第7話
帰省を理由に忘年会不参加を表明した手前、何となく申し訳なくなったわたしは、仕事納めの日に有休を取り、例年より早く実家に帰ることにした。
有給の使用をあまり良く思っていない和泉部長だが、さすがに今回は忘年会不参加の理由ということもあったからか、あっさり認めてくれた。
ちなみに、忘年会は不参加者多数により行われないこととなった。参加表明をしたのは、生真面目新人高林君のみだったそうな。
いつもなら大晦日の前に帰省するからか、新幹線を予約を取るのも一苦労だったのだが、今年はいつもより早い上に、その日というのも仕事納めの日である。他の会社でも同じようなものなのだろう。あっさり希望通りの新幹線の席が取れた。
さて帰省当日。
乗車予定の新幹線に乗ると、車内はガラガラ、言っては何だが、予約を取らなくても自由に吸われたのではないかと思うほどだ。
一応予約しておいた窓際の席に座る。持っていた荷物を横の席に置いた。誰か乗ることがあれば退けるつもりだったが、結局最後までここに座る人はいなかった。
ふと普段の通勤のことを思い出した。
いつも私は電車に乗って職場に向かう。本当は職場に近い場所に部屋を借りたかったのだが、東京の家賃は高い。少しでも安い場所を借りれるように、23区郊外で住み心地の良さそうな場所を探した。
その結果、自宅から職場まで電車で30分ちょっとかかることとなった。
その30分間、わたしは座れたためしがない。そして目的地が近くなるほど、わたしのパーソナルスペースが狭まれていくのだ。まさに満員電車だ。何が恐ろしいって、全盛期の乗車率の頃は、映像で見たような駅員が電車に乗り込む乗客を必死に押し込んでいる様が毎日見られていたのだという。今は自転車通勤の普及もあってそこまでひどいことはないらしいが、いやいや、これでも充分に過剰荷重だと思う。
帰りも帰りで座れたことがない。満員ではないものの、ほぼほぼ席は座られてしまっているし、ようやく座れるスペースができたとしても、その頃にはもうすぐ目的の駅という始末。
これを思い起こしながら、今の新幹線の席にゆったりと座る。こうして隣の席に荷物を置けるのも、いつもの通勤なら考えられないことだ。
座ったまま、大きく手を上にあげて伸びをした。こんなことも、普段の通勤ならまずできないことだ。
本当は眠りたかったが、この時間を堪能したいがためなのか逆に眼が冴えてしまった。窓の景色でも楽しむか。
そう思っていたが、わたしは急に冷静になってしまった。こんなに楽しんでいるが、今から向かうのは実家なのだ。ここ数年、実家に帰るのが憂鬱になっていた。別に親や姉妹から嫌がらせを受けているというわけではない。いや、ある意味嫌がらせかもしれないが。
窓から富士山が見えた。それを見たわたしは、富士山のせいでもないのに思わずため息をついた。
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