ブッコローと消えた緑色の本

G

第1話 エレベーターから百貨店へ

白い工業的な光が満たされたエレベーターの中で自ら発した音を天井に当てた。


「はぁあ。」


エレベーターの動作音と混じりあいながら、ため息は反響していた。


今日も残業でひどく疲れた。それに、夕飯に洗剤を帰り道のスーパーで購入して、その後は業務に必要な文房具を買って。疲労が更に溜まっていた。


「なんで、こんな本買ったのかな。」


ボソッとつぶやきながら、スーパーで買った弁当の上に置かれた緑色の本に目を運ばせた。

この本は文房具を購入した本屋で買ったもので、レジ横の安売りカゴの中に一冊だけあった。

多々あるカゴの中の本で何故か気になってしまい、会計を済ませる前に「これもお願いします。」と店員に渡して購入してしまった。


「疲れて頭が回ってなかったのかなぁ。」


ちゃんとした本なんて久方読んでない。いつも読んでいるのは業務マニュアルと会議資料ぐらいなものだ。


「あーあ。」


目的の階への到着を今か今かと待ちながら、静かに目を閉じた。



~暗転~



長い。明らかに長い。

スーパーのレジ袋を長く持ちすぎて、指の肉に食い込んむ。これじゃぁ、いつか手がボンレスハムになっちまう。


「一体どうなっているんだ。」


このストレスの原因、それはさっきからエレベーターが一向に目的の階に着かないこと。いつもは1階から目的地の5階に1分もかからずに着くものが、5分以上経っている。階数の表示も3と4の間を交互に行き来してに進んでいない。

けれども、エレベーター特有の浮遊感は常にある。


「なんだよこれ。」


明らかに不可思議な状態を頭で必死に事態を理解しようとしていると、


チーン。


チャイムが鳴った。


「え?」


階数の表示を見るとランプたちの点滅ダンスは続いている。そして、エレベーターの扉がいつものように開いた。


「えっ?え?」


混乱する頭で目をきょろきょろとさせながら扉の先の様子を確認する。


「ここは、どこだ。」


見慣れないエレベーターホールだった。暖色系の灯りがあるが壁に数本あるが薄暗く、ホラー映画ならこの後に幽霊が目の前に立つだろう。

一抹の不安とエレベーターの止まった安堵感が交差させながら恐る恐るエレベーターから頭を出してみる。


「ぎゃーーー!!!」


突然、悲鳴が聞こえた。そんな悲鳴に対して自らも、


「ぎゃーーー!!!」


と悲鳴で呼応してしまった。



~暗転~


「しっかし、びっくりしたなあ。ぬるりと顔を出してくるんだもん。あなたの疲れ切った顔のせいで幽霊を見てしまったかと思ったよ。」

「こっちこそ。」


今、悲鳴の共鳴元と会話をしている。人語の話せる変な鳥だ。

悲鳴を共鳴させた後、お互いに害がないことを確認して、自己紹介を済ませた。

この鳥の名前は『R.B.ブッコロー』と言うらしく、彼も業務用のエレベーターに

乗っていた(載せられていた?)らここについたらしい。


「しっかし、どうしようかー。」


ブッコローは悩みながら周りを見渡している。


「あ。」


何か見つけたらしく、小さな足を素早く動かしながら壁に翼を当てた。

エレベーターホールの蛍光灯のスイッチだったようで、ホール全体に青白い光が行き渡った。


「うっ、まぶしっ。」


腕で目元を覆った。が、次第に目が慣れていく。


「廊下がある。」


ブッコローはまた何かを見つけたようだ。

光に慣れてきてエレベーターホールの全体像が映し出されるとエレベーターホールの一角から廊下が続いていた。

ブッコローは少し羽ばたきながら


「なんか、行きたくねぇー。怖ー。」


とぼやいている。

そして、互いに乗ってきたエレベーターのボタンを押してみたが、動かないので諦めて廊下を進むことにした。


~暗転~


先ほどまでいたエレベーターホールを背にしながら廊下をオレンジと茶色の色をした鳥と共に進んでいる。


「さっき、なんでエレベーターホールのスイッチを見つけられたんですか。」


不意にエレベーターホールでの疑問をぶつけてみた。


「ミミズクだから夜目が利くんだよー、モグモグ。」

「片目が夜目なのさ、モグモグ。」


晩酌用に買ったつまみをほおばりながらブッコローは答えた。


「そうか、ミミズクって夜行性か。」


と納得しつつ、ミミズクは燻製されたイカを食べれるという驚きが思考回路をめぐっていた。そして、弁当も食われそうと予想していると、廊下の先に扉が見えた。


「出口かー!!!」


ブッコローと私は廊下を走り抜けた。


~暗転~


扉を開くとそこは、百貨店だった。


レジカウンターの前でブッコローが声を発する。


「ザキ、なんでいるの?」

「わかりません。」


エプロンを纏った小柄な眼鏡のご婦人は「ザキ」と言うらしい。優しそうな風貌で赤いエプロンが良く似合っている。


「えぇ・・・。」

「うたた寝してたらここにいました。」

「おいおい、ちゃんと仕事しなさいよ。」

「休憩中でしたから!休!憩!中!」


漫才コンビでもしているのかと思うぐらいに調子がいい。どこかの演芸場で前座ができそうなほどだ。


「ザキさん、ここから出る方法知らないの?」

「あー、多分、ブッコローのいつも持っている緑色の本が必要みたいですよ。壁の張り紙にそう書いてあります。」


そう言うと、ザキさんは壁のほうを指さした。


「えっ、あ、本当だ。てか、脇に抱えてた本が無いんだけど!?」

「あれ?」


ブッコローは壁のポスターの脱出方法を読みながら言った。でかでかと緑色の本で出られますよと書かれている。


「緑色の本?そういえば、本屋でそんな本を買って、袋に入れた気がする。」

「え?本当!」


すぐさま袋を確認した。が、見つからない。皆で廊下まで戻って確認しても無かった。私もブッコロ―と同じく緑色の本を無くしていたのだ。

俯きながら百貨店へ戻る廊下で、ブッコローはザキさんへ質問した。


「さっきの百貨店に本無いの?」

「ないです。」

「やっぱり、置いてないよな。」

「あー。でも、百貨店の中にあった扉に『緑の本この先』って書いてあったような。」

「え?」


ブッコローと私は顔を合わせ、一呼吸おいてから共にザキさんへ一言。


「そういうの早く言って!」


~暗転~

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