第21話
クラウディアが、自室のベッドの淵に座り呆然としていると、コンコン、とノックが聞こえた。クラウディアはてっきりジョアンナが追いかけて来てくれたのだと、小さく返事をしたが、やって来たのはジョアンナでは無かった。
「……クラウディア嬢、大丈夫か?」
「……テオドール、さま。」
どうして、と瞳で訴えれば、テオドールは理由を口にした。
「バーネット公爵が来ていると聞いて、挨拶をと思い、応接室へ行ったんだ。……俺が行った時にはもうジョアンナが追い返していたんだがな。」
テオドールは苦笑いを浮かべる。隣に座っていいか、と尋ねられ、クラウディアは小さく頷く。いつもより、近い距離に、クラウディアの胸はときめく余裕も無く、ぼんやりし続けた。
クラウディアとの婚約に前向きではないテオドールから、この機会に追い出されてしまうかもしれない。そんな不安を募らせていた。だが、テオドールからの言葉は、クラウディアの予感していたものとは違うものだった。
「クラウディア嬢……君はここにいたいか。」
テオドールの言葉を理解するまでに少し時間を要したが、すぐにコクコクと首振り人形のように頷く。そんなクラウディアの仕草を見て、テオドールは優しい笑みを溢した。
「クラウディア嬢、婚約が決まった時、俺は色々と言ったが……君を追い出すようなことは決してしない。君がいたいだけ、ここにいて良い。」
「……ほんとうに?」
幼子のように頼りない口調で、クラウディアが訊ねると、テオドールは遠慮がちにクラウディアの手に自身の手を重ねて、クラウディアを真っ直ぐ見据えた。
「ああ。安心してくれ。」
その瞬間、クラウディアの瞳から大粒の涙が溢れた。クラウディアの涙に、テオドールはわたわたと慌てふためくが、涙は止まらなかった。
「……テオドール、さま。すき、だいすき。」
クラウディアの涙ながらの告白に、テオドールは少し面食らった顔をした後、そっぽを向いて「……ああ。」と答えた。クラウディアは、初めて、自分の想いがほんの少しだけテオドールに届いた気がした。
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