第12話
「「「お帰りなさいませ。」」」
朝出かける際に、サムとジョアンナから散々早く帰り、クラウディアと夕食を取るように念を押され渋々早く帰宅したテオドールを迎えたのは、テオドールが執務の為に雇っている経理や会計の者たちだった。皆、優秀な者たちなのでテオドールは全て任せっぱなしだ。なので、テオドールは彼らに会うのは久しぶりだった。
「な……。お前たち、どうしたんだ……?」
訝しげに尋ねるテオドールは、すぐに詰め寄られる。
「「「テオドール様。今すぐにでも、クラウディア様と籍を入れていただきたい。」」」
「はぁ?!」
困惑するテオドールを、サムとジョアンナは満足げに見ていた。
「クラウディア様は、本当に優秀で、本日の執務は大変スムーズでございました。」
「テオドール様の奥方になれば、扱える執務の範囲も広がります。」
「大変申し上げにくいのですが……テオドール様は執務がお嫌いですよね?それで必要な最終決裁が滞りがちになっていますが……クラウディア様と結婚されれば、テオドール様のお手を煩わせなくても済みます。」
「「「ですので、どうか、一刻も早く、クラウディア様と籍を入れて下さい!!!」」」
あまりの剣幕に、テオドールは暫く硬直したままだった。サムとジョアンナは大満足で、彼らを収めた後、退勤を促した。
「念のため、申しておきますが、彼らがどうしてもテオドール様にお伝えしたいと待っていたのですよ。」
「……。」
「勿論、テオドール様が仰っていたように、クラウディア様は本日の午前中しか働いておりません。それなのに、あれほど好かれたようです。」
「……。」
「テオドール様?」
テオドールは大きく溜息をついた。既に、クラウディアとの婚約についてキャパオーバーになっているというのに、まさかこのように懇願されるとは。腹立たしい思いもあるが、元々は自分が一切執務に携わらないことでの不満を彼らに抱えさせてしまっていたせいである。行き場のない思いが、溜息に現れていた。
サムとジョアンナは、目配せし、これ以上アプローチするのは逆効果だと判断し、すぐ退室した。テオドールは、ばたりとベッドに横たえると、また大きな溜息をついた。
テオドールは、決してクラウディアを悪いように思っていない。助けたいと思ったほどの相手だ。だが、クラウディアが強く想ってくれて、周りに懇願されて、テオドールだけが追い付かないのだ。
クラウディアが、あれほど若く無ければ。
クラウディアが、あれほど美しく無ければ。
クラウディアが、あれほど優秀でなければ。
……クラウディアが、甥の元婚約者で無ければ。
テオドールは、もっと素直にクラウディアの想いを受け入れられただろうか。そんな思いが頭を掠めた瞬間、テオドールは、頭を振った。クラウディアがこれまで努力してきたことを否定するような考えは、許せなかった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一人、部屋で叫ぶテオドールの声を聞いた、部屋の前で待機中のサムとジョアンナは、二人揃って肩を落とした。
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