第四章 異界 怨霊街にて

 第四章 異界 怨霊街にて


「お待たせ致しました。どうぞ、こちらへ」


 茨木童子から、異界の素材をふんだんに使った会席料理の準備が整った事を知らされ、一行は宴の場に向かい、ぞろぞろと廊下を行く。


「お願いがあるんですけど」


 晴明狐は、途中、茨木童子の横に並んで話しかけた。


「はい、何でございましょう?」


 茨木童子は愛想よく返事をした。


「この街の、怨霊街の地図があったらもらえますか? もし地図がなければ、この辺に何があるのか教えてもらいたいなと」


 晴明狐が地図を求めたのは、微笑みの君を探す為だろう。


「判りました。それでしたら、このまま宴の間に行きましょう」


 茨木童子は笑顔を崩さずに言った。


「俺達は怨霊街について詳しく知りたいんだけどな?」


 重太郎は晴明狐の意図するところが伝わっていないと思い、助け舟を出すように言った。


「明日辺り怨霊街を巡ってみようと思っているんで、人間の女性に人気があるお店や名所があれば教えてもらえればなと」


 晴明狐は重太郎に乗っかるように、更に質問した。


「この宿には、全部で、十三のお座敷がございます」


 茨木童子はまるで耳がついていないかのように話し始めた。


「十三のお座敷はそれぞれ怨霊街の名所に繋がってますから、どのお部屋を訪れたとしてもきっと楽しんで頂けると思いますよ」


 茨木童子は笑って言った。


 十三ある座敷の一つ一つを知る事が、そのまま怨霊街を知る事になると言いたいらしい。


「ほう?」


 重太郎は感心したように言った。


「こちらが一番目のお座敷、『睦月の間』にございます」


 茨木童子は『睦月の間』の、松竹梅が描かれた襖をするすると開けた。


「こいつは面白いな!」


「すごいねー!」


「うーむ」


 重太郎と晴明狐は賞賛し、草取は思わず唸った。

「…………」


 ただ一人、黒龍だけは値踏みするように見やる。


『睦月の間』、松竹梅が描かれた襖が開いた向こう側を——不思議な事に、門松、松飾り、鏡餅が飾られ、赤い小紋を着た鬼の童達が、羽根つきや独楽回しをして遊ぶ、賑やかな町の一角に繋がっていた。


 一番目のお座敷、『睦月の間』は、現在の暦で言えば一月のお座敷、正月の風情がある座敷である。


「次はどんなお座敷なんだろうね!?」


 晴明狐はおめでたい光景を目にして、大いに喜んだ。


「…………」


 茨木童子は満足そうな顔で、二番目のお座敷、『如月の間』の梅が描かれた襖を開けた。


『如月の間』は初午のお祭りの真っ最中だった。お稲荷様を祀る社まで鮮やかな赤い鳥居が立ち並び、参拝客の鬼が行列をなし、金魚掬いや射的の屋台ではしゃいでいた。


 三番目のお座敷、『弥生の間』には、春の訪れを感じさせる菜の花が襖に描かれ、鬼の童が豪華絢爛な雛壇の前で白酒を飲み、雛祭りが行われていた。


 四番目のお座敷、『卯月の間』は桜が襖に描かれ、灌仏会が行われていた。


 鬼達は竹の柄杓でお釈迦様に甘茶をかけ、大きな池には睡蓮の花が咲き誇っていた。


 五番目のお座敷、『皐月の間』の襖には菖蒲が描かれ、襖の向こう側は、襖端午の節句で賑わっていた。


 青空には、真鯉に緋鯉に子鯉と、鯉のぼりが泳ぎ、鬼達は、ちまきを頬張っていた。


 重太郎達は襖を開けてみるまでどこに繋がっているのか判らないお座敷を、次から次へと嬉々とした様子で見て回った。


 六番目のお座敷、『水無月の間』の襖には柳と撫子が描かれ、富士山の山開きが行われていた。


 七番目のお座敷、『文月の間』の襖には祇園祭と団扇の絵が描かれ、夜の町では七夕祭りが催され、無数の短冊が括りつけられた笹の葉があちこちに飾られ、夜空には天の川が煌めいていた。


 八番目のお座敷、『葉月の間』の襖にはすすきが描かれ、すすきに囲まれた会場で、盛大な花火大会と盆踊りが行われていた。


 あれも、これも、全て、紛う事なき本物だった。


 九番目のお座敷、『長月の間』の襖には桔梗が描かれ、お月見が、十番目のお座敷、『神無月の間』の襖には菊が描かれ、稲刈りが、十一番目のお座敷、『霜月の間』の襖には紅葉が描かれ、七五三のお宮参りが、十二番目のお座敷、『師走の間』の襖には、顔見世の招き看板が描かれ、鬼達が餅つきをし、しめ縄を飾り、お正月の活気に満ちていた。


「——いよいよ、ここが最後の部屋、か!」


 重太郎はわくわくしていた。


「最後の部屋は、どんなところなのかなー」


 晴明狐は思案げな顔をしていた。


 ここが最後の部屋となった事で、微笑みの君の手掛かりとなるものが何か一つでも欲しいと、焦りを覚えているのか。


「十三番目の最後のお部屋にはお食事をご用意し、綺麗どころも揃えさせて頂きました」


 茨木童子は満面の笑みで言った。


「綺麗どころだって?」


「芸妓さんがいるの?」


「なんでもいいからそろそろ飯を食わせてくれ、腹が減って仕方ない」


 草取は空腹らしく、不満そうに言った。


「ふん」


 黒龍は依然として警戒していた。


「こちらでございます」


 茨木童子が恭しく案内したそこは大部屋で、立派なしつらえの何枚もの襖に渡って、怨霊街の街並みが力強く流麗な筆致で描き起こされていた。


 茨木童子が厳かに襖を開き、広々とした部屋に案内された。


 お座敷には、四人分の御膳が設けられ、早速、会席料理が運ばれてきた。


 黒龍は落ち着いていたが、他の三人は我先にと地酒を煽り、先付のお通しに手を出した。


「…………」


 黒龍はちびちびと酒を飲んでいた。


 先付よりも豪勢な前菜の和え物と焼き物が来た事で、四人の酒はますます進み、赤身と白身のお造りを楽しみ、待ってましたとばかりに、地獄蒸しもたらふく食べた。


 頃合いを見て、お茶とお茶請けが出てきた。


 宴もたけなわ、といったところである。


 茨木童子が声をかけると、襖が静かに開き、芸妓が一人と、舞妓が三人、色とりどりの花簪を揺らし、深々と頭を下げた。


 彼女達は上品な仕草に艶っぽい声で、芸妓は、『熊童子』、舞妓はそれぞれ、『虎熊童子』、『星熊童子』、『金熊童子』、と名乗った。


 四人とも白塗りの濃い化粧で顔貌の区別はつかなかったが、皆、負けず劣らず、美しく艶やかなのは確かだった。  

  

 だが、名前からして酒呑童子の配下である四天王のそれと同じだったし、やはり、よく見ればただの女達ではなかった。


 綺麗に結い上げられた黒髪の間からは、鬼の角が覗き、その身を包んだ友禅の着物には、恐ろしくも美しい地獄絵があしらわれている。


 どんなに優しく、儚げに見えたとしても、その実、鬼なのである。


 やがて、鬼女達の舞が始まった。


 案内役を務めてきた茨木童子も芸事に通じているらしく、いつの間にか、三味線で伴奏を担っていた。


 舞を披露した後、熊童子は重太郎に、虎熊童子は晴明狐に、星熊童子は草取に、金熊童子は黒龍に、寄り添うように座った。


 重太郎達は、本格的にお座敷遊びを堪能した。


 伝統的な『拳遊び』である。


『拳遊び』というのは、じゃんけんのような三すくみの勝負事で、例えば、『野球拳』なら、


 野球するなら、こういう具合にしやしゃんせ。


 投げたら、こう受けて、ランナになったらエッサッサ。


 アウト、セーフ、ヨヨイノヨイ。


 と、じゃんけんそのもの、グー、チョキ、パーで、勝負が決まる。


 客が負ければ、衣服を一枚脱ぎ、舞妓、芸妓が負ければ、罰として、盃を飲み干す事になる。


『野球拳』以外にも、『虎拳』、『狐拳』、『金比羅船々』、『投扇興』などなど、遊びの種類は豊富だった。


「…………」


 黒龍はまるで一人客のように、場が盛り上がってきたのをよそに、何も言わずに席を立った。


「どうしたの、黒龍さん?」


 晴明狐は黒龍が席を立った事に気付き、声をかけた。


「厠に行く」


 黒龍は襖に向かって歩き、振り返りもせずに言った。


 金熊童子がにこやかな顔でやって来て、襖を開けた。


「…………」


 黒龍はお礼を言うどころか、気に食わないとでもいう風に、一瞥しただけだった。


 お引きずりの着物で甲斐甲斐しく厠まで案内してくれる金熊童子などいないかのように、黙りこくって歩いていく。


 金熊童子は、それでもめげずに、厠の戸を開けた。


「おい、いつまでこんな茶番を続けるつもりなのだ?」


 黒龍は厠で用を済まし、廊下に出てみると、金熊童子が正座をして待っているのを見て、呆れた顔をした。


「茶番?」


 金熊童子は小首を傾げた。


「お主達はいったい、何を企んでいるのだ?」


 黒龍は腰に差した刀の柄に手をかけ、疑問をぶつけた。


「怨霊街の宿代が、この世で使われている、ただの金銭の訳があるまい? それに、お主達の正体も」


 黒龍は疑わしげな視線を向けた。


「……昔々、あるところに、それはそれは、美しいお姫様がおりました」


 すると、金熊童子は突然、昔話を始めた。


「ある日、お姫様は、父親であるお殿様と侍達と一緒に、お花見をしていました。そこに姿を現したのは、一匹の黒い蛇でした」


 金熊童子は修行中のおぼこい舞妓なだけに、色っぽいというよりは可愛らしい印象だった。


「上機嫌なお殿様に言われて、お姫様は戯れに杯を差し出し、黒い蛇にお酌をしました」


 だが、こんなところで突然、脈絡もなく話し始め、内容も要領を得ない事から、金熊童子の笑顔は、なんだか薄気味悪かった。


「お主?」


 黒龍は、金熊童子の正体を見極めようとするかのように、彼女の事をまじまじと見た。


「人間達は知る由もありませんでしたが、黒い蛇は近くにある池の主、黒龍の化身だったのです……」


 金熊童子の微笑みは、だんだんといやらしさを帯びてきたようだった。


 彼女から漂う花のような香りもむせ返るような嫌な匂いに感じられた。


「黒龍はその夜、人間の若者に化け、お城に忍び込みました」


 ——黒龍は驚くお姫様に向かって、自分の妻になって欲しいと言いました。


 彼の力をもってすれば、お姫様を攫う事など簡単な事でしたが、道理に反すると思って告白したのです。


 その後もお姫様の元に毎日のように通い詰め、いい返事がもらえる事を期待していました。


 けれど、お姫様は困り果ててお殿様に相談しました。


 お殿様はお姫様から話を聞き、黒龍に対して、明日、自分が馬に乗って、城の周りを二十一周するから、一緒についてくる事ができたら、娘をやろう、と約束しました。


 次の日、黒龍は人間の若者の姿に化け、馬上のお殿様ととともに、出発地点に並んで立っていました。


 黒龍は侍が合図するのを見て、全速力で駆け出し、お殿様も馬を走らせました。


 黒龍は途中から、疲れてきて、元の黒い龍の姿に戻っていました。


 その上、待ち伏せをしていた侍達に弓矢を放たれ、全身、血塗れ、息も絶え絶えとなって、なんとか二十一周しました。


 けれど、約束が果たされる事はありませんでした。


 なんと黒龍が傷つき疲れ果て休んでいるところに、お殿様が馬から降りてきて斬りかかってきたのです。


 黒龍はこの仕打ちに怒髪天をつき、怒りと悲しみの咆哮をあげ、傷ついた身体で、天高く昇りました。


 黒龍が地上から姿を消した途端に、辺り一面、大嵐に見舞われ、激しい雨風が生じ、洪水が起きました。


 その国は、お殿様や侍はもちろん、何の罪もない村人達も皆、何もかも全て洪水に飲み込まれ、跡形もなくなりました。


 と、金熊童子は話し終わった時、どうしてか北叟笑んでいた。


「そんな話をすれば拙者が動じるとでも思ったか!?」


 黒龍は不機嫌極まりない様子で、眉間に皺を寄せた。


「お次は、何だ!? お主達の狙いは、何なのだ!?」


 黒龍はまるで自分の事を小馬鹿にするようににやにやとした顔つきで彼女が正座しているのを見て、乱暴に掴みかかろうとしたが、


 ——全く、本当に莫迦な男だねえ。


 あたかも奈落の底から響いてくるような不気味な声は、しかし、黒龍の耳元で、はっきりと聞こえた。


「やはりお主の正体、鬼などでは——!?」


 今の今まで、目と鼻の先に座っていた金熊童子は、気が付いた時には、忽然と姿を消していた。


 その代わりか、黒龍には大蛇がぐるりと巻き付き、さめざめと血の涙を流しているではないか。


    ——嗚呼、恨めしや、恨めしや! お前のような者がいなければ……!


 大蛇は怨嗟の声とともに大きく開いた顎門から、黒龍の顔面に狙い定めて紅蓮の炎を轟々と吐き出した。


 黒龍は身動きを封じられ、なす術もなく業火を浴び、その身は刻一刻と焼き尽くされようとしていた。


「——あいつ、ちょっと帰ってくるのが遅すぎやしないか?」


 草取はほろ酔い加減で舞妓と拳遊びをしていたが、ふと思い出したように言った。


 黒龍はいつまで経っても、厠に行ったまま帰ってこなかった。


「そろそろ頃合いのようですね。申し上げるのが遅くなりましたが、こちらのお座敷は『道饗みちあえ』と言います」


 茨木童子は草取の言葉など聞こえなかったように、機嫌がよさそうに言った。


「うん?」


 重太郎は辺りを見回して訝しげな顔をした。


「何事?」


 晴明狐も怪訝そうな表情になる。


 それもそのはず——彼らがいた場所は、瞬く間に、優に五百畳はあろうかという、大宴会場に変わっていた。


 その上、自分達をぐるりと取り囲む形で、さっきまでいなかったはずの数百匹の鬼達が、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをしていた。


 ふいに大勢の鬼が現れ、莫迦騒ぎしている事も不思議と言えば不思議だったが、彼らは何者なのか?


「……先客、か?」


 草取は首を傾げた。


 先客には違いないだろうが、お座敷で胡座をかき、へべれけになっているのは、皆、鬼ばかりである。


 自分達と同じ現世からやって来たお客というよりは、怨霊街に元からいる住民のような雰囲気がある。


 とは言え、怨霊街の住民だったとしても、やはり、疑問は残る。


 なぜ、彼らは自分達を囲んで、宴会など開いているのだろうか?


「胡散臭いな」


 重太郎は素性が判らぬ相手に警戒心を抱きながらも笑っていた。


「こやつら、何のつもりだ?」


 草取もこれから何が起きようとしているのか、楽しみで仕方がないらしい。


「これからお客様には、『道饗祭みちあえのまつり』を開いて頂かなければなりません」


 茨木童子は悪戯っぽく笑い、要領を得ない事を言った。


「『道饗の間』に、『道饗祭』だって?」


 晴明狐は茨木童子が口にした言葉に心当たりでもあるのか、目を見張った。


「そのなんとか祭りっていうのはなんなんだ?」


 重太郎は誰とはなしに訊ねた。


「『道饗祭』は都に侵入しようとする鬼をもてなし、引き上げてもらう為のお祭りだよ」


 晴明狐は陰陽師に化けた妖怪らしく、博識の一部を披露した。


「仰る通りにございます。ここから先はお客様に『道饗祭』を開いて頂き、私達をもてなしてもらわなければなりません」


 茨木童子は嬉しそうに頷き、更に訳の判らない事を言い出した。


「お客様方には、当宿の宿泊代として、また先程のお座敷遊びの花代として、これより酒呑童子様自慢の配下の者達と、血湧き肉躍る戦いを繰り広げて頂きます」


 茨木童子は宣言するように言った。


「ほう」


 重太郎はいつになく楽しそうな顔をした。


「血湧き肉躍る戦いだと?」


 草取も期待に胸を膨らませているようである。


「こっちはお金を持っていない訳じゃないんだし、まだ一日と経っていないっていうのに、宿泊代って言われてもねー」


 晴明狐だけは、勘弁してくれという風だった。

「酒呑童子様は、金銀財宝なら山ほど、名酒も数多くお持ちになり、美女も星の数ほどおりますので、求めるものがあるとすれば、それはもう、血湧き肉躍る戦いのみにございます」


 茨木童子は艶然と微笑み、繰り返した。


「黒龍様からは、すでに宿泊代、花代ともに頂きました。ですが、はっきり申し上げて、足りません。そこで同伴のお三方にも、酒呑童子様の配下の者と戦って頂きたいのです」


 何卒ご理解下さいと言わんばかりに、軽く頭を下げる。


「こいつは面白くなってきたじゃないか!」


 重太郎はこの状況をすんなりと受け入れた——と言うより、やる気に満ちている。


「はっはっは、そうかそうか! あいつめ、なかなか帰ってこないと思ったらそんな事になっておったのか! 儂らもあいつと同じように、あんた達の酒の肴にされるという訳か? どうせやるなら、目にもの見せてやろうじゃないか!」


 草取は重太郎以上に勇ましい事を言った。


「こちらから言い出しておいてなんですが、突然、こんな風にお代の説明をされて、腹立たしくはないのですか? それに、少しぐらい怖いとは思わないのかしら?」


 茨木童子は自分で言い出しておきながら、半分、呆れ、半分驚いたように言った。


「まあ、こっちも怨霊街の噂を鵜呑みにして何も確かめずに来たしな。今更、ぐだぐだ言っても仕方がないだろうよ。俺にはもう何もないし、退屈しのぎができればそれでいいさ」


 重太郎は自嘲気味に言った。


「ああ、所詮、この世は殺すか殺されるか、食うか食われるかだからな。まんまと騙されたとは言え、元はと言えば、儂らがのこのこついて来たのが悪いんだ。同伴させてもらったのも事実だし、甘んじて受け入れるのも、また一興!」


 草取は殊勝な顔をして言った。


「貴方も?」


 茨木童子は晴明狐に対しても質問を投げかけた。


「それが代金だと言われれば仕方がないし、もし断ったとしても穏やかに事は運ばないだろうからね。うーん、言いたい事があるとすれば、そうだなー」


 晴明狐は何か言いたげに、重太郎と草取の顔を見やる。


「うん? 何だ?」


「何か文句でもあるのか、小僧?」


 二人は晴明狐の視線に気付いて、怪訝そうな顔になる。


「別に……今ここでわざわざ言うような事じゃないし」


 晴明狐は答えをはぐらかした。


「では、改めてご案内致しましょう。『道饗の間』は、この大宴会場だけではなく、あと二つのお座敷で成り立っています」


 重太郎達一行は、大宴会場から、残り二つのうちの一つである、座敷の前にやって来た。


 襖には、深い森に抱かれた露天風呂の絵が描かれている。


 大宴会場の鬼達はいっそう盛り上がり、田楽踊りを始め、茨木童子は、露天風呂が描かれた襖をするりと開けた。


 襖の向こうに広がっていたのは、平安時代のそれを思わせる寝殿造りの荘厳な屋敷と、屋敷が擁する広く美しい庭園だった。


 寝殿造りの趣向を凝らした庭園は、手前には池が設えられ、奥には青苔に覆われた築山、中島は三つ、それぞれ平橋が架かり、寝殿に続く最後の橋には反り橋が架かっていた。


 主がいるだろう寝殿の正面、両脇に白梅と紅梅が植えられた地面には、白砂がびっしり敷かれ、庭園のあちこちで篝火が燃え盛っている。


 広々とした敷地がお座敷だというのなら、全てがまるで平安の都にでも迷い込んだかのような、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「この庭園が、『道饗の間』、二つ目のお座敷でございます。そして——」


 茨木童子は二つ目のお座敷から奥まった場所にある、『道饗の間』、三つ目のお座敷を、視線で示した。


 大宴会場と庭園、全体の景色を一望する事ができる最も奥にある寝殿、それが三つ目のお座敷だった。


 寝殿の正面に拵えられた五級の階段を上った先にある階隠しの間には、一目で身分が高いと判る大鬼が側仕えの鬼女を侍らせて、畳の上に片肘をついて寝そべっていた。


「おーい、聞こえるか!? お前さんが酒呑童子か!?」


 重太郎は何の躊躇いもなく池を隔てた遠いところから、大鬼に向かって呼びかけた。


「いかにも! 私が酒呑童子だ! そろそろ、用意した酒の肴にも飽きてきた頃だ! 早速、血湧き肉躍る戦いを見せてもらおうか!?」


 酒呑童子は侍女が注いだ盃を景気付けに煽り、御座の上で胡座をかき、張りのある声を響かせた。

「で、どこのどいつと戦えばいいのかな!?」


 重太郎は怨霊街の顔役、酒呑童子を前にしても、涼しい顔をしていた。


「待て待て! いの一番に戦うのは、この儂だ! 人間の兄ちゃんと化け狐の小僧には、下がっていてもらおうか!? 儂なら、どんな相手だろうと一向に構わんぞ!?」


 草取にしても、怖気付いたところはなかった。


「二人とも本当に血の気が多いなー」


 晴明狐は呆れたように言った。


「なにせ儂には、他に何もやりたい事がないんでな」


 草取は重太郎と同様、刹那的な気分に浸っていた。


「草取のおじさん」


 晴明狐は何か言おうとしたが、一つ目の橋を渡ろうとしていた草取の背中に残る無数の古傷に、言葉を失った。


「ほれ、さっさとせんか! 儂の相手は、どこのどいつだ!?」


 草取は一つ目の中島に佇み、酒呑童子ご自慢の配下が出てくるのを待ち構えた。


「一番手は貴方様ですか? いいでしょう。順番がどうあれ、こちらとしては、酒呑童子様に楽しんで頂ければ、それでよいのですから」


 茨木童子は、草取が一番目に戦う事を、快く了承した。


「貴方のお相手は、四天王が一人、金熊童子です——あら、よろしいのですか? お近くにもう、金熊童子がいますよ?」


 茨木童子は対戦相手を視線で示し、茶目っ気たっぷりに言った。


 見れば、何もなかったはずの空間に、襖障子が一枚、現れたではないか。


「ふむ?」


 草取は襖の向こうから何が出てくるのか、興味深そうに見やる。


 誰も手をかけた様子がないのに、襖がゆっくりと開いた。


 そこからぬっと顔を出したのは、まるでお祭りの龍踊りのように猛り狂った大蛇だった。


「怪力無双と謳われた草取様のお相手が、ただ図体がでかいだけの蛇だと!?」


 草取は不服そうに言った。


「油断大敵ですよ」


 茨木童子はよほど自信があるらしい。


「草取殿、張り切っていきましょう!」


 重太郎は何も心配していないようで、冷やかすように言った。


「…………」


 晴明狐はただ、静かに見守っていた。


 当の草取と金熊童子は、お互いに臨戦態勢に入り、睨み合っている。


 次の瞬間、金熊童子がかっと口を開け、あたかも火炎放射器のように激しい炎を吐き、戦いの火蓋が切って落とされた。


「おー、おー、こいつは暖かいわ!」


 草取は自分の顔の前で丸太のような両腕をぴったりと閉じて盾代わりにする事で、金熊童子の口から吐き出される紅蓮の炎を防ぎ切った。


「たかが蛇の一匹や二匹、儂の敵ではないわ!」


 草取の両腕を覆った分厚い毛皮は盾としての機能を充分に果たして、業火の直撃をものともしない。


「キシャー!」


 金熊童子は戦法を変え、草取の全身に巻き付いた。


「ふん」


 草取は鼻で笑い、余裕の表情だった。


 次いで、ふっと息を吸い込んだかと思うと、金熊童子を力任せに引き剥がし、間髪入れず、投げ飛ばす。


 金熊童子は凄まじい勢いで地面に打ち付けられ、そのまま平橋を越え三つ目の中島まで転がり、反り橋を通り過ぎて、篝火を二、三個倒し、ようやく、白砂の庭で止まったかと思えば、死んだようにぴくりとも動かなくなった。


 怪力無双、草取の圧勝だろう、白砂に大根おろしのように全身の鱗を削り取られ、篝火の火の粉と灰を被り、汚らしく無様な姿を晒した。


「はっはっは! なかなかどうして、今回の連中は活きがいいみたいだな!」


 酒呑童子は、眼下の白砂の庭にぼろ雑巾のように倒れ伏した金熊童子を眺め、感心したように言った。


 一つ目のお座敷で宴会に興じていた鬼達も無数に開いた襖を介して観戦し、拍手喝采、ある者は笛を吹き鳴らし、ある者は踊り狂って、やんややんやと喜びの声を上げた。


——今のが、〝清姫きよひめ〟。


「……!?」


 重太郎は、ふいに誰とも知れない声が脳裏で響き、最初、空耳かと思った。


「まだやるか! 全く、懲りない奴らだな!」


 草取は休む間もなく新しい襖を目にしても、余裕綽々といった様子である。


「お見事! 次のお相手は、虎熊童子です!」


 茨木童子は〝清姫〟金熊童子が倒されても、むしろ嬉しそうに、四天王の二番手を紹介した。


 襖が開き、ゆるりと姿を現したのは、こちらは未だに舞妓姿である虎熊童子だった。


 ——お次が、〝二口女ふたくちおんな〟。


「!?」


 重太郎はもう一度、今度は確かに声が聞こえて、晴明狐の事を見やる。


「…………」


 晴明狐は皆まで言うなとばかりに黙って頷いた。


 重太郎は、声の主が誰なのか気がかりだったが、草取と虎熊童子の戦いの行方を追った。


「……なあ、『清姫』と言えば、旅をしていた美男子の僧侶に一目惚れして、女だてらに夜這いをかけた挙げ句、再会の約束をしたはいいが、結局裏切られて、大蛇に化けて復讐を果たした、気性の激しい女の名前だったよな?」


 重太郎は草取が獣のように雄叫びを上げ、舞妓姿の虎熊童子に突っ込んでいくのを眺めつつ、晴明狐に話しかけた。


「うん、自分の元から逃げ出した僧侶の事を追いかけて、最後には、お寺の鐘の中に身を隠した僧侶を、鐘ごと焼き殺しちゃったんだよね」


 晴明狐は我がごとのようにぶるりと震え、返事をした。


 重太郎と晴明狐はその間も、草取と虎熊童子の戦いから目を逸らさなかった。


「やっと歯応えがある奴が出てきたじゃないか!?」


 草取は威勢がよかったが、舞妓姿の虎熊童子は後頭部に乱杭歯が覗く大きな顎門を隠し持ち、その上、緑の黒髪を触手のように操る、化け物だった。


「〝二口女〟、か」


 重太郎は誰かから直接、頭の中に伝えられた、その名をぽつりと呟いた——草取は重太郎が『二口女』と呼んだ、虎熊童子相手に苦戦していた。


 何しろ、正面から力比べしようとすれば、髪の毛の触手に絡め取られてしまい思うように組み合う事ができず、それならと力任せに殴りつけてやれば、やはり生き物のようにうねうねと動く髪の毛によって遮られ、あっさりと防がれてしまう。


 だったらと背後から殴りかかろうとすれば、これまた髪の毛の触手に自由を奪われ、後頭部についている乱杭歯が覗く巨大な顎門に飲み込まれそうになるのだ。

「この!?」


 草取はもがきにもがいて、すんでのところで逃れたが、果たして、この調子でいつまで無事でいられるものか。


「晴明狐!」


 重太郎はこの辺が頃合いとでも言うように、何か合図するように晴明狐の名を呼んだ。


「うん!」


 晴明狐は待ってましたと言わんばかりに、元気に返事をした。


「茨木童子さんよ。草取殿は一度は勝ったんだし、虎熊童子との戦いは、俺と選手交代っていう事で、一つお願いしたいんだが?」


 重太郎はここで断られたら、乱入する気だった。


「ええ、どうぞ」


 茨木童子は意外にも簡単に了承した。


 その瞬間——


「何をする気だ、お前ら!? 儂には手助けなど要らんぞ!?」


 草取は、〝二口女〟虎熊童子に何度目か挑みかかろうとしたところを、重太郎達に遮られて、強がりを言った。


「偶然の出会いとは言え、ここまで一緒に旅をしてきた仲じゃないですか!?」


 重太郎は仕込み刀を抜き、〝二口女〟虎熊童子を牽制しながら、草取に向かって言った。


「そうそう、重太郎の兄さんの言う通り! それにさー、友だちの名前ぐらい覚えなよ、草取のおじさん!」


 晴明狐もとびっきりの笑顔を浮かべて、中島に乗り込んできた。


「な、何を!?」


 草取は、ここ一番を取って代わられ、動揺の色を隠せなかった。


「改めて言おうか? あの人は重太郎の兄さん、僕は晴明狐って言うんだよ! そろそろ旅仲間の名前ぐらい、ちゃんと憶えてもいいんじゃないかなー!?」


 晴明狐はふざけているような調子で言ったが、その目は真剣だった。


 重太郎は〝二口女〟虎熊童子を相手に見事な立ち回りを演じていた。


「お、お前達は……」


 草取はこんな事態になるなどとは思っていなかったのか、二の句が告げなかった。


「ついでに言わせてもらえば……ねえ、草取のおじさん」


 晴明狐は、ふいに真面目な顔をして、草取に一歩、詰め寄った。


「黒龍さんから聞いた婿入りの話が本当だとしたら、草取のおじさんは、結婚さえできれば、お相手は三人姉妹のうちの誰でもよかったって事なのかな?」


 晴明狐は草取の顔をじっと見つめて、黙って返事を待っていた。


「ああ、今思えば儂は、嫁さえ手に入れる事ができれば誰でもよかったんだろう」


 草取ははたと気付いたように、肩を落として言った。


「だからと言って儂は、自分の嫁に罠に嵌められるような形で、崖から落ちなければならなかったのか?」


 草取はまるで自問自答しているように、足元を見つめて言った。


「残念だけどね」


 晴明狐はにべもなかった。


「草取のおじさんはその子にとって、誰でもなかったんだから。もし、その子にとっての誰かだったとしても、決してよき夫っていう存在じゃない、はっきり言って家族と自分を引き裂いた、一匹の妖怪に過ぎないんだからさ」


 晴明狐は歯に絹着せぬ物言いだった。


「確かに、な……だが、そうだとすれば……小僧、いや、晴明狐よ。そういうお前は、どうなんだ?」


 草取は神妙な面持ちで、晴明狐に対して問うた。


「一晩、宿を貸してもらった恩返しをする為人間の女を探しているという、晴明狐、お前はいったい、何だというのだ?」


 草取は怒っている訳ではなかった。


 むしろ、飼い主に叱られた忠実な番犬のように、しょんぼりとしていた。


「……僕も同じだよ。草取のおじさんと、何も変わらない。ただの一匹の妖怪に過ぎない、何でもない、誰でもないんだよ」


 晴明狐は途端に、落ち込んだように言った。


「僕も、あの人にとって何でもない、誰でもない、いないも同然の存在。だからこそこうして異界までやって来て、一生懸命、探しているんだよ。そしてもう一度、出会う事ができたら、その時こそ……」


 晴明狐は心に決めた事があるらしく、まだ見ぬ未来に思いを馳せるように言った。


「重太郎の兄さん、気を付けて!?」


 晴明狐は、重太郎が〝二口女〟虎熊童子を斬り伏せたところを目にして、油断しないように促した。


 二つ目の中島に、また新たな、今までよりも大きな襖が一枚、出現した。


 襖が開き、悠然と現れたのは、襖の大きさに見合った、巨体を誇る妖怪だった。


 牛の頭に蜘蛛の胴体を持った、おぞましい姿形をした妖怪である。


「四天王が三人目、星熊童子にございます」


 茨木童子がにこやかに言えば、


    ——〝牛御前うしごぜん〟。


 重太郎と晴明狐の脳裏に、不思議と聞こえたあの声音が、今度は、草取の頭の中にも響いた。


「……!?」


 草取は、今より千年の昔、その名で呼ばれた女がいる事を知っていた。


 恨み辛み憎しみの果てに、人間から妖怪に身をやつした、一人の女が存在する事を知っていた。


 源満仲の娘として生まれたが、醜い容姿から嫌われ、武蔵国で巨大な妖怪と化し、兄、源頼光の手によって討たれた、『牛御前』である。


「ついに、星熊童子の出番となったか! 今宵の客人は、なかなかやるではないか!」


 酒呑童子はいかにも愉快愉快といった顔をして、さもうまそうに酒を煽った。


「この際、熊童子も出しましょう!」


 茨木童子もまた、興が乗ってきたと言うように、四天王、最後の一人を呼び寄せた。


 重太郎のそばに新しく出現した襖を開けて出てきたのは、化け物然とした〝牛御前〟星熊童子とは違い、芸妓姿のままだった熊童子である。


   ——〝絡新婦じょろうぐも〟。


「いよいよ、四天王の四人目か。この人の相手は、僕がするよ」


 晴明狐は意を決し、前に出た。


「デカブツの相手は俺がしよう!」


 重太郎は、四天王が四人目、〝絡新婦〟熊童子をやり過ごし、二つ目の中島で、牛の頭と蜘蛛の体をした巨体を誇る化け物、〝牛御前〟星熊童子を挑発し、最も広い三つ目の中島に誘い込んだ。


 ——邪を退け妖を治める、抜けば玉散る氷の刃……!


 重太郎と入れ替わるように晴明狐のそばに姿を現したのは、他でもない、厠に行ったまま帰って来なかった、黒龍だった。


 黒龍は大蛇と化した〝清姫〟金熊童子の口から吐き出された紅蓮の炎を、顔面から全身に浴びたはずだったが、かすり傷一つ負っていなかった。


「ふん、臆病者めが!」


 黒龍は〝絡新婦〟熊童子がこちらを警戒し、一定の距離を保っていると見るや、罵声を浴びせ、刀を正眼に構えた。


 どうやら曰く付きの刀らしく、切っ先からぽたりぽたりと露が滴り落ち、辺りは霧に包まれた。


「熊童子とやら、拙者の足についてこられるかな?」


 黒龍は晴明狐と対峙していた〝絡新婦〟熊童子を刀から生じる霧で牽制し、中島を駆け抜け、平橋を越え、三つ目の中島で睨み合いを続ける重太郎と〝牛御前〟星熊童子の横を突風のようにすり抜けていく。


「何をするつもりなんだ?」


 晴明狐は黒龍の行く先を視線で追いかけた。


「拙者の目的は、最初からあやつだけよ!」


 黒龍はただひたすらに酒呑童子を目指して、全速力で走っていく。


「お主達に、もう一度、忠告しておこうか! ここには何もないし、誰もおらんぞ!?」


 黒龍が抜き身の刀を構えたと同時、主人の殺気に呼応するかのように、切っ先から、水滴が迸った。


「何だ?」


 重太郎は〝牛御前〟星熊童子と睨み合っていたが、晴明狐と同じく、黒龍の行動に戸惑いを覚えた。


「拙者の性分として、誰かの手のひらで踊らされているのは我慢がならないのでな。あやつの無聊の慰みとして見世物にされ、玩具にされている事が、屈辱なのだよ!」


 黒龍は反り橋を越え、酒呑童子が胡座をかいた寝殿の正面に乗り込んで、五級の階段を登り切った。


「そう、拙者は誰の言いなりにもならぬし、何も信じぬ!」


 黒龍は酒呑童子と向き合い、ふっと大きく息を吸い込んだ。


「ふん」


 酒呑童子は巻き上げた御簾の下で微動だにせず、胡座をかいたまま鼻で笑った。


 黒龍が今にも刀を振り翳して襲いかかってこようかというのに、侍女達は酒呑童子の巨躯にしなだれかかったまま、怖がるどころか、いやらしく笑っていた。


「死ねぃ!」


 黒龍は親の仇にでも出会ったように、酒呑童子に向かって、渾身の力を込めて、刀を振り下ろした。


「ふっふっふ!」


 酒呑童子はしかし、平然としていた。


 それどころか、黒龍の事を莫迦にして笑っていた。


「これはこれは! 黒龍様、お戯れが過ぎますよ! 貴方様のお相手は、我が主ではございません!」


 黒龍の前に酒呑童子の事を庇うようにして立ちはだかったのは、酒呑童子には指一本触れさせないと言わんばかりに、愛用の唐傘で見事な鍔迫り合いを演じた、茨木童子だった。


「——お主達は昔、『鬼に横道はない』と言ったそうだな」


 黒龍は茨木童子と激しい鍔迫り合いを演じながら、落ち着き払った様子で聞いた。


「だが、お主達はそもそも鬼ですらない」


 最初から返事など期待していないように、静かに告げた。


 いや——、


「お主達は、何者だ!?」


 黒龍は水煙を生み出す事ができる不可思議な刀を大きく振りかぶり、再度、斬りかかったが、茨木童子の唐傘によって、剣筋を遮られた。


 酒呑童子伝説にある四天王の名を名乗ってはいたが、四人の正体はどう考えても鬼ではない。


〝牛御前〟星熊童子と向き合った重太郎、〝絡新婦〟熊童子と対峙した晴明狐、そして草取もまた、固唾を飲んで見守っていた。


 あの不敵に笑っている『酒呑童子』も、『茨木童子』を名乗る美貌の持ち主も、おそらくは、どこぞの妖怪に違いないのだろうが、それではいったい、彼らの正体は?


「くっくっく! だとしたら、何だというのだ!?」


 酒呑童子は事ここに至っても、ふてぶてしい態度を崩さなかった。


「畢竟、この世は、殺すか、殺されるか、食うか、食われるかだろうが? ならば誰とどこにいようが、やる事に変わりはあるまい!?」


 酒呑童子は顎を使って、茨木童子に何か命じた。


「ここからは私、茨木童子めが皆様のお相手を致しましょう」


 茨木童子はついと前に進み出ると、改めて黒龍と対峙した。


「何が『茨木童子』だよ」


 黒龍は醒め切っていた。


「拙者が気になっている事は、他にもある。〝清姫〟、〝二口女〟、〝牛御前〟、〝絡新婦〟にしても、皆が皆、揃いも揃って、女だ、という事だ。無論、お主もな——〝飛縁魔ひのえんま〟よ?」


『飛縁魔』とは、菩薩のように美しく、夜叉のように恐ろしい、男の身を滅ぼすと言われている妖怪だ。


「どうした、答えろ!?」


 黒龍は、『飛縁魔』と呼ばれても黙りこくっている茨木童子を、間合いを図りながら、怒鳴りつけた。


「な、なんだ、これは!?」


 黒龍が気が付いた時には、もう遅かった。いつの間にか彼の全身には、蜘蛛の糸が纏わり付いていた。


「い、いつの間に!?」


 黒龍は驚愕し、咄嗟に振り向いた。


 決して、油断していた訳ではない。


 それが証拠に、寝殿の正面より遥か遠くにある一つ目の中島で、たった今、この瞬間も、晴明狐と〝絡新婦〟熊童子は睨み合っているではないか。


 晴明狐と向き合ったまま、〝絡新婦〟熊童子は指一本、動かしていなかった。


 だが黒龍は、全身、蜘蛛の糸で雁字搦めにされていた。


「こ、こやつらも、女なのか!?」


 まんまと身動きを封じられたところで、ようやく誰に何をされたのか気付く。


 今までいったい、どこに隠れ潜んでいたのか、足元には仔犬ぐらいの大きさをした蜘蛛の群れが——女郎蜘蛛の、化け蜘蛛の群れが、かさかさと忍び寄ってきていた。


「うふふ! 仰る通り、あれも女子ならこれも女子にございます。貴方様のように人間の女子に現を抜かす愚かな妖怪がいたおかげで、私達は孤独に過ごす事になったのです。その恨み辛みを晴らす為に、こうして酒呑童子様に仕えているのですよ」


〝飛縁魔〟茨木童子は、鬼気迫る様子で、にっこりと微笑んだ。


「〝清姫〟は、蛇と人間の女が契った為に生まれ、自分自身、人間の男に魅入られてしまった。生まれついて醜かったという〝牛御前〟も、その出生は似たようなものでしょう。〝二口女〟も妖怪の番いがおらず、仕方なしに人間の男に近付いた結果、その後に待っていたのは、お定まりの不幸だけ。〝絡新婦〟も、孤独に過ごすしかなかった。そして、この私はと言えば——そうさせた貴方方、男という生き物が許し難い!」


〝飛縁魔〟茨木童子の微笑みは、耳まで口が裂けていた。


「私の妹達も、遊び相手がいなくて退屈していたところだよ!」


〝絡新婦〟熊童子も凄い笑みである。


〝飛縁魔〟茨木童子と〝絡新婦〟熊童子の笑顔は、般若のお面を被っているようだった。


「……こ、この!?」


 黒龍は足元から這い寄ってきて、あれよあれよと言う間によじ登ってきた、〝絡新婦〟熊童子の妹達——女郎蜘蛛の群れ、化け蜘蛛の群れに、全身噛みつかれ、なす術もなく地面に膝をつき、倒れ込んだ。


「ふはは、間抜けめが!」


 酒呑童子は黒龍が無様に倒れ伏したのを見ると、楽しそうに笑った。


「次はどなたがお相手して下さるのでしょうか?」


〝飛縁魔〟茨木童子は、黒龍には目もくれずに、襖を開けて、重太郎達のところに現れた。


「奇遇だな、こっちも退屈していたところだ。一緒に遊ぶか!?」


   重太郎は〝牛御前〟星熊童子の巨体を一刀のもとに斬り伏せたところで、〝飛縁魔〟茨木童子の誘いに目を輝かせた。


「早速、お手合わせ願おうか!」


 彼らの正体など気にする事なく、番傘に仕込んだ得物を構える。


「あらあら、意外にせっかちなんですね」


〝飛縁魔〟茨木童子は余裕の表情だった。


「まだまだ、楽しめそうだな」


 酒呑童子は、ご満悦である。


「ちょっと待った」


 だが、晴明狐が、制止の声を上げた。


「その前に聞きたい事があるんだけど、『酒呑童子』を名乗っている貴方は、本当は何者なの? ううん、それよりここは本当に、あの世とこの世の狭間なの?」


 晴明狐は深刻な顔をして、質問した。


「ここは確かにあの世とこの世の狭間だし、怨霊街の温泉がどんな病も傷も癒すというのも、本当の事だとも」


 酒呑童子は妖しい笑顔こそ浮かべていたが、素直に答えた。


「残念ながら、温泉に浸かる事ができるのは、この私や、私に仕える、こやつらだけだがな!」


 酒呑童子はぱちん、と指を鳴らした。


 その途端、酒呑童子の傍らに襖障子が出現し、誰も手をかける者がいないのにぱっと開いた。


 襖の向こう側に広がっているのは、大自然に囲まれた露天風呂、だ。それも血の池地獄のような恐ろしい雰囲気漂う、真っ赤な温泉を満々と湛えた露天風呂、である。


 露天風呂のあっちこっちに鍋の具のようにぷかぷかと浮いているのは、人間や妖怪の腐りかけの屍体や、肉も皮も綺麗さっぱりなくなった白骨屍体だった。


「しかと見よ! 怨霊街にまつわる噂を信じ、まんまとおびき寄せられ、私の酒の肴として殺し合いを演じる為にここまでやって来た、貴様らと同じ間抜けな連中を原料とした、これこそが生命の温泉よ!」


 酒呑童子は酷薄な笑みを浮かべ、声高に叫んだ。

「……貴方は、いったい?」


 晴明狐はかつて微笑みの君を探しに実際に訪れた事がある地獄のような光景を目にして、疲れた顔になる。


「ううん……貴方方が誰だろうと、僕が聞きたいのは、ここに、この異界の街に、人間の女性がやって来たかどうか、だ。いつも機嫌がよさそうに微笑んだ、平安貴族の姫君がここに来なかったかな?」


 晴明狐は気を取り直して聞いた。


「くっくっく! はーっはっは!」


 酒呑童子は高笑いをした。


「いつも機嫌がよさそうに微笑んだ平安貴族の姫君だと!? それがいったい、どうした!? なんだというのだ!?」


 かと思えば、急に興奮したように、まくし立てる。


「皆等しく、我が獲物よ!」


 吐き捨てるように言った。


「あの黒龍とかいう妖怪が言った通り、貴様の思い描くようなものはここには何もないし、誰もおらぬわ! 貴様達は皆、ここで私達に飽きるまで弄ばれ、最後は惨たらしく死ぬのだ!」


 酒呑童子は重太郎達の事を嘲笑った。


「俺も一つ、聞いていいかな? どうやらあんたは酒呑童子じゃないらしいが、本当の名前を名乗っては頂けない。となるとあんたは、誰でもないっていう事になるのかな?」


 重太郎は別段、腹を立てている訳でもないらしく、至って落ち着いた様子で聞いた。


「貴様は?」


 酒呑童子はそこで初めて、まじまじと重太郎の顔を見ると、何か引っ掛かったような顔をしたが——、


「はいはい、何とでもおっしゃって下さいな。私達はただ、人間に懸想した妖怪、同じく道ならぬ恋をした人間に、復讐する為にここにいるんですからね。私達が流した噂にまんまと騙され、この地にやって来た間抜けな貴方方は、この後、散々もがき苦しんだ挙げ句、惨たらしく死ぬだけ! さあ、覚悟なさい! そして、思い知るがいいわ!」


 酒呑童子の代わりに答えたのは、それまでの立ち居振る舞いが嘘のように興奮し切った、〝飛縁魔〟茨木童子だった。


 白梅と紅梅の間から、空間と空間を繋ぐ襖を通り抜け、さっき倒したはずの、〝清姫〟金熊童子、〝二口女〟虎熊童子、〝牛御前〟星熊童子が、血の池地獄のような温泉に浸かり、傷ついた身体を癒し、機嫌すらよさそうに姿を現した。


〝絡新婦〟熊童子は依然として般若のような物凄い笑みを浮かべていたが、明らかに殺気を放っていた。


「やれ、茨木童子よ! 私を莫迦にした人間、私を嘲笑った妖怪、貴様ら全員、私の術中に嵌り、私の目の前で死んで行くのだ!」


 酒呑童子は興奮した面持ちで立ち上がり、冷たく言い放った。


 酒呑童子の命に従った〝飛縁魔〟茨木童子と四天王は、与し易いと思ったのか、人間である重太郎に狙い定めて、一斉に襲いかかった。


「けっ! 死ぬのが怖くてこんなところまで来るかよ!」


 重太郎は嬉々とした様子で自ら死地に飛び込んでいく。


「重太郎の兄さん!?」


 晴明狐は死に急ぐような重太郎の身を案じ、その名を叫んだ。


 すぐそばで膝をつき体を休めていた草取も、心配そうに見ている。


「任せろ!」


 重太郎はにこやかな顔で、超常的な力を矢継ぎ早に駆使した。


〝飛縁魔〟茨木童子達は皆、どこか近くからメキメキと大木がへし折れるような音が聞こえ、一瞬警戒し、足を止めた。


 だが、いつまで経っても、大木は倒れてこなかった。


 それもそのはず、大木がメキメキとへし折れる音は、重太郎が意のままに操る不可思議な力によって生じた、まやかしだったからである。


 重太郎はその隙をつき、今度は石飛礫の嵐を巻き起こし、彼らの混乱に拍車をかけ、最後には無数の火の玉を宙空に発生させ、辺りを火の海にして、〝飛縁魔〟茨木童子達を蹴散らした。


「ほう、こんな術を使える人間がいたとはな?」


 酒呑童子は人魂を思わせる火の玉が幾つも爆ぜては燃え上がり、変わり果てた白砂の庭を見て、眩しそうに、いや、興味深そうに目を細めた。


「どうりでその顔に見覚えがあると思ったわ。そうだな、もう十年以上前になるか? もしや貴様は、福岡の三鬼山で戯れに遊んでやった、人間の坊主ではないのか?」


 酒呑童子は御座の上に立ち、高みの見物を決め込んで、懐かしそうに言った。


「……?」


 重太郎は晴明狐と草取のところに戻ろうとしたが、酒呑童子の言葉を耳にして立ち止まった。


「……俺が三鬼山で修行していた事を、何であんたが知っているんだ?」


 重太郎は酒呑童子が何を言っているのか判らず、振り返って聞いた。


 なぜ、怨霊街の主が、自分が昔、三鬼山で修行していた事など知っている?


「今、言った通りだよ。たった今、貴様が使ったその術は、天狗の術。かつて、私の住処の一つに迷い込んできた、人間の洟垂れ小僧に——つまりは貴様に、この私が戯れに教えてやった、天狗の術なのだからな!」


 酒呑童子は得意げに言った。


「どうした、そんな顔をして? ほれ、見てみろ! あの時、お前の相手をさせていた女子も、あの中におるぞ!?」


 酒呑童子の視線の先では、死んだように動かなくなった黒龍の身体からかさかさと離れた化け蜘蛛の群れが、重太郎が起こした火の海に飲み込まれた姉、〝絡新婦〟熊童子の事を助け出そうとしていた。


 もし、酒呑童子の言う事を信じるのなら、重太郎が昔、一緒に相撲を取っていた相手は、化け蜘蛛の一匹だという事になる。


「まさか……要するに俺は、妖怪にずっと化かされていたっていう訳か?」


 重太郎は酒呑童子の言葉の意味が頭の中で形になり、乾いた笑みを浮かべた。


 だが、すぐには信じられなかった。


 到底、受け入れられない。


「だとしたら、俺にはもう、本当に帰るところがないらしいな」


 重太郎はしかし、なぜか笑っていた。


 いや、笑うしかなかった。


「はーっはっは! 運命とは数奇なものよな、退屈しのぎの玩具を、こんな形でまた拾う事になるとは! だから言っただろう、ここで貴様らは飽きるまで弄ばれ、惨たらしく死ぬのだと! 貴様らには、最早、それしか道は残されていないのだよ!!」


 酒呑童子は勝ち誇ったように言った。


「……そんな事、あるもんか」


 晴明狐は自分に言い聞かせるように、ぽつりと呟いた。


「この世界には、たくさんの人がいるんだからさ」


 晴明狐は信じていた——僕が大事に想っているあの人は、今もきっと、どこかにいる。


「お前さん、本気で言っているのか? お前さんは目当ての人間を探し出して、何をするつもりなんだよ?」


 重太郎は自分の数奇な運命に翻弄されたばかりのせいか、晴明狐に八つ当たりでもするように、責め立てるように聞いた。


「僕だっていつまでも、あの頃と同じ野良猫じゃないんだ。あの人に伝えたい事があるんだよ。だから、僕は諦めない。僕達は、怨霊街だって見つけたんだから!」


 晴明狐は重太郎の事を真っ直ぐ見つめ、力強い調子で言った。


「だから重太郎の兄さんにも、絶対に見つかるはずだよ。絶対に、別の道が、帰る場所がさ——だから、一緒に行こうよ!」


 晴明狐はどこへとははっきりとは言わなかったが、その双眸は雄弁に物語っていた。


 ——ここじゃない、どこかへ。


 晴明狐の澄んだ瞳は、そう語っていた。


「愚か者めが! 貴様達が何をしにどこに向かおうと、怨霊街は名を変え場所を変え、手ぐすね引いて待ち構えているぞ! そこの人間が洟垂れ小僧の時にも、騙くらかしてやったようにな! ふっふっふ、はーっはっは!!」


 酒呑童子の嘲笑など聞こえないかのように、晴明狐は、重太郎と草取の事をじっと見つめて続ける。


「ここの宿代や花代を、重太郎の兄さんと草取のおじさんが戦う事で支払う事を受け入れた時に、僕が言いたかったのはそういう事なんだよ。どんなにお腹一杯になったとしても満たされないものはあるし、いくら戦いで心踊ったとしても胸のうちに吹きすさぶ木枯らしは止まない。だからさ、みんなで一緒に行こうよ!」


 晴明狐は、もう一度、今度はもっと力強く、重太郎と草取に声をかけた。


 だがしかし、重太郎も草取も急な誘いだったせいか、すぐに返事ができないようだった。


 二人が答えあぐねていたその時、


「悪いが、拙者の怒りは収まらん!」


 それまで死んだように動かなかったが、黒龍は化け蜘蛛の群れから解放される隙を狙っていたらしく、むくりと起き上がった。


「このまま奴らの思い通りにさせてなるものか! かくなる上は、風雨雷雨を呼び、貴様ら諸共、怨霊街を紅蓮の炎で焼き尽くし、何もかも流し去ってやる!」


 黒龍は全身、傷だらけで、怒声を張り上げた。


「お主達も命の保証はできんぞ! 他に行くところがあるのなら、さっさと行け!」


 黒龍はその名の通り、黒い龍に変身を遂げると、凄まじい雄叫びを上げ、天高く昇っていく。


 この真の姿故に、たかが大蛇に過ぎない〝清姫〟金熊童子の炎などに、焼き尽くされる事はなかったのだ。


 彼らが何を企んでいるのか確かめる為、一度はやられたふりをしたものの、そうでなければ、龍が蛇に倒される訳がない。


 実際、黒龍の神通力は凄まじく、辺りは、大災害に見舞われたようになっていた。


 大地震の前触れのように地鳴りは止まず、風は吹きすさび、怨霊街の建物はがたがたと揺れていた。


 稲妻が黒雲を切り裂き、大粒の雨が降り注ぐ。


 これもまた黒龍の力によるものだろう、晴明狐達のすぐ近くで竜巻が巻き起こり、驚いた事に、空間そのものが薄紙のように打ち破られ、ひび割れたそこから見えた光景は、怨霊街ではない、どこか別の土地だろう、山中の景色だった。


「行こうよ」


 晴明狐はお互いに顔を見合わせたまま動こうとしない、未だに迷っている重太郎と草取に言った。


 それが合図だったように、彼らはようやく、三人揃って踏み出した。


 がしかし、重太郎と草取がひび割れた空間の向こうに、姿を消した瞬間である。


「…………」


 晴明狐はふと立ち止まり、重太郎達の背中を見送ると、懐から折り紙を取り出し、のん気に折り始めたではないか。


 完成したのは、今にも羽ばたこうとする、躍動感に溢れた一羽の鳥だった。


 晴明狐が陰陽道の呪文を唱えると、まるで本当に生きているかのような巨大な鳥となる。


 晴明狐は当たり前のように背中に跨り、巨大な鳥は空高く羽ばたいた。


 視線の先、暗雲漂い雷鳴轟く大空では、怒りに燃えた黒い龍と、憎しみに身を焦がした天狗が睨み合っている。


 遥か下にある地上では、大火に襲われた寝殿造りの庭園で、化け蜘蛛の群れが逃げ惑っていた。


 紅蓮の炎は怨霊街まで広がり、石段も地震で大きく裂け、軒を連ねた店舗も、次々と奈落の底に飲み込まれていく。


 晴明狐が最後に目にした光景は、天変地異に巻き込まれた鬼達が断末魔の悲鳴を上げる、まさしく、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

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