第36話
王城までサムとジョアンナも付いてきてくれたが、王族との謁見の間まで二人は入ることはできず別室で待機となる。別れ際、サムは捨てられた子犬のように心配そうに眉を寄せ、いつもクールなジョアンナさえ動揺の瞳を隠しきれていなかった。
「クラウディア様、どうか気を付けてくださいね。」
「サム、大丈夫よ。ありがとう。」
「旦那様、クラウディア様から絶対に離れないでくださいよ。」
ぴしゃりというジョアンナの言葉にクラウディアは思わず頬を緩め、大丈夫だと伝えようとする。だが、その前に「ああ、一時も離れたりしない。」と真面目な顔をしたテオドールに断言され、クラウディアは緩めた頬を赤らめるのだった。
「行こうか、クラウディア。」
「はい。」
テオドールにエスコートされ、謁見の間に向かう。国王陛下と王妃殿下の姿は見えないが、レジナルドとアネットは既に着席していた。アネットの姿を見て、クラウディアは笑顔を浮かべそうになるが、慌てて堪える。クラウディアとアネットは、婚約者を奪われた者と奪った者だと思われている。仲良くしているのは不自然だ。
形式的な挨拶を終えると、レジナルドはテオドールとクラウディアには全く興味がない様子でアネットと話し始めた。
「一体何の話が始まるんだ。俺達には関係ないだろう。早く部屋に戻って、君と過ごしたい。」
何と、この場はレジナルドが設定したのではないようだ。クラウディアとテオドールは内心驚いた。
「まぁ、レジナルド様。嬉しいですわ。」
「だろう?それなら……。」
「ですが、国王陛下と王妃殿下のお願いですから、頑張りましょう。この時間が終わって夜には……。」
アネットはレジナルドの耳に口を寄せ、レジナルドの頬を撫でながら何かを囁いた。レジナルドはだらしない笑みを浮かべ、心底嬉しそうに頷いた。
クラウディアはアネットから発せられる色気に、同じ女性でありながらくらくらする程だった。あのセクシーで妖艶なアネットに、テオドールまで見惚れているのではないだろうか。こんなことを考えている場合ではないと分かり切っているのに、そんな不安が頭を擡げクラウディアは隣のテオドールを見上げた。
「え?」
「ん?どうかしたか?」
クラウディアがテオドールを見上げる前から、テオドールはこちらを見ていたようだ。クラウディアは頭を振り、「大丈夫です。」と笑った。テオドールは一瞬たりともクラウディアから目を離さないようにしているようだった。それが嬉しくて小さな不安はすぐに吹っ飛んでしまった。
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