第2話 天才的な嘘

 人間は歳を取ると怒りっぽくなる。ひせ婆さんも例外ではない。突然、目が闇に落ち、男梅のように顔中のシワがグワっと中心に集まる時がある。

(あ、やばい)

そういう時は、そんな感想が頭を駆け抜ける。

 その日は、朝からひせ婆さんの機嫌が悪かった。スンイチは、雰囲気を察して接触しないようにしていた。

しかし、お構いなしと男梅婆さんが近づいてきた。

「あんた、ズボンが裏返しになってるよ。反対に着てるよ。」

突然の言葉に一瞬躊躇したが、スンイチは自分のズボンに目を落とし、間違っていないことを確認した。 

「しっかり着てるけど?」何を言ってんだと思いながら聞いた。

ひせ婆さんは、淡々と答える。

「そう言っておけば、あんたがズボンを裏返しにして着ると思ったんだけどねぇ」

機嫌が悪いばかりに孫に訳がわからない嘘をついて遊んで来たのである。

「いや、流石に俺もそこまでバカじゃ無いぞ…」

「かっかっかっ。」

スンイチの呆れ返った言葉など気にせず、ひせ婆さんは気が済んだのか自分の部屋に戻って行った。


——婆さん孫はおもちゃじゃ無いぞ。

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