約束だからね

半チャーハン

約束だからね

 僕と正樹まさきは友達だ。今までも、そしてこれからも。


 彼は、僕のたった一人の友達。永遠に友達だと誓った瞬間は今でもはっきり覚えている。


 聞いてくれないかな、僕と正樹のこと。ちょうど誰かに話したかったんだ。



 僕たちが仲良くなったのは、小学一年生の頃。


 入学式を終えたばかりの四月。幼稚園とは違う新しい環境で、みんなが打ち解け合っていくのを、僕は怯えながら見つめていた。


 なんで皆が初対面の相手と自然に笑いあったりできるのか、僕にはよく分からなかった。


 先生が考える、子ども同士の交流を深めようとするゲームも僕には馴染めなかった。


 でも、正樹はそんな僕に、休み時間の度に話しかけに来てくれて。何度も言葉を交わすうち、僕たちは友達になったんだ。


 そしてある日、誓い合った。


「なあ、俺たちずっと、友達だよな!」


「もちろんだよ。僕は、正樹のおかげでひとりじゃなくなったんだ。正樹は僕の、ただ一人の友達だよ!」


 僕たちは、お互いの小指を絡ませる。


「「ゆーびきーりげーんまん、嘘ついたら針千本のーます。ゆーびきった!」」


「・・・約束だからな」


「うん!」



 学年が上がって、小学五年生になった頃、僕に二人目の友達ができた。慎吾しんごという転入生で、たまたま隣の席になった内気な僕に、よく話しかけてくれた。


 正樹とはそのとき別々のクラスだったから、自然と休み時間は慎吾と過ごすようになっていた。


「なぁ、俺たち友達だろ?約束したじゃないか」


 正樹がそう文句を言ってきたのは、給食を食べ終えた後の昼休み。慎吾は委員会の仕事で、教室にいなかった。


「もちろん正樹とは今でも友達だよ。だけど、慎吾と遊ぶくらいいいじゃん」

 

 正樹は、一度も遊びの誘いを断ったことがない僕に、慎吾と予定があるからという理由で誘いを断られたのが悔しかったらしい。


「納得できない。お前の友達は、俺だけだろ。他の男に目移りしてんじゃねぇよ」


「は、はぁ!?」


 眼鏡を人差し指で上げて、落ち着こうと深呼吸する。


「もちろん正樹には感謝してるし、大切な友達であることに変わりはない。だけど、慎吾と遊ぶのを制限されるのは、ちょっと違うと思う」


「は?一年のとき、お前言ったじゃん。『正樹は僕のただ一人の友達』って」


「それとこれは違うだろ。だいたい・・・」


 抗議の声は、突然喉を貫いた痛みによって遮られた。


「あ、悪い。喉を通過するとき、刺さったみたいだな」


 感情の籠らない声は、特に申し訳ないとは思ってなさそうだった。


「でも、言ったじゃん。嘘ついたら針千本呑ますって」


 そしてもう一度、喉に強烈な痛みが走った。二本、と正樹が呟く。


「もう一度誓って。お前の友達は、俺だけ。一生、お前の友達は俺だけ」


「わ・・・か、た・・・・・・」


 息をするのも苦しくなる。僕は、浅い呼吸の隙間に、無理やり言葉をねじ込んだ。


「僕の友達は・・・、正樹、だけです。これからも、ずっと・・・・・・」


 正樹は、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。大きな窓から差し込んだ光が、正樹の顔を半分だけ照らした。


「それでいいんだよ。最初からそうしていればよかったのに」


 僕の口から、針が二本飛び出す。口の中が、血の味に染まっていった。



 これが、僕と正樹が永遠の友達なった瞬間の話だ。短くて、つまらなかったかもね。


「早くしろよー。移動教室遅れるぞー」


 教室のドアにもたれかかって、中学生になった正樹が呼んでいた。


「今行くよー」


 僕たちは友達だ。今までも、そしてこれからも。


 僕が意味もなく正樹に微笑むと、彼は嬉しそうに笑い返す。


 窓から斜めに差し込んだ太陽が、正樹の顔を照らす。喉の奥が、チクリと痛んだ。





 



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