第4話 経緯とこれから
なんやかんやあったが無事ファミレスへと到着した。
ここは24時間営業の、テスト期間には時折お世話になる場所だ。
大学からも近いとあって、22時前ではあるが店内には若い客が多い。
そのほとんどが俺達と同じ大学生だろう。
テーブル席に通され、メニューを見る。
お腹は空いていなかったので、ドリンクバーを3つ注文した。
「では改めまして、杉本真奈美です。ってこれ3回目の自己紹介だね。……まあそれは置いといて。2人と同じ大学の2年生ですっ。30年後から来ました~」
「まずそこよね。私は真奈美が柚希と会うまでの経緯を知らないの。どうやって現代に来て、何で柚希に会えたの?」
「確かに、それは俺も思った。さっきバイト中店に来たよな? 何で俺が居るって分かったんだ?」
「んーっとね、あれは偶然。2人のバイト先は散々聞かされてたけど具体的な場所とかは知らなかったからね。散策してたらお店があったからもしかして、って思ったらお父さんが働いてた」
「どうりで顔と名札を凝視してたわけか」
ドリンクを飲みながら思い出すように話していく真奈美。
その真奈美からバイト中に食い入るように見られた時は困ったな。
注文もしないでずっと見ていたから声をかけたけど、かけなかったらいつまでああしていたのだろうか。
「いやーほんとーにラッキーだったよ。それにしても色々と安くない? うどん一杯500円掛からないのは異常だと思うんだけど」
「いやむしろ今も高いから。去年ですら300円とかだったんだけどな」
物価が安い! と真奈美は嬉しそうに語るけど、ここ数年でも値上がりは激しく俺達からしたら家計が大変だ。
「最近はどこも値上がりが激しいわね。その割に世間の賃金は上がってないみたいだけど」
「世知辛い世の中だな」
これには明音も同意し、俺達2人がドヨンと暗い空気を醸し出していた。
「2人も大変なんだね」
「って今は俺達の事は置いといて、結局未来からここに来たのは何で? 手紙には書いてなかったのか」
「書いてなかったしそれこそわたしが知りたいよ。久し振りに夜景見に行こーって誘われたから近くの展望台に行ったんだけどさ~、そしたら何か振ってきて」
「何か振ってきた? 隕石かしら」
「そしたら寧ろ天国に行ってないか?」
そんなことあり得ないだろうとか思ったけど、意外にも答えは近いらしい。
「でも物凄い光ってたし案外隕石だったりして」
「まじかよ」
「それで、気が付いたらこの時代にいたって感じかしら?」
「そんな感じだね~」
結果、この時代に来た詳細は不明のままだ。
今度はこの時代に来てからの話。
「気が付いたら、って言ったけどどうして過去だと分かったんだ?」
「お父さんだって30年も昔に来たら気が付くでしょ。ビル少なすぎだし明らかに発展してないし。地方とはいってもそこそこ栄えていたしね」
「俺等からしたら平成初期に行く感じだな。……分かるのか? 考えたことも無いけど」
「いた場所は変わっていないよ多分。わたしが来た場所も展望台っぽかったし」
「この近くの展望台といえば羽根山かしらね」
「まあそこだよな」
この辺りから1kmぐらい離れた所にある展望台で、街を一望できるスポットだ。
夏に行われる花火大会の観覧席や普段のデートスポットとしてもそこそこ人気のある場所。
そんな場所に急に人が現われたら騒ぎにならないかと思ったが、幸いにもその時周りに人は居なかったらしい。
「まあわたしが気付いていないだけで実は誰かに見られたりしてるかもね~」
「それはそれでまずいんじゃ……」
「大丈夫だと思うけどな~。あの時夕日超まぶしかったし見間違いだってならないかな」
「あれ、夕日? 真奈美が来たときって夕方なの? 夜じゃなくて」
夜景を見に行く、なんて言っていたから俺はてっきり夜の展望台で隕石的な物に巻き込まれてそのままこの時代でも夜になっていたと思ったが。
「あー、こっちに来たときは夕方だったね。来る前は夜だったけど。時間帯はずれてるね、うん」
「私は寧ろタイムトラベルして前後の時間帯が同じっていう方が出来すぎだと思うけど?」
「まあ言われてみれば確かに」
「時間が違ってもわたし的にはそこまで大きな問題では無いんだけどね~。タイムトラベルそのものの方が問題っていうか」
確かにこっちに来たのが夕方だろうが夜だろうがそこは大した問題では無い。
大切なのは未来に戻れるのか、戻るまでどうするのか、だ。
最もしばらくは俺達の所で暮らす、みたいなことが手紙に書いてあるみたいだけど。
「まあそれで知らない所に来たわけだからさ、色々散策してみた訳ですよ。コンビニで新聞見てみたら日付が30年前でさ、そこでタイムトラベルしたって確信した感じかな~」
その後も街を見て回ったり大学にも行ってみたりとこの時代と未来の風景を比較していたのだと真奈実は楽しそうに語っていた。
「思ったんだけど急にタイムトラベルした割には落ち着いてるって言うか、普通驚かないか?」
「え、もちろん驚いたよ。というか今も夢なんじゃ!? って思ってるけど?」
「その割には楽しそうよ?」
明音も同じような事を思っていたらしく、疑問を口にする。
「まあ楽しんでるって言われたらそうかもしれないけどね。今流行のタイムシフト物に自分が遭遇するとは思わないじゃん?」
「流行って……何の?」
「アニメとか小説だけど?」
そんなコンテンツがあるのかよ。
今は異世界だけど30年後はそうなのか。
いやそれよりも、
「真奈美もそういうの見るのね」
明音に先に聞かれてしまった。
「見るよ? というかわたしをその道に引き込んだ張本人達が何を言ってるのかな?」
「え、俺達が?」
「そーだよ? 昔から2人がテレビで見ていたせいでわたしまでハマったんだから。面白いから別に良いんだけどさ。まああとは
今でも俺達2人はアニメや漫画の話はよくしているけど、まさか自分の子供にまで勧めているとは思わなかった。
やはり二次元はどの時代、世代でも通ずるコンテンツのようだ。
改めてアニメの素晴らしさに感嘆していたのも束の間、ふと何かが引っかかった。
累って誰だ?
身近に居る人って真奈美は言っていた気がするけど。
「真奈美さんや、累って一体どなたですか?」
「累? 累は彼氏だよ。あ、幼馴染みの方が良かったかな? それも今更な気がするけど」
「何か急に新しい情報が!? そっか、彼氏いるのか」
「私にもいるんだから、真奈美にだっていてもおかしくは無いでしょう。……でも幼馴染みで恋人、ね。物語みたいで面白いわ。負けヒロインじゃないのもポイント高いと思うわ」
「幼馴染みが負けヒロインっていうのはよく分からないけど。少なくともわたしと累はずっと一緒に居たしこれからもそうだよ? ……こんなこと言ってたら累に会いたくなってきた。なんかむかつく」
「何でだよ!? 急に惚気てきたかと思えば『むかつく』って」
「いやー、特に意味は……無いかな」
「無いのかよ。……なあもしかして夜景を一緒に見に行ったのって」
「うん、累だよ。ただあの時は飲み物買ってくるって言って少し離れていたから累はこっちに来ていないんじゃ無いかな?」
「そうか……」
笑顔の裏に、少しだけ寂しさが見えた気がする
タイムトラベルして楽しそうに振る舞ってはいたけど、内心では寂しさがあるんじゃないのか。
だけど俺にはなんて返せば良いのか分からない。
だから少し話を変えてみよう。
「もし今後その累って人に会えたら俺に紹介して下さい。お父さんからは以上です」
「そうね、私も気になるわ。その彼氏さん」
「いや紹介も何も……。累だよ? 今更必要ないって言うか。……あーでも今の2人は知らないんだよね」
「さっき知ったのは幼馴染みで恋人って事ぐらいだな」
「累はね、倉島累っていう近所に住んでたわたしと同じ年の男の子なんだけど。一応許嫁です」
「「はい? 許嫁?」」
「うん、まあ。これに関してはわたし達が勝手に言ってることだけどね」
更に衝撃的な事実だ。
こうやって改まって言うのは慣れていないのか、真奈美は顔を赤くし、その長い髪に顔を埋めている。
照れるならそこまで言わなくても良いのに、と思ったのは内緒だ。
それにしても倉島、か。
聞き慣れた名字だな。
ふととある人物の顔が脳裏に浮かんだ。
「なあ真奈美。累君の父親の名前を聞いても良いか?」
「え、あーうん。確か、
その名前を聞いて、突拍子も無く運命って面白いと思ってしまう。
何せその倉島直貴は、俺の幼馴染みだからだ!!
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