第3話



 驚き、戸惑う私を庇うように、キジトラ猫が茶トラ猫を引き剥がした。



「少し落ち着け。サチは急に色々なことがあって、心の整理が必要だ。それに怪我の治療もな。お前がそんなこと言ったら驚くだろう。」



「だって、サチといっしょにいたいんだよ。」



「分かってる。……サチ、今すぐ決めなくていい。ここは狭いし、男二匹で暮らしていたから綺麗じゃない。だけど、サチが気持ちが落ち着くまではここにいたら、どうだろうか。気持ちが落ち着いて、それでもここにいたいと思ってくれたなら、いくらでもいてくれ。サチが行きたい所があるなら、応援するし、力になる。慌てて答えを出さなくていいんだ。」





 二匹のあまりに優しい言葉に、またボタボタと涙が溢れた。私の涙腺は壊れてしまったみたいだ。




「サチ!いやだったの?…もう!ジルがごちゃごちゃいうせいだよ!サチといっしょにくらしたい~って、すなおにいえばいいのに!ジルのばか!」



「なっ…!大体お前が先走って話すからいけないんだ、俺はゆっくり順を追って話したかったのに」



「だってジルのはなし、ながすぎるんだもん!」




 私が泣いたせいで喧嘩が始まりそうになり、慌てて理由を説明する。



「ち、違うの!嫌じゃない!うれしくて、涙が出たの…」



 優しい言葉をかけてくれるのも、私に居場所をくれるのも、アッコ以外、初めてだった。




「本当にここにいていいの…?私、何にもできないよ…」




(何でこんなこともできないの!)

(あんたさえ、いなければ)

(せめて、お金でも稼いできてくれたらね)



 母親だった人の言葉が、急に頭の中を流れる。二匹に、同じように思われてしまったら耐えられない。





「サチ、こいつはドジばかりする猫だが、それが理由で嫌いになったり、一緒にいたくないと思ったりするか?」




 もう、サチにいわないで!と茶トラ猫はプンプンしている。私は大きく首を振った。こんなに優しくしてもらっていて、嫌いになるはずがない。




「それと同じだ。俺たちは、サチが何にもできないなんて思わないけど、例え何にもできなくても、それが理由で嫌ったり、追い出したりしないんだ」



 キジトラ猫は、優しくそう言った。



「サチ、ここにいてよ。ぼくたちが、サチにいてほしいんだよ。」



 茶トラ猫は、私にぎゅっと抱きついてそう言った。



 「うん、私もここにいたい」



 二匹は優しく頷き、私を受け入れてくれた。この日から三匹での生活が始まった。


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