第2話【夜明け前を支えたゲームブックの存在 その2】

 前回少しだけ触れましたが、『FFシリーズ』や『ソーサリー・シリーズ』の大ヒットを受けて、幾つかの出版社から海外作品のゲームブックが翻訳刊行されました。聞いたことの無いような小さな出版社もあれば、名のあるホビージャパン(当時はまだコアなユーザー向けだったと思われる)などもゲームブックの出版(冒険ファンタジーの『ローンウルフ・シリーズ』を展開していた)を行っていました。

 ホビージャパンは今でこそ出版業にも力を入れていますが、この時代はメーカー的なイメージが強かったです。社名の通りホビー中心でしたから、異例だったのでしょう(因みに90年代に一度出版業は思うような結果を出せずに終わった印象がある)。


 PCゲームを原作としたゲームブックもありました。『ラプラスの魔』(原作・監修は安田均氏・著作者はハミングバードソフト)や『ザナドゥ』(日本ファルコム・宮本恒之氏)などを持っていますが、どちらも子ども時代の筆者には内容が難しく感じられたので、ひょっとしたら途中で頓挫したまま、今に至っているかも知れません。


 そうした中で東京創元社からは、ゲームソフトメーカーのnamco(現バンダイナムコエンターテインメント)が発売していたファミコン用ゲームを基に、ゲームブック化した作品が多く出版されました。1985年の『ゼビウス』(namco名義だが、同社社員の古川尚美氏の作品)、1986年の『ドルアーガの塔 三部作』(鈴木直人氏作の伝説的な傑作)、1987年の『ドラゴンバスター』(古川尚美氏)、1988年の『ワルキューレの冒険』(namco・本田成二氏・木越郁子氏)など、コンスタントに発表されていました。さすがにメーカーが関わっているだけあり、秀逸な内容でした。

 ただ1987年以降は既にゲームブックが下火になっており、最後の『ワルキューレの冒険』は三部作の予告でしたが、私の手元には第1巻しかないため、実際三部作になったのかはわかりません。

 ブームが下火になったことで打ち切られた作品やシリーズもあったと思われます。


 またこうした作品以外にも、日本人による完全オリジナルゲームブック作品も多く出版されました。主に1986年から1988年頃の話です。

 一つ一つ細かく取り上げる時間はありませんが、『展覧会の絵』(森山安雄氏)や『ネバーランドのリンゴ』及び続編の『ニフルハイムのユリ』(林友彦氏)などは、当時のヒット作品でした。

 特に『ネバーランドのリンゴ』と『ニフルハイムのユリ』は、オリジナルの世界観を基にして作られました。ゲームブックとは言え、何かの原作を借りない初めての和製異世界ファンタジー作品だったのかも知れません。

 この時代に発売されたゲームブック作品は、現在幾つかが再発売や電子書籍化されているものもありますので、興味のある方は調べてみてください。


 この頃からグループSNEの安田均氏の名前も解説(あとがきの代わりに書かれるもの)などで見られるようになり、実際にゲームブック作品も幾つか発表されていました(一部はSNEになる前と思しきグループ名)。安田氏とグループSNEは東京創元社の他に、社会思想社(現在は消滅法人)や角川書店(現KADOKAWA)系列の出版物でも、とても重要な役割を果たしていました。


 1988年頃になると、東京創元社が主催していたゲームブックコンテスト入賞者の作品が発売されましたが、既に終焉に向かっている時代でしたので、特に大きな話題にならなかったと記憶しています。もしかしたらこの一回限りか、二回程度で終わってしまったのかも知れません。

 それでも何冊か持っていますが、三十数年ぶりに開いてみますと、どの作品も物語としての要素が十分に備わっていると思えました。ゲームブックではなく、少しあとの冒険ファンタジー小説としての作品であったなら、また違った評価だったのではと感じます。

 ゲームブックとしては時代が遅すぎ、冒険ファンタジー小説を展開するには、時代が少し早すぎでした。昭和時代も終わろうとしていた1988年(昭和六十三年)は、どちらにとってもちょうど谷間の時期であったのだと思います。


 以上、とても簡単ながら当時のゲームブックのことを書きました。本当ならゲームブックについて語りたいことは山のようにある(他社製だが、ファミコンゲームを元にしたゲームブックや、ルパン三世のゲームブックなどもあった)のですが、それを始めてしまうと違うエッセイになってしまいますので諦めます。またの機会に改めて話せればと思います。

 一部は他サイトである『小説家になろう』の『TRPG冒険狂時代』で、作品紹介などを行っています。興味のある方は検索してみてください。

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