第13話


 ジルの顔を両手で掴み、視線を合わせる。



「ジル、あのね、私が元々いた世界で読んでいたって話した、ここの世界の物語のことなんだけど…」



「うん?」



「この前は話せなかったんだけど、あの物語はね、色んなかっこいい男の子が登場して、それを女の子が読んでキャーキャー言うやつなの」



 改めて乙女ゲームを説明するのって恥ずかしいな、と思いながらも心を奮い立たせて説明する。恥ずかしいけど伝えないといけない。




「あの物語で、ジルもテトもメインキャラクターでは無くて。だけど、私は、ジルが大好きになったの。ジルの姿を見たくて、何度も何度も数え切れないくらい物語を読んだの。何年も前からずっとジルだけが好きだった」



 ジルの目が見開くのがよく見えた。手が震えてしまう。だけど、今、伝えるべきだと、そう感じた。



「そして、この世界に来て、勿論友達を見つけられなかったのは辛いけど…だけどジルとテトに会えて、とっても嬉しかった。テトはすごく懐いてくれて、大切な存在になった。ジルは…物語のジルとは少し違った」



「…嫌だった?」


 ジルの目が不安そうに揺れた。


「ううん。物語のジルは、こんなに過保護じゃないし、こんなに意地悪じゃないし、こんなに…甘くないの。だけどね、もっと大好きになっちゃった」



「だからね、ジル、私はジルとテトの所にいたい。ずっと一緒がいい。心配しなくていいんだよ、私がここにいたくているんだから…って、ちょっと!ジル!」



 ジルに顔中を舐められてしまう。恥ずかしすぎて、心が滅茶苦茶になる。



「サチが悪い」


「な、なんで…」


「俺のこと、喜ばすようなことばっかり言うから」


 ジルにぎゅうぎゅうに抱き締められる。



「サチが、ずっと俺のこと好きだったなんてな」


「うぅ、恥ずかしすぎる」


「俺はすごい嬉しかった…もう絶対手放せないからな」



 推しの甘い言葉に、私の心臓はずっと落ち着かなかった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る