未来のヒト

田中ヤスイチ

未来のヒト

 西暦三千年四月一日、人間が働くことは、完全に無くなり、AIや作業ロボットが社会を回していた。そして、今日から、硬貨や紙幣などのカネに価値は無くなり、自分自身の人間性が今までのカネの価値に変わった。

 

「すいません。それは―」

 人型ロボットが俺を見る。

「あ?普通の千円札だろ。」

「それは、本日から使えないんです。」

 ああ、そういえば今日からだったな。

「申し訳ありませんが、使えません。」

「じゃあ、これはどう買えばいいんだよ。」

 俺はペットボトル飲料をロボットに差し出す。

「ここに、指を置いてください。」

 機械を指さす。言われるがまま俺は、それの液晶画面に親指を乗せる。

「お客さんは買えません。」

「何?」

 ロボットに表情は無いが、先ほどまでとは違い、馬鹿にされていると感じた。

「何でだよ。」

 俺は、低い声ですごんで見せた。

「買えません。」

「買えるだろ。」

「お帰りください。あなたは買えません。」

 ロボットは腰から体を曲げ、深くお辞儀をした。

「もう、いいよ。二度と来ねえからな。」

「はい、分かりました。」

 俺は、文句を吐き捨て店を出た。

 

 どうやら、あの機械は自分の指紋データを通して、個人情報を読み取りその人の価値を金額化しているらしい。

 俺は、自分の価値を知るため、スマホのアプリを開く。先日このアプリのインストールが義務化されたのだ。

 アプリのホーム画面に俺の価値が「十二」と書かれていた。

 俺の社会的価値は十二、つまり十二円ということだ。

 十二だと?なぜだ?

 周りを見渡す。そこには、俺と同じようにロボットに高圧的な態度ですごむ客が何人かいた。

 俺は、アプリをもう少し調べてみる。そこには『価値のあげ方』というページがあった。


******************


一、挨拶をしよう。

  朝昼晩の挨拶、感謝の言葉など積極      

  的に行いましょう。


二、人、モノに優しくしよう。

  人はもちろん、ロボットにも感情が 

  ある種類のものもあります。高圧的  

  な態度は取らず、優しく接しましょ   

  う。


三、町はキレイに使おう。

  清掃ロボットが町中にあるため、ポ   

  イ捨てをしてもすぐ掃除してくれま  

  すが、限界はあります。ゴミはゴミ

  箱に捨て、きれいな町づくりに貢献 

  しましょう。


 これら以外にも価値が上がることはありますが、ここにあげたことは簡単で誰でもできる行為です。ぜひ、行ってください。


******************

 

 近年、人間と直接関わる機会は少なくなり、外に出れば、いたるところにロボットがいる。そのロボットには、人間でいう人権が無いので、最近では、ほとんどの人が高圧的に接している。

 

 コンッ


 俺の前を歩く人が、ペットボトルを捨てた。

 俺は立ち止まり、それを見つめる。道脇から清掃ロボットが近づいてくる。


 俺は、ペットボトルを拾い、清掃ロボットが近づいてくるのを待つ。そして、俺のそばに来たロボットに手渡す。

「アリガトウゴザイマス」

 機械的な声でロボットは俺にお礼を言う。

「あ、ああ、お前もいつもありがとうな」

 ロボットはまた道脇に戻っていく。


 ブーブー


 スマホが震えている。

 画面には『あなたの価値がアップしました。』と出ている。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未来のヒト 田中ヤスイチ @Tan_aka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ