169話 出会いの喜び

 今日はユリアとディヴァリアと過ごすことになっている。

 予定をディヴァリアに決められるのはもう慣れたが、最近は本人も一緒に過ごしたがるな。

 やはり、さびしい部分もあったのだろうか。よく分からないが。

 とりあえず、ディヴァリアと一緒にいる時間が長いのは嬉しくはある。


「聖女様、わたしの演技、いかがでしたかっ?」


「良かったと思うよ。宰相も、ユリアと私が敵対しているって信じたみたいだし」


 そうじゃなければ、ユリアの言葉なんて言って告発の材料にしないよな。

 疑っていたならば、もっと別のやり方のほうが効率が良かったのだから。

 ディヴァリアを敵に回した時点で、どのみち死んでいたとは思う。

 だとしても、ユリアのおかげで楽ができたという側面はあったのだろうな。


「聖女様を告発しようなんて相手は、結婚相手のリオンさんの敵でもありますっ。死んでくれてよかったですねっ」


 俺の知り合いの中で、ユリアが一番過激なんじゃないかと思う瞬間がある。今とか。

 なんというか、俺を敵に回した人間を皆殺しにしたいような気配を感じる。

 ある意味では、ディヴァリアより危険な思想を持っていそうなんだよな。

 俺が立ち振る舞いに気をつければ、ある程度は軽減できそうではあるが。


 慕ってくれているのは嬉しいが、ときおり恐ろしいと感じるんだよな。

 俺がユリアを幸せにしている限りは、大丈夫だとも思っているが。

 良くも悪くも、俺が救ったからこそだからな。

 使用人として仕事に励んでくれているし、邪魔だと思うことはないが。


「リオンの敵は、私の敵でもあるよ。だから、結果は決まっているんだ」


 そういえば、ユリアはディヴァリアの本性を知っているみたいなんだよな。いつからだろう。

 ソニアさんに疑いの目を向けていたのは、何だったのか。それによって、知った時期が割り出せそうな気もする。

 まあいいか。ディヴァリアに敵対する訳ではなく、気にしていない様子だからな。

 故郷では愛されていなかったようだし、仇とは思わないのだろうな。


 ユリアを拾ったことは、俺とユリアの両方にとって良かったことなのだろう。

 俺は信頼してくれる相手を手に入れたし、ユリアは大事にしてくれる人間を見つけた。

 自分で言うのも何だが、事実に近いと思う。

 命がけで助けてくれるような相手は、普通に生きていては出会えないことも多いからな。

 それは、俺に執着してもおかしくない環境だったよな。


「なら、安心ですねっ。リオンさんの敵なんて、みんな死ぬべきなんですからっ」


「そうだね。私のリオンを傷つけようとする人なんて、みんな居なくなっちゃえばいいよ」


「だからといって、ケンカしたくらいの相手を殺されても困るぞ」


 間違いなく本音だ。こちらを殺しにかかってくる敵なら、俺だって殺そうとする。

 でも、意見が違うとか、たまたま機嫌が悪かったとか、それくらいの事で殺されてはたまらない。

 今更殺すことを忌避などしないが、それでも死人は少ない方が良いからな。

 敵を減らすという考えは大事になってくるだろうな。特にユリアのことを考えると。

 俺の敵だと知っていて見逃すというのも、ストレスになるだろうからな。


「今回の件でのサクラやユリアを殺したりはしないよ。流石にね」


「リオンさんにとって大切な人が誰かくらい、分かっているつもりですっ」


 それなら、あまり大きな心配をしなくて済みそうだな。

 死人が少ない方が良いとは言っても、どうでもいい他人のために大きな手間をかけるつもりはない。

 大切な人の安全がキープされている限りは、苦しみを感じることは少ないだろうな。


 ディヴァリアは完全に理解してくれている雰囲気を感じる。

 ユリアの方は、ちょっと怪しいんだよな。まあ、親しい人を攻撃しないでくれるだけでも十分だが。

 極端な考え方をしているのは分かるから、少しずつ誘導していきたいな。

 あまり意見を押し付けても仕方ないから、自然な形になるように。


 つまりは、うまく褒めていかないとな。

 相手にとって信用される人になった上で、お前ならできると言う。それが、自分の望む方向へ人を操作する極意だと思う。

 俺にとって役に立つ人は、敵でも見分けられるよな? なんて言い回しが有効なんじゃないだろうか。

 まあ、おいおいだ。今すぐに殺されるような敵が現れたりしないだろう。


「あまり心配はしていないけどな。ディヴァリアもユリアも、俺が嫌がることは知ってくれていそうだし」


「そうだね。リオンだって、私が嫌がることはやめてくれるからね」


「わたしは、リオンさんになら何をされてもいいですよっ」


 少なくともユリアにとっては本音なのだろう。

 それでも、嫌がることをする機会は少ないに越したことはない。

 完全にゼロにすることは、お互いが人間である以上不可能だ。

 だとしても、親しき仲にも礼儀ありだからな。

 ちゃんと、みんなのことを尊重していかなければな。


「そういえば、ディヴァリアとユリアはいつの間に仲良くなっていたんだ? あまり一緒にいるところを見てこなかったが」


「聖女様から、仕事を頼まれたりしていましたからねっ。ある程度会話はしていたんですよっ」


「ユリアとは、リオンの話で盛り上がれるからね。共通の話題があるのは便利だよ」


 ユリアは完全に本性を知っているのだろうな。

 そうなると、俺の知らない間に誰かを殺していたりするのだろうか。

 嫌いになることは無いだろうが、少しだけ気になる。

 まあいい。仲良くしているのなら、何も問題はない。

 

「あまり恥ずかしい話はしないでくれよ。いや、俺のいないところでなら自由ではあるのだが」


「リオンの失敗なんかを話してほしくないってことだよね。分かるよ」


「わたしは気になりますっ。きっと、もっとリオンさんを好きになれますからっ」


「ディヴァリア、やめてくれよ。本当に。頼むぞ」


「焦らなくても大丈夫だよ。私だけの秘密の方が、楽しいからね」


「リオンさんと幼馴染なの、うらやましいですっ。仕方ないことではありますけどねっ」


 まあ、生まれだけはどうにもならないからな。

 ディヴァリアには、本当に何でも知られている。情けない失敗もいっぱい。

 別に俺のいないところでなら話されても構わないが、できれば知られたくはないな。

 まあ、誰にだってある恥ずかしい過去だからな。本気で嫌がるほどではない。


「ユリアも、これからはずっとリオンと一緒だからね。私とリオンの使用人として、リオンの妻の1人として、仲良くしようね」


「もちろんですっ。聖女様は、リオンさんと出会わせてくれた恩人なんですからっ」


 おいおい。ユリアは故郷を襲った黒幕を知っているのか。

 その上で恩人呼ばわりするだなんて、よほど周囲が嫌いだったのだな。

 あの村が滅んだことは悲しいが、ユリアを傷つけていたことは許せそうにない。

 とてもいい子なんだから。幸せになるべき子なんだから。


「つまり、真実を知った上で宰相の告発を邪魔したわけか」


「そうですねっ。リオンさんの幸せを邪魔する人は、死んで当然なんですからっ」


「私にとっても、リオンにとっても、大切な仲間になってくれるよ。いい相手を助けたよね」


「ああ。ユリアと出会えたことは、帝国との戦争の流れでも、数少ない良いことだった」


 後は、フェミルやエリスと出会えたこと、自分の本心に気づけたことくらい。

 なんだかんだで、犠牲は多かったからな。嬉しくないことの方が上回ってはいる。

 それでも、今が幸せだからな。犠牲になった人はかわいそうだが、終わったことだ。


「わたしも、リオンさんと出会えてよかったですっ。だから、これからもずっと、リオンさんと聖女様を支え続けますからねっ」


「ユリアを見つけてくれたことは、私達2人にとって良かったよね。ユリア、お互いにリオンを支えていこうね」


 俺の知らないところでも、関係が生まれている。良いことだ。

 これからも仲良く過ごせるように、俺だって手を尽くしていこう。

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