第10話



「知っていたのか…」


 ジルは目を見開き、驚いてたように呟く。




 そして、不思議そうに見ているテトに説明する。全く別の世界から来て、私は猫ではなく、別の生き物だったこと。ここに来た経緯は、昨日話した通りだったこと。




「だけど、サチ、ぜんぜんおどろいたりしなかったよねぇ。まえにいた、ニホン?では、まほうなかったんでしょ?ジルがまほうつかっても、なんにもおどろいてなかったよね」




「それに、元の世界に帰れないことも知っていた。魔術騎士協会の蔵書で一日中調べて、やっと分かったことなのに」




 なんとジルは、私のために今日調べてくれていたらしい。





「ううんとね…実はね」




 私はどう伝えたら分かりやすいか悩みながら、噛み砕いて伝えた。私が元々いた世界では、この世界が描かれていた物語があり、私も大好きだったこと。何回も、何十回も繰り返し物語を読んだこと。(本当はプレイしていた、だけど。)私の今の姿がその物語の主人公の姿だったこと。ジルとテトのことも、この物語で知っていたこと。






 ジルとテトはとても驚きながらも、最後まで聞いてくれた。



「だから、この世界のことは分かるの。でも細かい設定は違うみたい。最初は、別の世界から来た主人公が王宮に現れて、王子様に出会うところから、物語が始まるのに」




「おうじさま!すごいねぇ、サチはおうじさまがすきだったの?」




「ううん、王子様も他のメインの登場人物もあまり好きじゃなくて」





「へぇ、じゃあ、誰が好きだったんだ?」


 ジルがニヤリと笑って聞く。ニヤリと笑ってはいるけれど、目は笑っていない。何故だか、ひんやりとした冷気を感じた。




「なななななないしょ!言わない!」



「ふうん」



 何だかもう私の気持ちはバレてしまっているような気がするけれど、恥ずかしすぎて言えるわけなかった。






「ジルはどうしてきづいたの?サチがべつのせかいからきたって」



 テトが助け船を出してくれる。



「まず、魔力が強すぎる。魔術騎士協会にも、王族にも、ここまで強い魔力を持つ者はいない」




「え!ジルより?」




「うーん、ちゃんと調べないと分からないが、得意な魔法の種類が違うと思う。攻撃魔法は俺の方が強いが、サチは回復魔法が得意だろう。ほら」




 ジルはテトに右足を見せる。



「な、なおってる、なんで!」




「どういうこと?」


 話が見えずに、私が尋ねると、ジルが右足を摩りながら教えてくれた。



「ここには、俺が魔術騎士になったばかりの頃に負った大きな傷跡があったんだ。もう何年も経つが、未だに痛みがあったし、この傷跡は絶対に消えないと、国一番の治療士に言われたよ。リハビリをしても、薬で治療しても、治らなかったんだ」


「それが今朝、傷跡が全く無くなっていて、痛みもないんだ。それで、遥か昔に異世界からこちらに来たと言われている、聖女のことを思い出した」




 それで今日、聖女に関する書籍を片っ端から調べてくれたらしい。




「じゃあ、サチのこと、ぎゅってしてねたから、なおったってこと?」





「まぁ、他にも色々な」


 ニヤッと笑うジルは得意気だ。昨晩、ジルに頭を撫でられたり、涙を舐め取られたことを思い出して、身体中が熱くなり、胸が苦しくなった。私の様子を見て、ジルはさっきより嬉しそうだった。





「んー!もう!ふたりともふけつ!」


 テトが頬を膨らませて叫んだ。



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