第14話

 翌日。



 テオドールの屋敷の庭にて、無邪気に楽しく歩くクラウディアと、少し距離を開けて、緊張しながら彼女を案内するテオドールの姿があった。勿論、その後ろには、サムとジョアンナが嬉しそうに二人を追う。





(う……どうしてこうなった……。)




 テオドールの憩いの場所である、この庭がまさかここまで緊張する場所になるとは……。行き場のない、テオドールの思いを知らないクラウディアは、幸せそうにキョロキョロしている。




 前夜、テオドールの育てている野菜について聞きたがったクラウディアに、ぎこちなく答えていたテオドールだったが、それを聞いていたジョアンナが「クラウディア様に畑を案内されては?」と、(テオドールにとっては)とんでもない提案をしてきた。どう躱そうか考えたテオドールだったが、瞳を輝かせているクラウディアを見れば断れるはずも無い。テオドールは、畑の案内を了承せざるを得なかった。




「ふふふ、このお花、星のようで可愛らしいですね。」




「あ、ああ。これがズッキーニになる。」




「そうなんですね。楽しみです!」




 クラウディアは、心底楽しそうにテオドールの畑を見ては、時折、これは何か、これはどう育てるのか、と質問してくる。テオドールの下手な説明も一生懸命耳を傾けてくれている。




(本当に、楽しんでくれているのか……?)




 一般的な令嬢であれば、畑仕事に興味を持つなどあり得ない。ましてやクラウディアは公爵令嬢であり、王太子の元婚約者という、国一番の淑女と言って良い。そんな彼女がテオドールの畑を楽しんでいることが不思議でならなかった。





「あー、クラウディア嬢?このミニトマトを収穫してみないか?」




「へ?私にも出来るのでしょうか?」




「ああ。難しくない。」



 テオドールは、園芸用のハサミを使って、収穫して見せると、クラウディアにハサミを渡す。




「こちらを収穫しても宜しいでしょうか?」



「ああ。」



 真剣な眼差しで恐る恐る、ぱちんとハサミを入れると、クラウディアの片手にはコロンとミニトマトが乗った。




「と、とれました!」



 パァッと表情を輝かせるクラウディア。ミニトマトの収穫は何も難しいことではなく、子どもにもできることだ。だが、大仕事をこなしたようなクラウディアの様子に、テオドールは思わず笑顔を見せた。テオドールの笑顔を見たクラウディアもまた、嬉しそうに笑ったのだった。


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