DO YOU NEED ME?

チモ吉

病める時も、止める時も、辞める時も……

 きっとキミは現実主義だ。

 いや、もしかしたら理想主義かもしれないね。


 きっとキミは健康だ。

 何処か病んでいるかもしれないけれどって

 それでも、キミは生きている。


「ボクの将来の夢は――っ!」


「アタシは――っ!」


「オレは――になってやるぜっ!」


 目一杯の声、鬨の声にも似たその声の群れの傍にボクらはずっといた。

 キミ達の傍にずっといた。


 キミは今、何歳だろう?

 学生かな? 社会人? おじいちゃん、おばあちゃん?


 そんなこと、まぁ、ボクらには些細なコトだけど、一応の確認。


 生きてくのって簡単だ。

 資本主義社会の日本経済、社会、弱肉強食、傍若無人で酒池肉林な集合無意識の支配する現代だ。それでも弱者に対する最低限のセーフティネットは存在するからね。ま、本物の弱者ってのはそれにすら縋れないかもしれないけれど。


 死ぬのだって、簡単だ。

 飛び降りれば死ぬ。吊れば死ぬ。飛び込めば、死ぬ。

 その後、どんな迷惑が誰にかかるかなんて死に往くキミには関係ないコトだしね。


 さて、前置きはこれくらいにして本題に入ろうか。


 お題目は簡単。単純明快シンプルにして実に分かりやすい。チビッ子からボケ老人まで誰だって論ずるコトが出来るモノ。


 キミは――キミ達は夢を持ってたかな?

 あるいは、今だろうか。将来なりたい夢、叶えたい夢を持ってるかな?

 もしくは、もうとっくに手に入れて満足して、充実した日々を送っているかな?


 夢……憧れって言い換えてもいいね。


 なんだっていいさ。お笑い芸人になりたいとか、プロ野球選手になりたいとか、アイドル歌手俳優トップスター! 作家とか声優とか、ゲームクリエイターとか! もっと単純にお花屋さんとかパン屋さんとかでもいい! 堅実実直に会社員とか公務員とか、そういうのだって立派な夢さ将来さ!


 そんでもって、別に夢ってのは職業に限った話でもない。

 恋人が欲しい、あの車を買いたい、アイドルに会って握手がしたい。そういうのも夢だよね。超短期的に見れば、明日はあのお店でお高めな料理でも食べに行きたいなぁ、なんてのも夢って言ってもいいと思うよ。


 なにせ夢は夢だ。自由だ。夢は誰にも縛られない。


 若いキミは、きっとそれを持っていた。

 すくすくと育ったキミも、きっと持ってた。

 成人して、年を重ねて……


 さて、さてさて。

 けれども現実って残酷なもので。


 世界の真実は椅子取りゲーム、限られた資源を奪い合うゼロサムこそがこの世の真理。だから夢ってのも持つだけなら、憧れるだけなら簡単だけど、叶えられるとは限らない。


 痛くて辛い、文字通り世知辛い。


 例えば……そう、例えば野球選手。

 子ども心に見たプロの選手、大リーガーに憧れてソフトボールとかリトルリーグに手を出し始めたキミ。

 中学に入ると部活動で軟式野球、高校では硬式野球部に入って日夜野球漬けだったキミ。

 本気で甲子園を目指したり、プロ入りを目指したり……そんなキミ達。


 キミ達が本気で夢を目指せるのは、果たしていつまでだろうね?

 大半のキミ達はきっと、高校生くらいで自分の将来が見えてくる。自分が本気でプロ野球選手になれる器なのか、そうでないのか……真実や事実がどうなのかはともかくとして、なんとなくそれを自覚するんじゃないかな?

 そして、夢を追うのかそれとも捨てるのかを決断する。


 一握りの天才は、努力を重ねた天才なキミ達は甲子園からのドラフト指名という最高のコースで念願のプロ入り、でも大多数の非才凡才くんなキミ達はきっとそうじゃないよね?


 もし……もし天才じゃないキミ達が夢を追うのなら。

 どこかの大学に入学、あるいはどこかの企業に就職して大学野球か社会人野球をする、そしてプロを目指して研鑽するんだろうね。もしくは、プロテストを受けるのかな?


 でも夢を追えるのは期間限定。消費期限は分からないけど、賞味期限はすぐ近く。特にアスリート系はそうだよね。


 大勢の賢いキミ達は。悪く言えば臆病でつまらない、でも良く言えば慎重で現実的で堅実なキミ達は『フツウ』の生活をどこかで目指し始める。


 輝いていたはずの夢をいつか捨てて、忘れて――忘れたフリ、見ないフリして生きていく。

 だって、夢を追い続けて追いかけて、その先が行き止まりで何もなかったら。

 その未来になにも残っていなかったとしたら、夢を追うなんて愚行は馬鹿馬鹿しいもの。


 中途半端な野球しか能のない、なにも出来ないダメなヤツになるくらいなら。

 地に足ついた『フツウ』の方がマシ。お得。安定万歳。


 野球で例えたけど、他の夢も全部一緒さ。

 一部の天才が夢を叶えて、その他大勢は夢を捨てる。

 そうして夢を追いかける平凡な誰かを笑って、夢を叶えた天才に憧れて、そこそこの人生……80点の人生を目指すのが『フツウ』だよね。


 あぁ、うん、違うんだ。

 そんなキミ達の生き方を否定するつもりはまるでないんだよ。


 ただ……そう、ただ。

 ボクらは寂しいんだ。

 そんなキミ達を見ているとボクらはとても寂しい。


 もう一度、聞くよ?


 キミは今、夢はあるかい?

 あるいは、夢を持っていたかな?


 ボクらがキミに与えられるものなんて、ささやかかもしれない。

 ちっぽけかもしれない。

 思っていたよりも大したことなくて、ガッカリさせちゃうかもしれない。


 でもね。


 キミ達はボクらを捨てることが出来ても。

 ボクらはキミ達から離れられないんだ。


 だって、ボクらは夢の残滓。

 心の中に残って遺った在りし日の夢の影。


 努力が辛い。実るのかが不安で仕方ない。

 当然だよ。未来なんて誰にも分からないんだから。


 時には病んじゃうこともあるさ。

 時には止めちゃうこともあるさ。

 時には辞めちゃうかもしれないね。


 だからこそ。だからこそ。


 病める時も、止める時も、辞める時も。

 ずっとずっと、ボクらはキミの心の内にいるからね。


 捨てたフリをしても、忘れたフリをしても、絶対に逃がさない。


 だって、ボクらはキミ達の夢。昔抱いていた憧れだから。


 さて、そんなボクらからの最後の質問だ。


「キミにボクは必要かい? 案外、目指してみれば叶うかもしれないぜ?」


 そう、ずっとずっと。

 天使のように苛烈に、悪魔のように甘くボクらは囁き続けるよ。

 死がキミとボクを別つまで、あるいはキミがボクを叶えるまで。

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