第2話
あの日、アッコは登山から戻らず、すぐに捜索が始まった。警察や消防によって懸命に捜索されたが、アッコは見つからなかった。来る日も来る日も、怯えながら、願いながら、眠れない日々を過ごした。しばらくして、捜索が打ち切られても、私は受け入れられず、無謀にも自分で探しに山に入った。
アッコが目指す場所は分かっていた。「この崖のところで、ヒロインに愛を叫ぶところ!ここがやばい!この崖に行かなきゃ死ねない!」って何度も聞かされたから。アッコは、この崖まで、辿り着いたのかな。
登山慣れしていない私は、ヘロヘロになりながらも、目的の崖の上に辿り着いた。何か、何か無いかと、崖の周辺を隈無く探した。
探し始めて何時間も経った頃、崖の下の方でキラッと光る何かが見えた。アッコが「この金ピカすごいでしょ!戦の場だったらすぐ見つかるよね」と笑っていた『戦国大名に恋してる』の公式グッズ、刀を模したアクセサリーのように見える。もし、あれがアッコのアクセサリーなら、アッコは近くにいるんじゃないか。私は慌てて、もっとよく見ようと、崖から身を乗り出した時、体勢を崩した。そこからの記憶は無い。
気がつくと私はボロボロ泣いていた。泣きながら、キジトラ猫に話した。
大事な友達がいなくなってしまったこと。
帰ってくるのをずっと待っていたこと。
だけど帰って来ないので自分で探しに行ったこと。
探す途中で崖から落ちて気がついたらここにいたこと。
私の話は支離滅裂だったのに、キジトラ猫は隣に座って、遮らずに最後まで話を聞いてくれた。私には、アッコ以外友達もいなかったから、アッコがいなくなってから、誰かの前で泣くのも、アッコの話を聞いてもらうのも、初めてだった。話していくうちに、冷え切っていた心と体が、少しずつ暖かくなっていくのを感じた。
話し終わる頃、毛布がモゾモゾ動き始めた。
「サチ!めがさめたんだね!…ないてるの?どこかいたい?くるしい?」
茶トラ猫は心配そうに私の顔を見た。
「大丈夫、ありがとう」
「あ、サチわらった!かわいい!」
茶トラ猫は、ニコニコ笑い、頬同士をスリスリと擦り寄せた。ふわふわで気持ちいい。
「サチ、げんきになったから、おうちにかえっちゃうの?おうちのひととか、おともだちがまってるの?」
茶トラ猫は寂しそうに尋ねた。
「お家の人は、いないの。お友達もいなくなっちゃった。私、ひとりぼっちなんだ。」
また目に涙が滲むのを感じながら、答えると、茶トラ猫はにっこり笑ってこう言った。
「じゃあ、ここにいたらいいよ!ずっと!すきなだけ!ぼくたちといっしょにいようよ!」
びっくりして言葉が出ない私を、茶トラ猫はぎゅうぎゅうに抱きしめてくれた。
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