146話 途切れない友情

 教国との戦いには、サクラを連れて行かないと決めた。

 今思うと、事前に準備できる戦いでサクラと一緒じゃないのは初めてじゃないか?

 これまでずっと、サクラとは連携を取り続けてきた。強い心奏共鳴を生み出せる、まさに相棒と呼べる存在だ。

 だから、サクラが居ないことに不安もある。それでも、なんとかやってみせるさ。


 今日はサクラとディヴァリアの2人と一緒にいる。教国との戦いについてを、サクラに伝えることが主な目的だ。

 きっと、心配されるのだろうな。だけど、安心させてやりたい。俺はもう負けないって。

 それにしても、俺の家は完全にみんなのたまり場だな。まあ、嬉しいくらいではあるが。


「サクラ、これは秘密にしておいてほしいんだが、近々アスク教国が攻めてきそうなんだよな」


「また戦争なの!? リオンも、戦いに行くのよね。あたしも行くわ」


 少し驚いた顔をした後、強い目でこちらに告げるサクラ。

 だけど、今回は連れて行かないんだよな。役割は考えているのだが。


「今回は、私に任せてくれないかな。ひさしぶりに、本気を出すつもりなんだ」


「ディヴァリアがリオンに着いていくのね。なら、絶対に大丈夫ね。でも、着いていきたい気はするけど」


「サクラには、ノエル達を守っておいてほしいんだ。何もないとは思うが、念のためにな」


「あんたが帰る場所を守るのね。悪くはないわ。なら、どこかに集めておくのよね?」


「俺の家だな。それが一番楽だと思う」


 どれくらいの時間がかかるのかは分からない。だから、主に使用人たちをしっかりと守って欲しい。

 まあ、ここにまで攻め込まれるようなら、俺達は失敗しているのだが。

 それでも、備えは大切だ。何もなかったら、そのときに無駄だったと笑えばいい。


「分かった。ノエル達も、最低限は戦えるわけだからね。最悪の事態にはならないはずよ」


 俺も同じ気持ちだ。だからといって気を抜かないというだけで。

 ディヴァリアが戦場に出るのだから、結果は決まったようなものなんだよな。


「サクラなら、信頼できるからね。私達みんなで、また平和な日々を暮らそうね」


「もちろんよ。あんた達と一緒に過ごすことが、あたしの幸せなんだから」


 だったら、俺達の幸せは同じだな。目指す未来が一致しているなんて、嬉しいに決まっているよな。

 サクラにならば、命を預けられる。その程度には大事な存在なんだから。

 結局、サクラの過去はどんなものだったのだろうな。原作では、平民だからと軽んじられていたのは知っている。

 それだけの情報で分かったようなつもりになるなど、とても罪深いからな。

 だが、直接聞くのも配慮が足りていないだろう。教えてくれることがあったら、聞くだけ。それでいい。


「俺も同じ気持ちだ。だから、頼む。俺達の日常を守ってくれ。居場所を守ってくれ」


「ええ。任せておきなさい。あんた達の敵は、あたしの敵。どんな未来でも変わらない事実よ」


 サクラとの信頼関係が伝わってきて、とても心地良い。

 輝ける人だからな。まぶしさに追い詰められていたこともあったが、今では心に余裕ができた。

 だから、最高の仲間だと心の底から思えるんだ。嫉妬していた頃の自分は、とても情けなかった。

 それでも、わざわざ本人に伝える意味はないよな。無意味に傷つけるだけだ。


「ありがとう。お前が仲間で居てくれるなら、最高に心強いよ」


「あたしこそ。信頼される嬉しさを知れたのは、あんた達のおかげだから」


「気にしなくていいよ。サクラが素敵だから、みんな信頼したんだから。もちろん私も」


 ディヴァリアから出た言葉が、俺に達成感を与えてくれる。

 他人の命をなんとも思っていなかったディヴァリアが、信頼することを知ったのだから。

 それに、原作では敵同士だった2人が、今では親友だという事実も嬉しい。

 ディヴァリアはサクラに負けて死ぬのが、原作での道筋だったからな。

 思えば、原作の主人公と悪役が仲良くなっている。何かの物語で、一度は夢見る光景だよな。


「ディヴァリアだって、とても素敵よ。聖女って立場を抜きにしても、最高だわ」


「ありがとう、サクラ。あなたの言葉だと思うと、嬉しいよ」


 まあ、どうでもいい他人になんと評価されようと気にしない人間だからな。

 せいぜい、どうやって利用するのが良いか考えるくらいだろう。

 だからこそ、サクラの言葉が響くのだろう。大切な友達なんだから。

 良いものだよな。親しい人どうしが友情を築いているというのは。


「2人とも輝ける人だから、追いつきたくて必死だったよ」


「リオンが居たから、私は輝いているんだと思うけどね。だから、必要ない心配だったんじゃないかな」


「そうね。あたしにとっては、リオンこそが太陽だから。沈んでいたあたしを照らしてくれたのよ」


 どこか遠くを見ているような2人は、きっと何かを思い出しているのだろう。

 2人と出会ってから、いろいろな事があった。その中で、2人に幸福を与えられたのなら。最高だという他ないよな。

 大切な相手の幸せに貢献すること以上に嬉しいことなんて、きっと無い。


「サクラの言っていること、よく分かるな。リオンが居てくれたから、私は誰かを好きになれたから」


 そういえば、ディヴァリアに質問されたのが大きなきっかけだったよな。

 どうして人を殺してはいけないのか。そんな問いかけが。

 確か俺は、人を殺せば人を敵に回すからというのを、どうにかして説明したはずだ。

 今思えば、当時のディヴァリアは追い詰められていたのかもしれない。

 なにせ、出会って間もない俺にまで質問をするくらいなのだから。


 きっと、命は尊いとか、人を苦しめるのは悪だとか、そういう説明を受けてきたのだろう。

 だとすると、ディヴァリアが俺を大切に思う理由は分かる。つまりは、本人に寄り添った回答をしたのが俺だけだったのだろう。

 だって、倫理観が理解できないのだものな。悪いことだからと説得されて、納得できるわけがないよな。


「ディヴァリアやサクラと出会えて良かったよ。おかげで、俺は大切な人を手に入れられた」


「それはお互い様だよ。リオンやサクラが大切に思えるのは、リオンのおかげだから」


「あたしは、2人と出会えて初めて友達ができたのよ。間違いなく、リオンのおかげね」


 俺達は、お互いの存在に救われていたのだな。まさに運命だよな。

 一方的に力になるのではなく、支え合うことができる相手と出会えたなんて。

 とても素晴らしいことだ。きっと、どんな奇跡だって敵わないほどだろう。


「早く教国との戦いを終わらせて、また一緒に過ごしたいな」


「そうだね。だから、私も全力だよ。どんな敵にだって邪魔はさせないから」


「ディヴァリアが全力なら、他の人に出る幕は無さそうね。少し寂しいわ」


「サクラはこれまでずっと俺を助けてくれた。だから、活躍しすぎなくらいだよ」


「かもね。私は戦ってこなかったから。今回はゆずってちょうだい?」


 サクラは少しあきれたような顔をして、ゆっくりとうなずく。


「あんたが戦ったら、協力なんてできそうにないものね。悔しいけれど」


 まあ、ディヴァリアと並び立てる存在なんていない。

 俺だって、わずかに近づけただけだろうさ。

 それでも、サクラが諦めていないのは分かる。いつか、ディヴァリアの隣に立とうとしている。

 俺も負けていられないよな。相棒で、対等になりたい相手なんだから。


「戦いなんかで協力しなくてもいいよ。他にも、いっぱい道はあるんだからね」


「そうね。あんたの支えになることは、絶対に諦めない。だから、これからもよろしくね」


「もちろんだよ。サクラはずっと、私の親友だから」


 俺はディヴァリアとサクラの友情が途切れないようにと願っていた。

 いつか、ケンカだってするかもしれない。その先でも、仲直りができるような。そんな関係であってほしいと。

 いくつもの奇跡を積み重ねてできた関係なんだ。壊れないって信じさせてくれ。

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