147話 備えあれば憂いなし

 今日は教国との戦いに向かうメンバーで作戦会議をしている。

 俺とディヴァリア、ミナとシルクにルミリエ、ソニアさんだ。

 相変わらず俺の家で、完全にいつもの場所になっている。

 まあいい。大事なことは、どうやってミナ達の安全を守るかだ。

 そして、できることならば犠牲を減らす手段を構築したい。


 優先順位としては、親しい人が第一、見知らぬ人が第二だ。

 ミナ達が無事であるのならば、最低限の目標は達成できたことになる。

 しっかりと順位付けすることで、いざという時に動きやすくなるからな。ちゃんとやろう。


「俺とディヴァリアで攻め込めば、大抵の敵は倒せると思う。だから、優先すべきはミナ達の安全だ」


「そうだね。シルクがいれば、大体の状況はどうにかなるかな。だから、不測の事態に備えたいね」


「小生の方でも、ミナ様を始めとした方々を守りたいと思います。王族を守るのが、近衛騎士の務めですから」


「わたくし達としては、最低限の威圧だけできれば十分な活動ですから。後はディヴァリアとリオンに任せます」


 まあ、王族の仕事は前線で戦うことではない。それなのに強さを求められるアストライア王国がおかしいのだが。

 とはいえ、この国の体制にまで口出しはできない。ミナ達が変えてくれるのを祈るばかりだ。

 もちろん、協力を求められれば何だってするつもりではあるが。


 とりあえずは、目の前にある教国との戦争だ。

 宣戦布告の後に攻めてくる様子らしいよな。他にはどの程度の情報を集めているのだろうか。

 恐ろしいことだ。ミナがいるだけで、気づかないうちにあらゆる情報を抜かれているのだから。

 敵でなくてよかったと言う他ない。正直、最強クラスの心奏具だと思う。


 ミナの力があれば、テロリストのような集団の動きを事前に察知できる。

 だから、平和を守る上で最高の能力なんだよな。まあ、使い方次第ではディストピア一直線だが。

 ミナではない人間が持っていたら、例えば皇帝レックスとかが手にしていたら、何が何でも殺すべきだったはずだ。

 だが、ミナの力なんだ。だから、きっとアストライア王国は素晴らしい国になる。


「教皇ミトラを討てば良いんだよな。何か、他に注目すべき敵はいるか?」


「ディヴァリアが戦うのであれば、特には。せいぜいが帝国の近衛騎士団長くらいのものです」


「私もミナちゃんを手伝うから、侵入は簡単だと思うよ」


 まあ、ミナの言う通りならば確かに敵ではない。俺だって楽に勝てると思う。

 とはいえ、無用な犠牲は減らしたいからな。すみやかに討ち取っておきたい。

 教国の民にまで混乱をまき散らしたいわけではない。ただ、攻めてくる敵を倒したいだけだ。

 やはり、平和が一番いいよな。親しい人達とのんびり暮らすのが最高なんだ。


「そうなると、ミナの守りが十分なら、後は気にしなくて良さそうではあるな」


「ええ。戦力としてならば、わたくしすらも必要ないのでしょう。王族というのは不便なものです」


「理解できます。大司教になることが決まって、ミナさんの考えるような面倒が増えました」


 恐らくは、ミナの力を示すことが必要なのだろうな。アストライア王国は、力を重視する国だから。

 今思えば、理解できる部分もある。帝国も教国も攻めてくる。だから、武力の価値は分かってしまう。

 これからの未来で、戦乱が起きないように。しっかりと勝ち方を選びたい。

 俺とディヴァリアの力があれば、できるはずだ。


 ミナもうんざりしていることだろう。戦いは好きではないはずだし、余計な仕事としか思えないはずだ。敵を打ち破るために前線に出るなんてな。

 だからこそ、ミナの才能が発揮できる状況に持っていきたい。

 後方でどっしりと構えてくれていれば、それが最高なんだから。

 サッドネスオブロンリネスの力は、大勢を導くのに適したものなんだから。


「ミナは最高なんだが、民衆には伝わっているとは言い難いからな」


「分かりやすい実績がないからね。クーデターを収めたくらいかな」


「ミナ様のお力は存じております。多数を率いる上で、右に並ぶものは居ないでしょうね」


「私の歌でも伝えたいけど、簡単じゃないんだよね」


 実際、王になってしまえば誰もが認めるだろうさ。

 問題を割り出すことも、対策することも、ミナの能力ならばたやすいだろう。

 だからこそ、今回の戦争で名声が高まってくれれば、ちょうどいいよな。

 しっかり勝って、ミナの治世を眺めていたい。手伝いたい。

 俺達の誰もが望んだ、最高の王になってくれる姿を見たいんだ。


「最上級魔法を見せることは、力を示す上で便利です。心奏具ほどではありませんが」


「同感です。分かりやすい威力こそが、ミナさんの力を雄弁に語るでしょう」


 やはり、心奏具か。原作のミナも、最上級魔法を使えたんだからな。

 想像するに、後ろからコソコソとする能力なんて王にふさわしくない。そんな認識だったのだろう。

 エンドオブティアーズだけが武器だった頃の俺なら、ミナには勝てなかっただろうに。

 凝り固まった価値観というのは面倒だな。この世界には、心理的には適応しきれていないのを感じる。


 ディヴァリアやサクラを始めとした、素晴らしい仲間と出会えた。それだけで、この世界は最高だと思う。

 だとしても、本来はサクラ以外の人間は認められなかった訳だからな。

 俺の望む価値観ではないのは当たり前か。どこまで慣れて、どこまで変えるべきなのだろうか。


「ミナが認められる助けになれるのなら、がんばって手伝うよ」


「ありがとうございます。詠唱の時間を稼いでくだされば、十分です。リオンならば簡単でしょう」


 どうだろうな。ミナの判断だから正しいとは思うが。

 念のため、しっかりと備えておかないとな。ミナを失うなんてこと、あってはならない。

 大切な友達でもあるし、きっと最高の王でもある。生きていてほしいし、生きるべき人だと思う。

 油断なんてしない。俺達の目指していた未来は、すぐそばにあるんだから。

 いま終わるべき物語じゃない。これから先も、ずっと続いていくべきなんだ。


「追加します。私だって結界で守るので、最上級魔法を放つ瞬間に最大の注意を払ってください」


 まあ、シルクの結界は内と外の空間を分けるもの。中に居ながら、外側に魔法を放つことはできない。

 シルクの心奏具で、唯一と言って良い不便なところだ。

 だからこそ、俺の出番だ。まあ、ミナとシルクの連携ならば、ほんの一瞬のスキだろうが。


「分かった。なら、破壊の力をミナとシルク、ルミリエの周辺にまとわせておくよ」


 トゥルースオブマインドの能力は、防御にだって使える。

 破壊の力というのは、本当に何もかもを壊せるし、逆に壊さない選択もできる。

 大事な人だけを傷つけない設定というのは簡単だ。かつて、ディヴァリアが俺の周辺ごと焼き払った時に、俺だけが無事だったように。


 いま思えば、ディヴァリアは当時から俺を大切にしてくれていたんだな。いや、もっと前からもだろうが。

 破壊の力は、無差別に放つ方がよほど簡単なんだ。壊さないというのは、強く対象を意識していないと難しい。

 無造作に使えば、範囲内にある全てを壊していくことになる。


「なら、安心できますね。リオンがわたくし達を傷つける訳がありませんから」


「そうだね。今回の戦いはうまく行きそうかな」


「同感です。もともと、雑兵を倒すだけならば私達の誰か1人でも十分ですから。念には念をと言うだけです」


「後は、実際の戦いを待つだけですね。必ず、ミナ様たちは小生が守ってみせます」


 さて、うまく行けば良いのだが。備えだけはしておこう。

 何も必要なかったのなら、その時に笑えばいいだけだ。

 トゥルースオブマインドの習熟が、今回の課題だな。

 さあ、突き進んでいこう。みんなとの未来のためだ。努力なんて楽しいくらいだよな。

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