第5話 娘が居候することになった
「真奈美の彼氏が許嫁とか、その父親が柚希の幼馴染みとかそう言うのは後でじっくり聞くとして、これから真奈美は具体的にどうやって過ごすかを決めましょう」
「そうだな。そのうち未来に戻れそうってことは分かるけどいつ戻れるのか、どうやって戻るのかは謎のままだからな」
「それまではお父さんかお母さんのどっちかの家に置いて貰いたいんだけど~、それってそもそも大丈夫なの?」
まず前提として真奈美のために新しく部屋を借りるという手段は金銭的に難しい。
金銭面をクリアしても部屋を借りるには保証人が必要だ。
つまり俺か明音の親なんだけど、『未来から娘が来たから追加で新しく部屋借りたい』とか言えるわけ無い。
そして俺も明音も住んでいる場所は一人暮らしを想定しているから、まず部屋自体そこまで大きくない。
それに1番の問題は、
「私の家がベストなんでしょうけど残念ながら無理ね。学生寮だから基本他人も泊められないし出来ても1週間が限界」
「もうそれ最初から消去法でお父さんの家確定じゃん」
「まあ、そうなるわね……」
そう、何となく予想していたけど明音の方は期待できない。
明音は渋々といった風で諦めたようだ。
どうにも不満げのようで頬杖をついて明後日の方を眺めている。
「明音は自分の家に真奈美を住まわせたかったのか?」
「別にそういう訳では無いけど……。私の家が無理なら必然的に柚希の家になるでしょう?」
「まあそうだな」
つまり客観的に見ると、俺は娘とはいえ美少女と同居生活を送ることになるのか。
……大丈夫かな?
「一応聞くけど柚希のアパートは真奈美が居候しても問題ないかしら」
「明音のとこみたいに規制は無かったはずだけど……」
男女2人の同居生活を想像したせいか、最後が言い淀んでしまう。
「それなら何か、問題があるの?」
「い、いや特には」
そのせいで明音にジトリとこちらを疑うように見られて、思わず萎縮してしまう。
そうか、彼氏が自分を差し置いて別の女と同居なんてしたらそれは複雑な気分にもなるな。
「言っておくけど真奈美に何か変なことしたら怒るからね」
「え、そー言うこと? ごめんお父さん気が付かなくて。でもわたしは累一筋だから心配しなくても大丈夫だよ? 仮に襲われても投げ飛ばすから」
「何が大丈夫なんだよ!? それに俺も明音以外に興味ないから! 何もしないから安心しやがれ」
「お父さん。ここ一応お店だから大声でそんなこと言うのは……」
「もう、ばかなんだから」
今のは仕方が無いと思うんだけどな。
はあ、と息をついて明音に呆れられてしまう。
ちなみに『投げ飛ばす』とかいう物騒な単語が聞こえたけど、それについては考えないようにしよう。
「だからまあそういう訳で何もしないし起こさないように気をつけるからさ」
「何も最初から疑ってなんていないわよ」
ただ、釈然としない、ということだろうか。
確かに俺が同じ立場なら拒否はしなくともいい気はしないかもしれない。
「じゃあこれからは俺の家で居候って事で良いのか?」
「わたしとしてはお父さんとお母さんさえ良ければね~」
「明音はそれでいいか? ……明音?」
明音は何やら考え事をしているようで、頬杖をついていたがポツリと何やら呟いた。
「……同棲」
「え、同棲?」
「そうよ。私達も新しく大きい部屋を借りてそこに引っ越して3人で住めばいいわ。そうすれば私と柚希も一緒に暮らせるし、家賃も折半に出来るから自分で生活費払ってる柚希としては寧ろ負担が減るんじゃ無いかしら」
「そ、そんな一石二鳥どころか三鳥みたいな話が!?」
「と思ったけど、それこそ手続きやら保証人で不可能ね。やっぱり忘れて」
言ってみただけ、といわんばかりにこの案を却下する明音。
だけど何だかその横顔は、理想を眺めるような、寂しそうな表情だった。
「明日、真奈美の生活用品を買いに行きましょうか。真奈美、取り敢えず今晩は私の寮に泊まりなさい。1泊ならごまかせるから。少しお話もしたいしね」
「うん、わかった~」
話も変えて、今の案は無かったことにしようとしている。
明音の言うとおり、今は同棲するのは難しい。
でもいつかそんな日が訪れると良いなと、俺は考えていた。
「じゃあ明日朝9時位に迎えに行くから」
「ええ。おやすみ柚希」
「お父さんお休み~」
2人を寮まで送り届け、俺も帰路につく。
明日土曜にショッピングモールで買い物をする予定となった。
奇しくもそこは当初俺と明音が明日映画を見に行く予定だった場所だ。
今晩は俺の家に泊まり、電車でデートに行くはずだったが、これはこれで楽しそうなお出掛けになりそうだ。
今日は、というかこの数時間で色々あったな。
バイトを終えて家に向かっていたら突然娘が未来からやって来て、それが恋人である明音との子供だったんだから。
驚かない方が無理というものだった。
明日から真奈実も俺の家に住むことになるのか。
いつまで居るのか分からないけど、生活しやすいようにもう少し部屋を整理しておくかと考えながら帰路についた。
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