168話 友情と幸福

 今日はサクラとディヴァリアと一緒だ。

 俺の家ではなく、ディヴァリアの家。完全に仲直りというか、関係が元に戻っていると思えるな。

 演技だと思っていたとはいえ、ほんの少しくらいは本当だったらと考えていたからな。


「ねえ、サクラ。宰相の態度、面白かったよね」


「そうね。ところで、ディヴァリア。宰相が言っていた悪事って、あんたがやっていたの?」


「だとしたら、どうするの?」


 会話の内容は不穏なのだが、とても和やかな雰囲気だ。

 サクラは完全に俺達に染まってしまったな。嬉しいような、やらかしてしまったような。

 もはや、主人公らしさは大きく失われてしまったのかもしれない。

 でも、大切な友達であることは変わりはしない。そういえば、結婚相手にもなるんだよな。

 初めて出会ったときには、全く想像もしていなかった。


「前にも言ったと思うけど、あんた達と離れ離れになる善より、一緒に居られる悪がいいわ。あたしにとって何より大切なのは、あんた達だから」


「ふふ、嬉しいな。サクラは本当に私達が大好きなんだね」


「もちろんよ。リオンとも結婚できることだし、今の幸せを逃したりしないわ」


「サクラ達と居ると、俺がすごい人間なんだって思い込みそうになるよ」


 実際、俺は大した人間じゃないはずだ。

 周りに支えられるばかりで、自分で成し遂げられたことなんてほぼない。

 ディヴァリアの好意だって無視する有様で、とても自分を評価できないんだよな。

 みんなが褒めてくれるばかりで、勘違いしそうにはなるが。


「ふふっ、仮に大した人間じゃなくても、私にとっては大好きな人だから」


「あたしも同じよ。無理に自信を持てとは言わないけど、自身を持っても良いだけの事はしているのよ」


「2人とも、ありがとう。2人にふさわしい人になれるように、頑張るよ」


「もう十分よ。あたしにとって、あんたの代わりなんて居ないんだから」


「そうだね。リオン以外の人を選ぶつもりはないかな」


 ありがたいことだ。大切な人から求められる以上に嬉しいことなんてない。

 俺の心が満たされてく感覚があるな。俺は無価値では無いんだと思える。

 勇者としての名声こそあれど、やはりみんなには釣り合う気がしない。

 それでも、必要とされる限りはそばに居るんだ。大好きな人達の。


「自分に自信が持てそうだよ。どうしても、俺は大したことない存在に思えてな」


「あたしも気持ちは分かる気がするわ。周りに比べて、何も持っていないような感覚よね」


 そうなんだよな。ディヴァリアを始めとして、周りの人間がすごすぎる。

 俺はあくまで凡人なんだという考えが、いつまで経っても抜けなかった。

 トゥルースオブマインドに目覚めた俺は、力という意味では飛び抜けたとは思うが。

 ただ、ディヴァリアたちが好きでいてくれる俺を、あまり卑下するのもどうかという話だよな。気をつけよう。


「サクラも悩んでいたんだな。やはり、話してみるものだな」


「そうね。リオンが劣等感で苦しんでいたことは知らなかったもの。今なら言えるわ。リオンは最高だって。そんなあんたが好きで居てくれるあたしも、きっと悪くないんだって」


「なら、きっと俺も悪くないな。ディヴァリアとサクラ、他にも好きで居てくれる人がいるんだから」


「本当だよ。私達のリオンは最高なんだから。あまり、悲しまないでね」


 俺が自分を悪く言い続けたら、きっとディヴァリア達は苦しむ気がする。

 だから、ちゃんと自分を信じてあげよう。ディヴァリア達の隣にいて良いんだって。

 当たり前のことだが、ディヴァリア達は誰にでも好意を向ける人じゃないんだから。

 ちゃんと、俺のことを認めた上で好きになってくれたんだから。


 それに、ディヴァリアが私達のと言ってくれている事も大事にしないとな。

 つまりは、周囲の人間を大切にしていることの証なのだから。

 昔のディヴァリアならば、自分以外の人間と想い人が結ばれるなんて、きっと許さなかった。

 だからこそ、良い変化をしているのだと感じられる。俺の努力は無駄ではなかった。

 何もできていないと思い続けていたが、間違いなく影響は与えているのだから。


「ああ。俺はディヴァリア達が認めてくれる人間なんだって、自信を持つよ」


「それなら、あたしもね。リオン達が友達だと思ってくれて、大切にしてくれる。そんなあたしなんだって」


「2人とも、大好きだよ。私は2人と出会えてよかったし、一緒に居られて幸せだよ」


 ディヴァリアは、俺達2人共を抱きしめてくる。

 俺とサクラは顔を見合わせた上で、自然と笑い出した。

 本当に良い出会いができたものだ。間違いなく、俺だってサクラだって幸せだからな。

 お互いがお互いの幸福になっている今が、きっと夢よりも上なんだ。


「ディヴァリアも欲張りよね。あたしもリオンも自分のものにしたいんだから」


「そうだね。リオンもサクラも、誰にも渡さないよ。この先の人生すべて、私のものだから」


 ディヴァリアは間違いなく本気で、だからこそ嬉しい。

 それほどに執着してくれているのだと思うと、胸が暖かくなりそうだ。

 サクラも同じ気持ちみたいで、お互いにディヴァリアを抱き返していった。


「大歓迎だ。ずっと、一緒だからな」


「そうね。でも、ディヴァリアだってあたし達のものなのよ」


「うん。嬉しいよ。私を求めてくれて、ありがとう。絶対に離さないからね」


「こちらこそ、よ。あんたの隣も、リオンの隣も、絶対に奪わせないから」


 仲が良さそうで何よりだ。ここまでお互いを思い合っている2人が、原作では敵対していたんだからな。分からないものだ。

 サクラは自己肯定感が低そうだったから、そこに刺さったのだろうが。

 俺もディヴァリアも、サクラに大好きだと意思表示を続けていた気がするからな。


 サクラが原作で攻略対象と仲良くしていたのは、きっと共感だったのだろう。

 マリオ達は、どいつもこいつも自分を信じられていなかったからな。

 そう思えば、俺はサクラに共感していたのだろうか。

 暗闇の中を進む迷子のような気分に、長い間苦しめられていたからな。


「リオンとサクラは大切にするね。いつまでも、私の2人だから」


「あたしだって、2人を大切にするわよ。最高の友達であることは、未来でも変わらないから」


「俺も同じ気持ちだ。俺の日常の象徴で、幸せの形なんだから」


「私達は、ずっと仲良しでいられるよね。きっと、これから先もずっと。だから、永遠に幸せだよ」


 そうなれたら良いな。所詮は子供の約束かもしれないが、叶ってほしい願いだ。

 どんな未来が待っていたとしても、今この瞬間の輝きは色あせたりしない。

 それでも、ずっと未来まで続いてほしい幸福だからな。

 俺のできることを全力でこなして、よりよい未来を目指していこう。

 俺を大好きで居てくれる人たちへの、せめてもの恩返しだ。


「あんた達を嫌いになるなんて、ありえないわよ。あたしに幸福を教えてくれた人なんだから」


「お互い様だね。一番はリオンだけど、サクラも大切な気持ちを教えてくれたから」


「リオンのことも含めて、お互い様ね。ディヴァリアがいたからこそ、あたしは強くなれたの」


 こんな光景が続くように、俺にできること。

 きっと、大好きの気持ちを伝え続けることは大事になる。

 他にも、相手の気持ちを尊重していかないとな。お互いが幸せになれるように。


「ディヴァリアにサクラを紹介して、本当に良かった」


「リオンのおかげだからね。私達が友達になれるって信じてくれたから」


「だから、あたし達はリオンを離さないわ。どんな未来でも、繋がり続けるから」


「そうだね。リオンを奪おうとする相手は、2人とも許さないよね。だから、ね? 私達を離しちゃダメだからね。約束だよ」

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