167話 ディヴァリアの憩い
今日はディヴァリアと2人きりだ。
俺の家に来ていて、ユリアとも和やかに会話していた。
それで、俺の部屋でゆっくりと過ごしたいとのことだ。
さて、どういう意図でケンカを演じていたのか、本人に聞いてみるか。
「もう、仲違いするフリはしなくて良いんだよな?」
「そうだね。リオンが協力してくれて助かったけど、困惑しているくらいの方が都合は良かったかな」
まあ、確かにな。結婚相手で、ディヴァリアがどう考えても好きな相手。
それが何も知らない様子なら、策だと疑うのは難しくなるよな。
だからこそ、俺には何も伝えなかったのだろうか。せっかくだから、理由も聞いてみたいな。
「なるほどな。第三者から見れば、俺が状況を理解できていない方が良いもんな。ところで、俺ともケンカしようとは思わなかったのか?」
「リオンまで私に嫌悪感を持っている方が、策としては良かったんだけどね。でも、仮に演技でも、リオンに私と敵対してほしくはなかった」
本当につらそうな表情で、俺への好意が伝わってくる。
あらためて、ディヴァリアへの愛しさが湧き上がってくるようだ。
なんというか、すごく可愛らしいよな。好きな人に嫌われたくないというのは、当たり前の感情のはずなのに。
「それは嬉しいな。俺だって、お前と仲が悪いフリというのは嫌かもな」
「リオンがそう言ってくれて、私も嬉しいよ。お互い、大好きだもんね」
俺はディヴァリアが大好きだし、相手の方だって同じ。
単純な事実だけなのに、舞い上がってしまいそうなほどだ。
ハッキリと、でも無いにしろ。好意を伝えられるというのは気分がいい。
そう考えると、俺も思いを伝えていった方が良いのだろうな。
いつでも、何度でも、しっかりと好意を口にしていこう。
「ああ、そうだな。大好きな相手に冷たい態度を取られるのは、苦しいよ。俺をケンカの対象に選ばないでくれて、ありがとう」
「私のワガママではあったんだけどね。リオンには、少し心配させちゃったかな」
「まあ、多少はな。でも、割とすぐに答えにたどり着けたぞ」
「サクラと親しい人なら、すぐに違和感に気づけたかもね。でも、宰相は遠くからしか見てこなかったから」
今思えば、宰相は急ぎすぎたのだろうな。
まあ、ディヴァリアにスキらしいスキは思い当たらない。
何度も回ってくる機会ではないと思えば、おかしな判断ではないのか。
名声があって、強くて、暗殺も難しい。そうなると、どうすれば良いかなんて分からないもんな。俺だって分からなかった。
だから、目の前に希望が見えてから飛びついてしまったのだろう。
ディヴァリアが弱点に見えるものを用意したのは、きっと暴走を避けたかったからなのだろう。
四方八方を敵に囲まれれば、ヤケクソになってしまう。だから、東側なら突破できそうに見せかける。基本的な戦術ではあるな。
全く希望が見えないと、何をするか分からない。
敵の目標がハッキリしていれば、動きを読みやすい。そんなところか。
「結局、敵は宰相だけで良かったのか?」
「他にも居たけど、動けなくなっているみたいだね。どうしてもダメそうなら殺すけど、積極的になにかするつもりはないよ」
ずいぶんと穏やかになったものだ。機嫌を損ねたら死んでいた頃が懐かしい。
今のディヴァリアなら、本当に最低限しか殺さないかもな。
侮辱した相手は絶対に殺していた時期のディヴァリアは、とても恐ろしかったものだが。
今でも、敵にとっては恐怖の象徴なのかもな。宰相と同じ目には合いたくないだろう。
「なら、しばらくは落ち着きそうか」
「そうだね。私の本性を知っている人間は、もともと少ないからね」
つまり、ディヴァリアの本性を知ることができる立ち位置の人間が敵になりうる。
でも、本質を知っている人間は、相応の立場だからな。軽率な行動をする人間は少ないと見て良い。
誰だって命は惜しいだろうさ。暗殺という手段も、民衆を操るという手段もとれるディヴァリアが相手だからな。
俺なら、絶対に敵対しようとは思わない。勝てる気がしないからな。
「なら、結婚式までは穏やかに過ごせそうだな」
「うん。サクラ達とも、結婚の順番なんかを決めていかないとね」
今のところは、ディヴァリアが1番、サクラが2番なんだっけか。
俺の意見は聞かれないあたり、反対しないと思われているのだろうか。
まあ、別になにか意思表示したい訳ではないから、良いんだけどな。
少し困惑はしたが、もう慣れてしまった。どうせ知り合いが相手なのだから、好きにすれば良い。
最大の問題は、ディヴァリアが嫉妬や悲しさに支配されないかということ。
その本人が積極的に動いている以上、まあ大丈夫だよな。
領地の発展のために政略結婚するという展開も想像していたからな。今は楽なものでしかない。
「色々な意味で、生活が大変になっていきそうだな。慣れるしかないとはいえ」
「みんなに囲まれちゃう訳だからね。疲れそうではあるね」
「そうなんだよな。みんなが嫌いな訳では無いが、負担は否定できないからな」
「頑張ってね、リオン。私は応援しかできないよ」
応援されるだけでも、ありがたいことだ。
というか、実際に協力されたら困りそうだぞ。
他の人達との生活を、ディヴァリアに管理される訳だからな。
尻に敷かれるのが嫌というより、誰に何を言ったか、したかを知られるのが怖い。
ディヴァリアを一番に扱うつもりではあるから、大きな問題は起きないと信じている。
それでも、サクラに2回好きって言ったよねなんて言われたら恐怖だ。
というか、いつか父さんが言っていたようにハーレムみたいな環境だ。嬉しくはあるが、来る所まで来てしまったな。
「他の女との生活に協力するなんて言われたら、ビックリするぞ」
「確かにね。私だって、嫉妬の心はあるからね。サクラ達を大事にしているだけだから」
ディヴァリアの顔は優しくて、本当にサクラ達を好きで居ると感じられる。
一回仲違いしている姿を見たから、また仲良くしてくれそうでありがたい。
いくら演技とはいえ、本当にこじれたらと思う瞬間もあったからな。
親しい人どうしの仲が悪くなると、普通に心が苦しい。
「すっかり親友になったな。紹介したとはいえ、今ほどサクラと仲良くなるとは思っていなかったよ」
「分かるよ。私って好き嫌いが激しいからね。でも、サクラと出会ったときから印象は良かったんだよ」
本当に意外だ。原作では敵対していたし、ディヴァリアとは反対に見えていたから。
今のサクラは悪事でもやりそうだとはいえ、原作では正義の人だったからな。
マリオ達、攻略対象の心の闇を晴らす存在だったんだ。
「理由は聞いて良いのか?」
「なんていうか、リオンに似ていたんだよね。お人好しそうなところが」
俺がお人好しかと聞かれたら違う気はするが、サクラの印象としては正しい気がする。
歪めてしまったとはいえ、今でも大切な相手のために頑張れる人だから。
やっぱり、友達としては最高の相手だと思うんだよな。
「そうか。サクラはずいぶんとまぶしくて、俺からは遠いと思っていたが。結構嬉しいな」
「リオンだって、輝いていたんだよ。私に幸せを教えてくれた人だからね」
「お前の幸せを守っていけるように、頑張るよ。約束する」
「うん。ずっと一緒にいようね。サクラ達とも、仲良くしていけるようにね」
「ああ、もちろんだ。絶対に叶えてみせる」
「リオンだけが居てくれれば、昔は十分だったんだけどね。私が変わったのはリオンのせいだから。責任、取ってくれるよね?」
小首をかしげながら言われた。
もちろん、誓うよ。ディヴァリアがそばに居てくれるのなら、何だってできるからな。
――――――
私は以前から計画していたように、サクラ達とケンカするふりをした。
リオンは戸惑っていたみたいだけれど、すぐに合わせてくれた。
シャーナが未来を見た上で、少しだけ手助けするって言っていたからね。
本来のリオンなら、きっと答えが分からないままだったと思う。
それで、私が予想していた以上に傷ついちゃう未来を見たんだろう。
やはり、シャーナは使える。未来視の能力を聞いた時点で使い道はいくらでも思いついたけど。
リオンに対して知ったような口を利いていたことにも、納得はした。
何度も未来を見て、本当に人格から何からを理解していたのだろう。
だから、許してあげてもいいかなって。私のリオンを翻弄していたことも。
宰相を罠に掛ける上で、シャーナの力はずいぶんと役に立ってくれた。
どの程度の計画ならば引っかかるか、事前に検証できる訳だからね。
それでも、一番はミナの能力かな。
宰相の情報をあらゆる角度から集めてくれて、人格を割り出すこともできた。
その上で、宰相の仕事を把握できたから、死後に後任を決める戸惑いも抑えられて。
――数は力だよ。単純に暴力や物量で押し切る以外にも、様々な得意分野の人を集められるからね。
リオンの言っていたことは正しかった。
色々な特技を持った人が集まることで、計画は簡単に進んでいったから。
私は最強だけど、周りと協力することでもっと強くなれるんだ。
ミナやシルク、ルミリエ。ソニアやシャーナにサクラ。他の人達だって。
彼女達の力を使うことで、私が望む世界を形作ることができる。
私達が幸せになって、他のすべてを道具として利用できる社会を。
後は、リオンと結婚するだけ。それで私の望みは全て叶う。
リオンが一緒にいてくれるなら、絶対に幸せになれる。
だから、リオン。私の支配する世界で、ずっと一緒にいようね。
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