番外編:変遷 ⑧
「テ、テオドール様……私は大丈夫ですので」
頬を染め、潤んだ目で見つめられると邪な想いが膨らむが、グッと堪え「無理はしなくていい。部屋に戻っていても良いんだ」と気遣うように伝えた。クラウディアはふるふると頭を振り「ジョアンナは大事な侍女だから、一緒に話をしたい」と顔を引き締めサムを見据えた。
「サム、ジョアンナと、えっと、その……っ、夜を共にしたのはどうしてかしら?」
言葉を詰まらせながら尋ねるクラウディアがあまりに可愛らしくて、テオドールは息苦しさと共に、従者にこの愛らしい婚約者を見せたくないという独占欲に駆られた。一方サムはクラウディアの愛らしい表情に一切動じることは無く、テオドールは胸を撫で下ろしたものの何故この魅力に気付かないのだと眉を寄せた。
「それは……、ジョアンナさんを想っているからです」
「サムが想っているのはジョアンナだけ?」
「……?勿論です」
何故当たり前のことを聞くのだとサムは不思議そうに首を傾げている。クラウディアは小さく息を吐くと諭すように言葉を続けた。
「あのね、サム、ジョアンナにはその想いが全く伝わっていないと思うわ」
「なっ……好きだと何度も伝えましたよ!可愛いとも、愛してるとも伝えました!」
「それはどこで?」
「それは……ベッドの中です」
先程テオドールに一喝されたことを一応は覚えていたようで、サムはテオドールを窺うように小声で答えた。クラウディアは思わず頬を緩めた。きっとあの真面目でストイックな侍女は、彼のこんなところが憎めないのだろうと。
「サム、女性はねベッドの中で言われたことを全て信じるほど愚かではないの。ましてやジョアンナのように堅実なタイプの女性は特にそうだと思うわ」
「そ、そんな……っ!」
目を見開いたのはサムだけではない。テオドールは叫び声を堪え、クラウディアの言葉を心のノートに一つも漏らすことなく書き留めた。
「だ、だって、小説や劇でもベッドの中で愛を囁いているじゃないですか」
サムの言葉にテオドールは内心深く頷いていた。
「その登場人物たちは、きちんと気持ちが通じ合ってから夜を共にしたのではないかしら」
「確かに……で、でも、憧れていたって先に伝えました……」
「それも、ど、童貞を卒業したいと言った後の話でしょう?行為をしたいが為の言葉としか捉えられないと思うわ」
「そんな……」
絶望した表情で肩を落とすサムを見ていると、虐められた子犬を見ているようでクラウディアは彼の頭を撫でようと手を伸ばした。サムの頭に手が触れる直前、テオドールに手を取られぎゅっと握られる。クラウディアは目をぱちくりとした後でへにゃりと笑みを零した。
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