第41話




「クラウディア……本当にそのドレスで良かったのか?」



 いつもと変わらない仏頂面で尋ねる父に、クラウディアは笑顔を見せ大きく頷いた。




「はい。お母さまのドレスが良かったんです。」




「そうか。」



 不機嫌そのものに見えるその表情も、ほんの少しの瞳の違いでそうではないと分かるのだと公爵家の使用人たちが教えてくれた。クラウディアが生まれて十八年、全く知らなかった父の瞳の違い……クラウディアはもっと父を知ろうとすれば良かったのだと反省していた。




 あの王宮での出来事があった後、クラウディアは定期的に実家であるバーネット公爵家に顔を出すようにしていた。彼らはクラウディアが来ると大喜びで歓迎してくれる。いつもクラウディアの好きなスイーツと紅茶を用意していてくれる。そして、父がいかにクラウディアを愛しているのか、それを表現できないポンコツなのかを楽し気に聞かせてくれる。どうして家に居る間に、彼らともっと会話しておかなかったのだろうとクラウディアは何度も後悔したほどだ。



 そして、言葉数の少ない父から語られるのはクラウディアの母アイリーンのこと。クラウディアが幼い頃に他界したため、母親との殆ど思い出がない。父はアイリーンがどれほど素晴らしい母だったか、クラウディアにぽつりぽつりと語る。父の思い出の中の母は、どんな時も穏やかで愛情深い素敵な女性だ。亡くなった後もこんな風に愛する人に語られる母は、きっと幸せだっただろう。父の温かく悲しい想いを、クラウディアは初めて知った。



 亡き妻を愛するバーネット公爵は、彼女のウエディングドレスを大切に保管していた。クラウディアが、自身の結婚式でそれを着たいと望んだ時、父は俯いてしまい、彼がどう思ったのか、どんな顔をしていたのか、クラウディアには分からなかった。小さく「ああ。」と答えた声は、微かに震えていた。





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