黒い物体だった。
は…………?
意味が分からん。
もしかして俺はまだ寝ぼけているのだろうか。
ごしごし。目をこすって再び前を見る。
うん。やっぱりあるね。
……え? ナニコレ?
居眠りしてて起きたら、目の前に変なのが浮かんでんだけど。
軽いホラーだぞ。
「ふー……落ち着け俺。こういう時こそ冷静になろう」
まずは状況の確認からだ。
取り敢えず周りを見る。
……なるほど、クラスメイト全員に俺と同じモノがある。さっきから騒がしいのはこの所為か。
みんなの様子から察するに、誰もこの物体の事を知らないみたいだ。
「少し怖いが……ちょっと観察してみるか」
取り敢えずこの謎の物体を色んな角度から覗く。
まずは正面から。
やはり正面からではただ黒いとしか分からない。横長の長方形で、大きさは学校の机より少し小さいぐらいだ。
次に右、左と見ていく。
首を動かし左右を見ようとすると、ある一定の角度を境に謎の物体が顔に追従してきた。少し驚いたが、ちらりと見えた感じではこの物体はかなり薄い。多分1cmぐらいだろうか。驚きの薄さ。
次は上、下。
やはりと言うべきか、この物体は浮いている。細い紐で吊るされたりとか、透明な台に乗ってるとかではない。確実に浮いてる。
……うん、わかった。
と言うか調べる前から薄々感づいていたが、コレはあれだ。
VRMMOとかでよく見るステータスウィンドウにそっくりだ。
てかもうそれだろ。
「はは……やっぱ夢か?」
もちろんここはゲームの中じゃない。現実だ。
ステータスウィンドウなんてある訳ないし、夢だと言った方がまだ納得ができる。
「いいえ、これは紛れもなく現実よ」
と、俺の呟きに隣の席の一条さんが反応した。
独り言聞かれてたのか……恥ずかしい。
ちらりと横を見ると、一条さんは優雅に落ち着いて座っている。
流石どこかのご令嬢と噂の一条さん。
そんな彼女にも勿論ステータスウィンドウが存在しているわけで…………て、あれ?
「一条さんのなんか俺のと違ってない?」
彼女のステータスウィンドウをちらりと覗く。俺の画面は真っ黒だが、彼女のには中央に白文字で数字が表示されていた。
なぜ俺のと違うんだ?
「これは触ったら出たの」
「マジ?……よく分からないコレを触ったの?」
こくりと頷く一条さん。
一条さんの知識にステータスウィンドウなんてものはないだろうし、触るだけでもかなり勇気が必要だったはずだ。
まぁ彼女のお陰で触っても大丈夫だと分かったのは大きい。
……大丈夫だよな?
「タッチしてみるか……」
恐る恐る人差し指を近づける。
すると、壁にでも触れた様な感触があり、俺の画面にも数字が表示された。
どれどれ、画面を見てみるか……表示された数字は23:43:56と書かれてる。
いや、56が55に変化した……次は54。
どうやら1秒ごとに数字が減っていってるらしい。てことは単純に考えると、これはタイマーだろうか。
23が時間で43が分、次が秒を表している。そして0になったら何が起こる。
何が起こるかは分からないが、このステータスウィンドウが関係しているのは確かだろう。
まぁ予想は色々できるが、判断材料が少ないからなんとも言えない。
と、まあ、分かるのはこれぐらいか。
うーん。それにしてもこのステータスウィンドウの性能はこれだけだろうか?
カウントを刻むだけ?
いや、そんな事はないはずだ。
これほどの技術を使っておいて数字だけを表示させるなんてもったいなさすぎる。
もっと他にあるはずだ。
こう、俺のHPとか魔力を表示してくれるようなヤツが。てかあってくれ。たのむ。ファンタジー的なの!
心の中で手を合わせながらステータスウィンドウの画面を色々いじる。すると、
「おお……!!」
ステータスウィンドウを下から上へスワイプした途端、画面下からメニューバーみたいなのが飛び出して来た。
早速何が書いてあるのか見てみよう。
6つの項目があった。左から、『ホーム』『ステータス』『アイテム』『ガチャ』『フレンド』『レギオン』
「……これって完全にスマホゲームじゃん」
『ガチャ』だとか『フレンド』だとか、ちょうど俺が今やってるスマホゲームのメニューにそっくりだ。
なるほど。それなら『ガチャ』の存在も頷ける。
てことはあれか。このステータスウィンドウはMMORPGと言うよりスマホゲーム寄りの仕様なのか?
まさかな……。確かに今の時代、スマホゲームの方がユーザー人口は多いだろう。
だけど、ガチャのシステムを導入すれば運ゲー色が強くなるぞ。 課金か。課金させるのか?
「……ん?」
俺がステータスウィンドウに意識を集中し、ガチャの文字を睨んでいると、一条さんに肩を人差し指でつつかれた。
彼女は、俺のステータスウィンドウを興味深げに見つめていた。
「それ、どうやって出したの?」
「ん? ああ、これはスワイプしたら出てきた。自分もまだ良く分かってないけど……」
どうやら一条さんも気になってはいるらしい。
落ち着いた雰囲気は変わらないが、初めて向こうから話しかけてくれた。いつもならこっちから話題を振らないと喋ってくれないのに。
まぁこんな状況だから仕方ないのかも知れないけど。
「す、すわいぷ……?」
「あ、知らない感じ? こう、スマホでやるみたいに指で出来るよ」
ジェスチャーを交えて一条さんに説明する。
「ごめんなさい。私スマホ持ってないの。ガラケーだから……」
う、嘘だろ……信じられん。
一条さんってお嬢様だよな? スマホなんて十台ぐらい持ってそうだと思ってたんだが。まさかのガラケー派とは。
もしかして意外と厳しいご家庭なのだろうか? スマホは勉学の邪魔になるからダメだと。
十分あり得そう。
仕方ないので俺がやるところを見てもらう。
それで理解できたのか、一条さんは「こうかしら……」と呟きながら慣れない手つきで真似をした。
意外な一面だった。
一条さんってあんまり喋んないし、クールに何でもこなすイメージがあったけど、案外不器用なところもあるんだな。
電子機器に弱いお嬢様か…………うん、普通にベタだな。
「ここに書かれてるの、どういう意味があるのかしら」
「────ッ!?」
一条さんの意外な一面に気を取られていると、メニューバーを広げた彼女が質問すると同時、自然な流れで机をくっつけ、俺の真横に移動してきた。
な、何だこれ。高校入学から一年半、何もなかった俺の青春が突然始まりそうだ。
ありがとう、ステータスウィンドウ……!
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