第21話
治療院のスタッフが案内してくれたのは、複数の患者が一つの部屋にいる大部屋のゾーンを抜けた個室ゾーンだった。
「個室にいるのは、他の者より悪化した者たちだ。」
先ほど見た、大勢の患者たちより、状況が悪いと聞き、私の体に緊張が走る。
「こちらです。」
案内された個室には、殆ど意識のない、一匹の猫が横たわっていた。恐らく、もう命の灯は殆ど消えてしまっているだろう。手の震えが自分で分かるほど、私は恐怖を感じていた。
「さぁ。」
ロバート様に促され、患者の隣に座り、手を取る。
(思い出して。いつものように。)
ロバート様が指導してくれた。ジルとテトがずっと付き合ってくれた。これまで練習してきた回復魔法を思い出し、握った手に願いを込めた。
(お願い。どうか病が癒えますように。)
私が願いを込めると、患者の体がポッと輝き、白い光に包まれる。
「よし、このままだ。」
ロバート様の言葉に倣い、私は祈り続けた。暫くすると、光は徐々に小さくなり、最後は消えてなくなった。
ぱちりと、患者が目を開ける。
「どうして……。」
「もう大丈夫だ。」
ロバート様が最終確認を行い、病魔が無くなったことを告げる。患者は、痛みも無く、信じられない思いで自身の体を見ていた。
「ありがとうございます!」
「ああ。礼なら彼女に。治療をしたのはこの子なんだ。」
「……!ありがとう、ありがとう!」
患者の勢いに圧倒されたが、私は誰かの役に立てたという達成感が、心を満たした。思わず零れそうになった涙を堪え「……良かったです。」と小さく伝えることしか出来なかった。
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