番外編:変遷 ⑮



「危ないところでした」



「ジョアンナさん、流石です」



 扉の隙間からこっそりと主の甘い時間を見守る二人は小さく息を吐いた。



「貴方がバラすから……これでもしクラウディア様とギクシャクし始めたら、貴方の骨の一本や二本は折れていた筈だわ」



「う……」



 テオドールの屈強な腕を見てサムは身震いした。あんな腕で殴られたら一溜まりもないだろう。



「助けてくれてありがとうございます」



「……元々は私の不用意な発言のせいでもあるし」



 サムがぺこりと頭を下げるとジョアンナはぷいと視線を逸らした。


 ジョアンナの発言にも、それを漏らしたサムにもテオドールが腹を立てているだろうと推測し、わざと空気の読めていない謝罪して、クラウディアと話し合う時間を作り、わだかまりを解消しようと試みたのだ。あんな謝罪をするのはジョアンナとしても恥ずかしさがあったが、何も知らないクラウディアからのアシストもあり、試みは無事成功した。



「……というか、少し離れてほしいのだけど」



「えぇ?」



 扉から覗いているといつの間にか密着してきた彼をぎろりと睨みつける。だがサムはへらへらと笑うだけだ。




「職場では仕事に集中するって約束したじゃない」



「分かりました」



 渋々と離れていく彼を見てほっと一息ついていると耳元に口を寄せられる。



「……帰ったらいっぱいしましょうね」




「~~っ!サム!!」



 顔を真っ赤にして怒り出したジョアンナを見て、サムは幸せそうに顔を綻ばせた。



 どんなに怒っても嬉しそうにするものだから、こちらまで心乱されてしまう。好きな人が笑ってくれる幸せを私はずっと知らなかったのだ。知らないままでいいと、蓋をしていた想いを彼は勝手に全て引っ張り出してしまった。溢れるこの想いが何なのか、きっと彼が教えてくれるのだろう。





<番外編:変遷 完>





 番外編までお付き合いいただきありがとうございました。想定より随分と長くなってしまいましたが、沢山の方に読んでいただけてとても嬉しかったです!ありがとうございました!

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婚約破棄された公爵令嬢は、イケオジ沼に突き落とされる。 たまこ @tamako25

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