いっしょに暮らそう!

第4話


 キジトラ猫はジル、茶トラ猫はテト、と自己紹介してくれた。私は二匹の名前は勿論知っていた、『ねこダリ』のおかげで。




 ジルとテトは『ねこダリ』の攻略対象ではない。所謂お助けキャラで、困った時にヒントやアイテムをくれる役割だった。攻略対象は、王子様や、騎士、研究者など様々だったが、あまり覚えていない。




 何故なら私は、攻略対象ではないジル推しだったのだから。ジルとのコミュニケーションのためだけに、攻略対象たちとの何十通りもあるルートを制覇していたのだ。



 クールで冷たい印象で、いつもそっけない反面、面倒見が良くて。キリッとした表情がカッコ良すぎて。




 …冷静になって考えてみたら、推しとどどど同棲するってこと…?!




「サチ、かおあかくなってる!おねつ?」



「ちょっと待て……確かに発熱してる。怪我のせいだろう。冷やすものと、飲み物を準備してくる」



 ジルの手が、私の額に乗せられ、余計に顔が熱くなる。なかなか冷めてくれない。


「あ、あの、大丈夫だから」


「駄目だ。ずっと水分補給もしてないだろう。待っていて」



 言われてみれば、確かに喉がカラカラだ。あんなに話して、あんなに泣けば、喉も乾くだろう。私が頷くのを見て、ジルも満足そうに頷き、キッチンの方へ歩いていった。



 ぐるり、と辺りを見渡す。木造のコテージのような造りだ。部屋は仕切られておらず、玄関から入ればワンルームで、キッチンも、リビングも、ベッドも同じ部屋にある。二つドアがあるのは、トイレとお風呂場だろう。猫の家にお風呂場、というのも可笑しな話だが、『ねこダリ』の中ではお風呂シーンも豊富にあり、「これはR18では?!」と興奮するコアなファンもいたくらいなので、この世界の猫はお風呂嫌いでは無いのだろう。屋根は高く、所々、キャットタワーになっている。


 家自体は素敵な造りなのだが、ジルが先ほど話していたように、散らかり放題である。掃除もずっとされていないようだ。片付けや掃除は得意なので、ここでの役割を一つ見つけて、ホッとする。



 キッチンに目を向けると、ジルが丁寧に紅茶を淹れているのが見えた。ちなみに『ねこダリ』の世界では、猫たちは四足歩行・二足歩行、どちらもアリだ。ジルが二足で立って、お茶を淹れているのを見ると、シュールだなと思う。だが、それ以外の感情が湧いてくるのを感じた。



「サチ、うれしそうだね」


 テトにそう言われて、やっと気付いた。そうか、私、嬉しいのか。



「誰かに看病してもらうのって、初めてなの。だから、嬉しいし、落ち着かないの」


 テトは、それを聞くと、にっこり笑い、ぼくもする!と張り切り出した。私の頭を撫でたり、毛布を追加してくれたり、子守唄を歌ってくれたり。そして、ジルが猫好みの熱すぎない紅茶を持ってきて、みんなで飲んで。とても久しぶりに穏やかな夜を過ごした。



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