第9話

 新幹線から普通電車に乗り継いで、ようやく地元の駅に着いた。

 わたしが子供の時よりも、駅舎は豪華になり、周りもかなり栄えたようだが、それでも都会の喧騒には遠くおよばない。それがノスタルジックな良さでもあり、さっきまで思い出していたようなステレオタイプな面を感じさせてもいる。

 駅前に車が停められている。姉の渚の物である。こちらに気づいた姉は、中から手を軽く振った。


「迎えに来てくれたん?」


「あんたが着くくらいの時間、バス無いみたいやったし」


 わたしは後部座席に座った。

 駅から実家までは、車で10分かかるかどうかくらいだ。走り出してから、姉がバックミラーでちらっとわたしの顔を見た。


「何か考えてたん? 顔暗いで」


「樹の結婚式のことをね」


「ああ、大体分かったわ」


 姉はわたしが何を悩んでいるのか、おおよその見当がついたようだった。


「あんたの気持ちも分かるけど、お父さんもお母さんも、あんたが心配なんでしょ。そこは理解してあげな」


「やと思うけど……」


 窓の外を見ながら考える。そりゃあ、二人が心配するのも分からなくはない。でもこれはわたしの人生なんだから。

 ふと気になることを姉に訊いてみた。


「お姉ちゃんってなんで結婚しようと思ったん?」


 わたし達三姉妹は三つずつ歳が離れていた。だから姉の渚は30歳、妹の樹は24歳。しかも三人とも八月生まれである。

 姉は25歳で結婚した。現在は4歳の娘と2歳の息子を持つ母親だ。


「理由? せやなあ……こういうのって理由っているん?」


「だって気になるやん?」


 姉は少し考えてから言った。


「なんやろ……びびっと来たから?」


 よく聞くやつだ。びびっと来たから。姉の夫は姉の大学時代の同級生だ。ということは、知り合った時にはびびっと来たのだろうか。


「ほんまにそんなことあんの?」


「言ってみただけ。会った時は何とも思わへんかった」


 こっちとしては真面目に訊いたつもりだったのだが、しれっとごまかされたような気がした。


「でも好きなんやろ?」


 そう訊かれた姉は、笑った。


「昔はね。子供ができたらあの人の嫌なとこが目についてうっとうしくなってくるから」


「そういうもんなん?」


「不思議やな。女は子供ができたら強くなるって言うけど、まさかわたしもそうなるとは思ってへんかった」


 もし本当に結婚することになったら、わたしも姉が言うように強くなるのだろうか。そもそも結婚自体が考えられないことだが。


「そんなこと訊くってことは、結婚したい相手でもいるん?」


「ちゃうよ。また二人からとやかく言われるんかなって」


「まあしゃあないな。さっきも言ったけど、あんたを心配してくれてるんやから分かってあげて」


 そこから実家に着くまで、車内は沈黙に包まれた。

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