番外編:変遷 ③
数年前、サムがテオドールの従者見習いとしてやって来た頃、彼は今以上に泣き虫だった。本人の元々の性格も影響しているだろうが、それだけではない。というのも当時のテオドールの従者は大変厳しい人で、サムは毎日ビシバシと教育されていた。当時の従者があまりに厳しいので、後輩が全く育たず仕事を覚える前に退職されてしまうこともしばしばあった。ただ彼が高齢で、流石に次の従者を育てなければならない、というときに現れたのがサムだった。
サムは彼に厳しく叱られては、物置裏で泣いていた。それを慰めるのが当時既に専属侍女となっていたジョアンナの役目だった。その頃からよく涙も拭いてあげていた。こんなに打たれ弱いなら、サムもまた他の人同様に退職してしまうだろう、とジョアンナは早いうちから諦めていたが、サムは泣きはするけれど「辞めたい」ということは一度も無かった。
早とちりで、落ち着きが無くて、泣き虫で……そんなサムをジョアンナは慰め続けた。弟のような、子犬のような彼を可愛く思い始めたのはジョアンナだけではない。他の使用人たちからも可愛がられ始めると、サムは少しずつ皆に馴染み、仕事もうまく回るようになった……うっかりミスは今でも健在だが。
当時のテオドールの従者が定年となり退職する時、サムへ「テオドール様の従者はお前に任せる」と言葉を掛けた。サムはわんわんと泣いていたが、ジョアンナも油断すると涙が零れ落ちそうだった。その時から、サムとジョアンナのペアでテオドールと仕えることになった。サムはミスもあるが、それはしっかり者のジョアンナがカバーするし、サムの明るさや素直さは良きムードメーカーとして時に厳しいジョアンナの言葉をフォローしてくれている。
「……これから、どうなっちゃうのかしら」
ジョアンナはサムを相棒のように思っていたし、最近クラウディアが来てからは二人で協力して主の恋を応援することも楽しくないと言えば嘘になる。だが、一度男女の関係になってしまって次の日からけろりといつも通りに戻れるのだろうか。せっかく築いてきたサムとの信頼関係が無くなってしまうように思えて、ジョアンナはまた溜め息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます