176話 最後の一歩
ディヴァリアはシャーナさんとも関係を築きたいようで、今日は3人で一緒だ。
全く関わりの見えてこない2人であるから、どんなふうに接するのか、俺も知りたい。
一応、宰相がらみの策については、シャーナさんも知っていたようなのだが。
俺のいる前で、2人が会話しているところを見たことがあるか怪しいくらいだ。
ディヴァリアは俺と親しい人と、ちゃんと仲良くしようとしてくれている。ありがたい。
親しい相手どうしが仲違いしていると、心が苦しくなってくるからな。
一番好き嫌いが激しいディヴァリアと、他の人間の関係がしっかりしているのは助かる。
自分を軽んじる人間は、何があっても許さない人だからな。
「リオンよ。これで、お主が挑むべき試練は残すところ1つ。後は全て些細な問題じゃ」
「女神アルフィラの件か? 絶対に殺してはいけないんだよな」
「当然じゃな。女神アルフィラが死ねば、世界は滅ぶ。お主に見せたようにな」
「なら、どうやって対抗すればいいの?」
「答えを言うわけにはいかん。言ってしまえば、正解にたどり着けなくなる」
ああ。皇帝レックスの時と同じか。
俺の心が大きく関わってくるから、事前に答えを知れば歪むたぐいの。
そうなると、また心と向き合う必要があるのか。大変だな。
「リオンは納得しているみたいだね。私は理由が気になるけど」
「おそらく、心奏具と関わるなにかだ。あれは、変に意識したらダメだからな」
「ああ、確かに。自分の感情は、制御が難しいもんね」
「そういうことじゃな。それでも、脅威に備える心は持っていてほしい。厄介なものじゃ」
「なら、仕方ないかな。思わせぶりなことを言うだけなら、ちょっと困ったけれど」
ディヴァリアの意見も分かる話だ。
シャーナさんが未来を知っているという前提がなければ、俺だって不満に感じていた。
どれだけ情報を伝えると良い未来になるのか、よく考えてくれている。
その意識があるから、匂わせのような物言いも気にしてこなかった。
実際、シャーナさんの言う通りにしていればうまく行ったことはとても多い。
その経験こそが、信頼に繋がっていったのだからな。
ただ、未来を知っているだなんて急に言われても、きっと信じなかったはずだ。
俺が原作で、未来視の魔女という名前を知っていたからというのもあるが。
「これでも、最大限に言えることを言っておる。リオン達の未来を、ずっと見ていたいからな」
「ありがとう。シャーナさんに期待してもらえるのは、とても嬉しいよ」
「魔女を信頼すれば、痛い目にあうと言いたいところじゃが。うちはお主にほだされてしまった。罪な男じゃよ」
「あはは、大変だね。でも、リオンは一度好きになった人を嫌いにはならないから。多少、本性を見せても大丈夫だと思うけど」
まあ、ディヴァリアを好きでいるくらいだからな。
人を殺すことに、何の抵抗も覚えていない人間を。
それを考えれば、多少の問題くらいで嫌いになる気はしない。
「知っておる。それでも、できる限りお主の前では頼れる師匠で居たい。まったく、未来視の魔女がな」
「シャーナさんが尊敬する師匠であることは、何があっても変わらないよ」
「だからこそ、じゃな。うちにも、人間らしい感情があったのだと驚いておるよ」
「リオンは、誰かをずっと大切にする人だからね。心地いいのは分かるよ」
まあ、親しい相手とはずっと仲良くしていたい。それは確かな本音だ。
ディヴァリアとも、シャーナさんとも、他のみんなとも。
女神アルフィラが立ちふさがるのだとしても、乗り越えてみせる。
というか、なぜ女神が出てくるのだろう。
やはり、絆を愛する存在として、ディヴァリアは気に入らないのだろうか。
今から理由を考えていても仕方ないか。
結局のところ、本人と会わないことには何も分からないのだから。
俺としては、絆を紡ぐことは幸せだと思うから、女神アルフィラを悪くは思っていない。
というか、敵対すると確定したわけじゃないからな。
「未来を知る人間に対して、周囲は基本的に欲か敵意を見せる。それに慣れていたうちには、リオンは劇薬じゃった」
「そうだよね。私だって、誰からも理解されてこなかったから。リオンが受け入れてくれて、どれだけ嬉しかったか」
そこまで特別なことをした記憶はない。だが、本人達が大事にしている感情だものな。否定するのは無粋だ。
もっと大切なことは、これからもディヴァリア達を幸せにしていくこと。
せっかく俺と出会って嬉しいと思ってくれているのだから、その喜びをもっと大きくしたい。
「お前達が喜んでくれて、俺も嬉しいよ。大切な人が幸福であるのは、幸せなことだよな」
「ふふっ。私を大切だって言ってくれることは、とても力になるんだ。きっと、誰にも負けないくらい」
「そうじゃな。お主がいてくれたおかげで、うちの心は確かに強固になった。この世界で、大きな意味を持つことじゃ」
心奏具を始めとして、心が大きく影響する世界だからな。当然だ。
俺だって、本当の心を理解することで強くなれた。
心の形がハッキリしていることで、より強い力を得られるから。
その根源が俺への想いだと考えると、照れくささもあるが。
「俺が役に立てているのなら、何よりだ。もっともっと、幸福を知ってもらいたいものだ」
「リオンだって、幸せになってもらわないとね。私のリオンなんだから」
「そうじゃな。お主の未来をずっと見ていたい。それは、お主の絶望を見たい訳では無いのじゃから」
「ありがとう。でも、お前達がいてくれるだけで、俺は十分に幸せだよ」
間違いなく本音だ。俺にとって大切なものは、親しい相手だけと言っても過言ではない。
これまで積み重ねてきた時間が、みんなを大切に想う心を育ててきた。
だから、これからもっと大事な存在になっていくだろう。つまりは、みんなと一緒にいる時間が一番の幸せなんだ。
「なら、これから先もずっと幸せだね」
「そうじゃな。うちらはリオンから離れたりしない」
「それは嬉しいな。お前達がいるのなら、どんな未来にだって立ち向かえるよ」
「うちが見ている限りでは、お主が苦難に襲われる未来は、もうない。最後の課題も、命には関わらぬからな」
「女神アルフィラが出てくるんだよね。じゃあ、敵じゃないってこと?」
「そこまでは言えぬ。じゃが、きっと今のお主達なら、最高の未来をつかめるじゃろう」
シャーナさんの期待に応えて、最高の未来をつかみ取ってみせる。
そうすれば、みんなで幸せになれるはずだ。
誰にも邪魔されずに、穏やかな日常を過ごしたいものだな。
女神アルフィラか。俺がこの世界に生まれたことに関わっているのだろうか。
何にせよ、殺すことはできない相手なんだから、手を取り合いたいものだ。
「ああ、きっとシャーナさんの望む未来にしてみせるさ」
「お主の長い戦いも、そろそろ終わりじゃな。その先の未来で、お主と過ごす。とても楽しみじゃ」
「そうなんだね。じゃあ、私達で幸せに暮らせそうだね」
これから先、みんなとの幸福な日常を過ごせるなら、それ以上はない。
だから、シャーナさんの言うところの最後の試練。女神アルフィラとの邂逅を。しっかりと乗り越えないとな。
女神アルフィラの望みが何であれ、俺達が幸せに過ごせる未来をつかんでみせる。
「楽しみだな。その前に、難題が待っているようではあるが」
「お主なら、きっと。うちの理想を見せてくれるはず。そうでなくとも、失望などせんが」
「リオンは私の期待を、いつだって上回ってくれた。だから、大丈夫だよ」
「そうじゃな。だからこそ、リオンに希望を見てしまう。魔女をたぶらかして、罪深いものじゃ」
「でも、リオンなら責任を取ってくれるから。だから、よろしくね」
「うちらの執着は、きっとお主が想像している以上だからな。それでも、受け入れる未来が見える。だからこそ、絶対にお主を離しはしない」
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