番外編:変遷 ⑦
「……っ、おいっ、サム!」
声を荒げることの少ない主が、珍しく大きな声で自分の名を呼んだことに漸く気付きサムは顔を上げた。
「……はい」
「はい、じゃないだろう。お前、また話を聞いていなかったな」
呆れ顔で肩を落とすテオドールへサムはしょんぼりと頭を下げた。そんなサムを庇うようにクラウディアが「いつも一緒にいるジョアンナがいないんだもの、調子を崩すこともあるわ」と優しく微笑んだ。だが、クラウディアの美しい声で紡がれた愛しい人の名を聞いたサムは、じわりと目に涙を浮かべた。
「え、サム?どうしたの?」
サムの目に浮かんだ涙に気付いたクラウディアが焦り心配そうに声を掛ける。テオドールはぎょっとしたようにサムを見ている。サムがテオドールの元に来た数年前はしょっちゅう泣いていたことはジョアンナから報告は受けていたものの、それはテオドールの見えないところでの話だ。少々頼りない従者だが、流石に主の前で泣くことは堪えていたようだ。だが、目の前のサムは今にも泣き出しそうだ。
「お、おい、サム……」
「うっ、うっ……旦那様、クラウディア様~っ!!」
急にわんわんと泣き出してしまったサムを見つめ、テオドールとクラウディアは困ったように顔を見合わせた。
◇◇◇◇
「おい、サム……お前……」
サムは涙をたっぷり流し切った後、テオドールとクラウディアにジョアンナとあったことを相談し始めた。
「はい?」
「お前……っ、クラウディアに何て話を聞かせてくれてるんだ!!!」
そう、ジョアンナとの間にあった話をサムは全て話した。彼女にどんな風に口づけ、どんな風に甘い言葉を囁き、どんな風にベッドの中で愛したか……目の前のクラウディアの顔がどんどん赤く染まっていくことに気も留めずに、テオドールが口を挟む間も無く詳細に語っていた。
「へ?」
「お前、いい加減にしろ……っ」
サムの話でジョアンナが陰で自分を童貞と呼んでいたことを知り、またそれをクラウディアにまで知られてしまったテオドールは絞り出すように声を上げた。テオドールは羞恥心に苛まれたが、それでも愛するクラウディアを守ることを優先した。
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