第29話



 家に帰った私たちは、無事終えられたことを祝い、三匹でささやかなパーティーをすることにした。



 テトは「おおきなさかな、つってくるからね!」と近くに川に向かった。私とジルは、スープやサラダの準備をしながら、テトの帰りを待つ。



「きゃ!ジル……!」



 急に、野菜を洗う私を、ジルが後ろから抱きしめてきた。



「悪い……このまま聞いてくれ。」



「ジル?」



「ロバートが、色々と手を打ってくれていたが、サチを王宮に取られるのではないか気が気ではなかった。」



「ご、ごめんね。」



 ジルの顔は見えないが、頭を振ったのが分かった。



「いや……サチの選択が正しいことは分かっている。相手が誰であれ、助けたい、と思えるサチだからこそ、俺たちも力になりたいと思える。」



「ありがとう。」



「……あの部屋に入った時、不安になったんだ。」



「不安?」



「もし、最初にサチが王宮に保護されていたら、サチはあんな広い部屋に住めたんだ。マーネ殿下は兎も角……他の王族と結婚だって出来たかもしれない。こんな小さな家で暮らさなくても……。」




「ジル!」



 苦しそうに紡がれた、ジルの言葉に、私は割って入った。くるり、と体の向きを変え、ジルと向かい合って密着する形になる。私は、真正面からぎゅっと抱き着いた。




「……サチ。」



「私は、ずっとここにいたいの。ジルとテトと暮らしたい。ジルとテトが、私にたくさんの思いをくれたから、私も誰かを助けたいって思えるの。」



「サチ。」



 ぎゅっと抱きしめ返され、私はドキドキしながらも幸せだった。「サチから抱きしめてくれたの、初めてだ。」と耳元で囁かれ、私の胸はぎゅっと掴まれたようだった。




「……ジル、だいすきだからね。」



「……っ、あまり、煽るな。」



 その後、テトが帰って来て「もう!ふたりともふけつ!」とプリプリ怒られるまで、ジルと抱き合っていた。



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