第15話


 畑の案内が終わると、次は工房に案内された。クラウディアに贈った木箱もここで作られたという。




「工房、と言っても、小さな小屋のような場所だがな。」




 そっけなく話すテオドールの言葉には、その場所を大切に思う気持ちも込められており、クラウディアは一人ほんわかしていた。




「クラウディア嬢?」


 ほんのりと微笑んでいるクラウディアをテオドールは訝しげに見ている。



「あ、いえ。その場所がテオドール様にとって大事な場所なのだなぁと思っていただけです。」




「む……まぁ、そうかもしれないな。」



(テオドール様……照れてるのかしら?か、かわいい……!)



 そっぽを向くテオドールの耳が薄っすら赤く染められたのを見て、クラウディアは胸をときめかせる。テオドールのイケオジポイントを見つけ出し、内心大喜びのクラウディアだった。





「ここだ。」



 畑よりほど近い場所に建てられたこの工房は、確かに見た目は小屋のような造りで、ウッド調の小さな建物だった。



「まぁ!」



 中を見たクラウディアは思わず声を上げた。中は、所狭しとテオドールの作った木箱が並べられており、そのどれもが目を引いた。真ん中には作業台が設置されており、工具が乱雑に置かれていた。椅子には座りやすいクッションが乗せられており、端の方にはお茶等を淹れる為のミニコンロも設置されていた。




「素敵です!まるで、テオドール様の秘密基地のようです。大事な場所と言うのも納得ですわね。」




「ん……ま、まぁ、そうだな。」



 またしても耳を赤く染めるテオドールを見て、クラウディアは不思議に思った。テオドールは正しく、ここを自身の秘密基地のように考えて整えていた。もう四十を過ぎた男が、秘密基地など可笑しいと分かっているが、この工房はとても居心地の良い場所だった。それをクラウディアにぴたりと当てられてしまい、耳を羞恥の色に染めてしまったなど、クラウディアは知る由もない。



 そして、テオドールが心の内ではこの場所を秘密基地のように思っていることを察しているサムとジョアンナは二人の後ろで笑うことを堪えていた。




「どれも、同じ模様の物は無いのですね。」




「ああ。手作りのものだからな。少しずつ変えている。」




 テオドールの言葉に、クラウディアの胸は高鳴った。クラウディアが大事にしているあの木箱は、この世界で唯一の物となる。クラウディアにはそれが嬉しかったのだ。




「クラウディア嬢?どうした?」




「い、いえ。あ、こちらの模様は?」




「ん?ああ、この模様は……。」




 木箱の説明を心なしか嬉しそうにしているテオドールと、それを楽しそうに聞いているクラウディア。二人の距離がいつもよりほんの少し近いことを、サムとジョアンナは微笑ましく見ていた。



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