第28話
大きくふかふかであろう、豪華なベッドに寝かされた白猫は、美しい毛並みだが、身体中傷まみれであり、苦しそうに浅い呼吸を繰り返していた。そんな彼女をマーネ殿下もまた、苦しそうに見ていた。
(この子、私にそっくり……。)
真っ白な、ふわふわの毛並みに、ピンクの肉球。顔つきもそっくりなのだ。今は、変身魔法で私の姿はぽっちゃりした錆猫なので、他の猫には気付かれない。私の隣にいたロバート様だけは、彼女の顔を見て、息を飲んだのが分かった。
護衛の為に来ていたジルとテトは、部屋のドアを少し開けて、その前で待機している。このドアを開けていることも、マーネ殿下の気遣いだ。本来なら、番の彼女を見せたくないだろうが、ジルとテトの、私を守ろうという気迫を感じ取り、外からでもジルとテトが見守れるようにドアを開けてくれたのだ。そして、万が一害のある人間が近くにいてはいけない、ということを示すために、使用人たちを全員退室させた。
「それじゃあ、早速。」
ロバート様に目線で促され、私は横たわる白猫の傍らに跪いた。彼女の手を取り、いつものように願う。
(どうか、治りますように。)
パァッと、眩い白い光が部屋を包み、暫く続いた。その時間はいつもより長く、彼女の怪我がいかに重篤のものだったかを知らしめるようだった。
「お、おい。この子はもしかして聖女の力が……。」
光が徐々に収まると、マーネ殿下は戸惑いの声を上げた。
「マーネ。この子のことは他言無用だよ、その約束で今日の治療を受けたんだ。」
ロバート様は、低い口調でそう伝えた。マーネ殿下は慌てて頷いている。
「あ、ああ。勿論だ。分かっている。……彼女は。」
マーネ殿下も、ロバート様も、白猫に目を移した。
白猫の大きな傷は全て消え去っており、呼吸も落ち着いている。治療は成功している、私はホッと息をついた。
「マーネ、もう大丈夫だよ。傷が深いから、目が覚めるのに時間が掛かるだろうけど、待っていてあげてね。」
ロバート様の言葉を聞き、マーネ殿下は目を潤ませていた。
「ああ、ありがとう。恩に着る。」
マーネ殿下のお礼に、私は深々と頭を下げる。こうして、恐れていた王宮への訪問は幕を閉じた。
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