第13話
「テオドール様、お帰りなさいませ。」
夕食の時間になり、とぼとぼと食堂に向かうと、クラウディアが遠慮がちに、はにかみながら迎えてくれた。
「あ、ああ。ただいま。」
正直、クラウディアのせいでここまで悩んでいるのだと、八つ当たりしたい気持ちがじわじわと侵食してくるが、流石にそれは自己中心的すぎるだろうと、自分を戒める。客観的に見れば、テオドールはそれほどクラウディアに翻弄されている、ということだが、女性慣れしていないテオドールが気付くはずはない。
夕食を取りながら、会話が弾むはずも無く、沈黙の気まずい時間が続く。サムとジョアンナの、鋭い視線を背中に感じるが、気の利いた会話など、テオドールは持ち合わせていない。
「あ、あの、テオドール様。」
沈黙に耐えかねたのだろう。クラウディアが意を決したように話しかけた。
「何だ?」
そっけない言葉が口から勝手に漏れ出た後、しまった、と後悔する。だが、クラウディアは、テオドールの冷たい返事に臆することなく、言葉を続けた。
「テオドール様は、畑で野菜を作られていると伺いました。何の野菜を作られているのですか?」
「あ、ああ。そうだな……道楽で作っているようなものだからな。季節の野菜を好きなように育てている。今は、夏に向けて、トマトやズッキーニ、パプリカなど植えている。」
「今日のサラダのレタスも、テオドール様の畑で採れたものですよ。」
「まぁ!」
ジョアンナが付け加えた言葉にクラウディアは、顔を輝かせレタスを口に入れた。
「美味しいです!」
頬を緩め、幸せそうに、レタスを食べるクラウディアをテオドールはぼんやりと見ていた。自分が作った野菜なんて、先ほど彼女に言ったように道楽でしかない。専門的に取り組んでいる訳でも無い、普通の味の野菜だ。それなのに、これほど美味しそうに食べる彼女を見ていると、食事の前の八つ当たりの気持ちなんて消え去っていた。
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