第3話

 働き方改革推進派は、社内のテレワーク化を推している。服飾を扱っている都合上、実務にまつわる部署での取入れは難しいそうだが、書類仕事を中心に無駄な会議や出社を失くそうとしているらしい。

 つまり、わたし達経理部はターゲットの一つというわけで。

 まあでも昔気質の和泉部長がそう簡単に同意するはずがない。


 この流れを進めているのは、総務部に所属する原田部長である。働き方改革という言葉が叫ばれるようになってから、率先して社内改革に乗り出した一人だ。

 ハラスメント対策部の設置、男性社員の育休取得環境の整備、有給取得の推奨化、等々、ざっと思いつくものでもこれだけある。

 今では時代の流れもあり、上層部も彼の味方になっている。

 原田部長は定期的に経理部へ顔を出し、和泉部長に説得を試みている。

 おもしろいのは、二人が同期入社だということだ。


「考えはまとまりました?」


 原田部長はたとえ同期であっても敬語を外さない人物である。


「そうは言ってもなあ、仕事をするのに会社に来ないって言うのは、どうも……」


「ずっと家にいろって言うわけじゃないんです。必要な時には出社してもらえばそれでいいんです。総務部ではお子さんのいる社員さんを中心にとっくに始めてますから」


「ただ、それがうちの部でできるか……」


「事務仕事の部署から率先して動かないと。これが軌道に乗れば、実務に関わる部署でも動きやすくなるんです」


 こういうやり取りが以前からずっと続いている。和泉部長が渋るのは、色々理由はつけているものの、結局自身への変化を恐れているだけに過ぎない。こいつがファッションと縁遠い経理部に回されたのも、こういうトレンドに乗れなくなってあがいているだけなのを見限られたからだろう。

 そういえば我が社の定年延長化も原田部長の推進だったっけ。もし原田部長がいなかったら、もう五年もしないうちにここからおさらばしていたかもしれないということを、和泉部長は理解してるのだろうか?

 してないだろうな。しててもそんなことでお礼を言う人じゃないし。

 でも別にそれをだしに使おうとは原田部長はしない。この人が経理部に来てほしかったなあと思う。





 それにわたしはとっくの昔にリモートの生活を始めているのだ。

 今日は高校時代の友人と飲み会だ。だがみんな住んでる場所も生活環境も違うから簡単には集まれない。

 だからリモートを使って飲み会をする。不定期ではあるが、これがわたしのストレス発散の一つだ。ここでもわたしは基本的に聞き専だが、会社の先輩と喋ってるよりも心地がいい。

 パソコンの画面には、わたしの窓も含めて五つの部屋が映っている。みんなお酒を片手に好きなように話していた。


「こうやって飲んでると思いだすんやけどさ」


 場が盛り上がってきたところで、珍しく私から話題を振った。


「珍しいなあ、灯から話題が出てくるって」


 今日のメンバーの中でも特に仲が良いのが、今こう言ったひかりだった。彼女は唯一、中学校から一緒にいる親友である。


「前に和泉って部長がいる話したっけ?」


「したした。その人がどうしたん?」


 わたしは和泉部長と原田部長の話をした。聞き終わった四人は爆笑すると同時に和泉部長を批判した。


「同期にすら言われてんのに、どんだけ頭固いねん!」


「灯もよう耐えてるわあ」


「でもいるわ、うちの会社にも。この前部長がな」


 そうして別の友達の話題に移った。その人はセクハラ上等で、若い女子社員に「髪型変えたの?」とか「彼氏できた?」とか聞いてくるらしい。

 これを聞いて、和泉部長が浮かんだ。


「それ、和泉もやわ」


 わたしのこの言葉で、また四人は大うけした。


「はい、アウト~。コンプラ違反待ったなし~」


 親指を立てて、星が楽しそうに言った。


 これは飲みの場だから、仕事と一緒にするのがあれだが、リモート慣れしてる私からすれば、テレワークも悪くないように思うのだが。

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