133話 魔女の心
今日はシャーナさんと話をしている。これからの未来に対する相談と、帝国との戦争の振り返りのつもりだ。
どういう意図のもとの采配だったのかを聞いておけば、今後の役に立つ気がする。
シャーナさんの意図をしっかりと汲み取れれば、もっと効率良く動けるだろうから。
「シャーナさん、ありがとうございます。おかげで、俺の本心に気付けました」
「気にするでない。うちにもメリットのあったこと。それに、お主は見ていて面白いからな」
「そうですか。なら、もっと楽しんでもらいたいですね」
「あまり気にしすぎるなよ。お主は自然体のほうが好ましいからな」
そういうものか。よく分からないが、
まあ、自然体のほうが良いのなら、言う通りにさせてもらおう。そっちの方が楽だからな。
俺はシャーナさんを尊敬しているから、変なことはしないと思う。
それに、未来視があるから、嫌になる前に止めてくる気がするしな。
シャーナさんには世話になっているから、できれば楽しませたいものだ。
俺がいま生きているのは、間違いなくシャーナさんのおかげなのだから。
素晴らしい師匠にして、頼りになる先達。そんな人を裏切れない。
「分かりました。シャーナさんの言う事には従います」
「盲信されても困るがな。とはいえ、気持ちは嬉しいぞ」
まあ、俺はディヴァリアを最も優先すべき。
だからこそ、シャーナさんが悪意を持っていないか疑う必要がある。
できればやりたくないことだが、立場を考えるとな。
シャーナさんにだって、本人なりの思惑があるはずなのだから。
それに、ディヴァリアよりシャーナさんを信用していると思われてもダメだ。誰も得しない。
だから、節度のある付き合いが大事になってくるのだろうな。
こうして秘密の話をしているのも、ある意味ではディヴァリアに対する裏切りなのだから。
「まあ、お主の考えるとおりじゃな。だから、うちの秘密を伝えても良い。今ならば、問題にはならないはずじゃ」
俺の命を救ったという結果があるからだろうか。それとも、もう隠すべき時期を過ぎたからだろうか。
まあ、どちらでもいい。シャーナさんがディヴァリアと親しくなってくれれば、それが一番いい。
未来視の力は、きっと俺達の助けになってくれるだろうからな。
「ああ。今ならば不可能ではないじゃろう。リオンが死ぬなんて事を帝国と戦う以前に言っていたならば、どうなっていたことやら」
ああ、なるほどな。ディヴァリアが俺に好意を持っていることを前提にすれば、よく分かる話だ。
想い人が死ぬと告げられて、黙っているような人じゃないからな。
もしシャーナさんの発言を脅しだと理解されたら、確かに死んでいたかもしれない。
なら、いま大丈夫な理由はなんだろうか。まあ、気にすることもないか。
シャーナさんが無事にディヴァリアと仲良くできる。その結果だけあれば十分だ。
「シャーナさんが死んでいたら、いま俺は生きていませんからね」
「お主も敬語を外して良いのじゃぞ。戦場ではもっと雑な言葉だったではないか」
「それは興奮していましたからね」
「ソニアにはできて、うちにはできぬか?」
「そう言われたら弱いな。なら、これからはよろしく頼む」
「うむ。うちらは共犯者なのじゃから、気軽で良いぞ」
シャーナさんに対等っぽい物言いができるのは、結構気分がいい。
尊敬している人だから、敬語を使いたい気持ちもあるがな。
でも、認められた感じがあるから嬉しいんだよな。
「分かった。シャーナさんと気軽に話せるのは楽しいぞ」
「ありがたいことじゃ。お主の尊敬は、心地よいからな」
「なら、こちらも嬉しい。信頼できる師匠だからな」
「くくっ、助かるな。お主を観察する楽しみを、存分に味わえそうじゃ」
まあ、観察したいのならば好きにしてくれていいが。
何が楽しいのか、自分ではよく分からない。シャーナさんは変わっているかもな。
だからといって、シャーナさんへの尊敬が変わる訳では無いが。
俺で楽しめるのなら、好きなだけ楽しんでくれれば良い。そのくらいの借りはある。
「ちょっと恥ずかしい気もするな」
「かわいいやつじゃ。さて、皇帝レックスとの戦い、苦しかったじゃろ? 連戦で疲れも溜まっていただろう」
「そうだな。だが、俺が追い詰められることこそ必要だったのだろう?」
「ああ。いずれの未来で、お主がトゥルースオブマインドに目覚めた事実が必要になるからな」
なるほど。これからも戦いは続くのだろう。
だったら、全力で強くなるだけだ。ディヴァリアと過ごす未来のために。結婚できるように。
どんな敵が立ちふさがったとしても、やるべきことは同じなのだから。
トゥルースオブマインドの力で、すべて破壊してやる。
「なるほど。トゥルースオブマインドは強力だからな」
「そうではない。じゃが、強さも便利に使うと良い」
心奏具の強さではないとなると、他に何がある? 思いつくのは、心奏共鳴。
だが、サクラとの心奏共鳴は原作での最高のものだったはず。
そうなると、他の可能性か? だが、思いつくことは何もない。
「慌てずとも良い。お主ならば、自然と答えにたどり着くだろう」
「なら、ゆっくり考えるとするよ」
「それで良い。ディヴァリアとお主が絆を紡ぐことは、決まったようなものじゃからな」
まあ、確かに。俺はディヴァリアを尊重するつもりだし、ディヴァリアだって俺を大切にしてくれる。
だから、俺達の関係が壊れることはないと思う。
むしろ、ディヴァリアを想うあまりに暴走しないように気をつけないといけないくらいだ。
うかつな行動をすれば、敵が増えるのは分かり切っているんだから。
「俺達2人なら、どんなことだって乗り越えられるさ」
「ああ。うちだって力を貸す。お主のために、全力を尽くす。うち個人としても、お主を気に入っているからな」
「ありがとう。シャーナさんに気に入ってもらえると嬉しいよ」
「気にせずとも良い。うちはうちがしたい事をする。それだけなのじゃから」
シャーナさんのやりたい事は、俺達を傷つける事じゃない。そう信じられる。
だから、心配なんてしていない。これからも、ずっと尊敬し続けるだけだ。
「でも、俺の気持ちは変わらないよ。シャーナさんは大切な師匠だ」
「心を読まれるに等しいことをされて、お主のように言えるものが何人居ることか。それを思えば、お主を大切に思うのは当然のこと」
「シャーナさんに受けた恩を考えれば、疑うなんてありえない」
「本心なのじゃから、困ったものじゃ。うちの望む未来も、お主に変えられてしまった」
困ったと言いながら、シャーナさんは暖かい顔をしている。落ち着いた声も。
だから、きっと心地よいと感じてくれている。嬉しいな。シャーナさんに良い影響を与えられていると思うと。
「でも、変わったことを喜べるようにしてやる。俺はシャーナさんの弟子なんだから」
「本当に、お主というやつは……。魔女の名は、本来恐れられるべきものなのじゃぞ」
未来視の魔女を自称しているシャーナさんだからな。なにか思うところがあるのかもしれない。
「そうなのか? これまでずっと、支えてもらった記憶しかないけどな」
「うちが見せた未来でも、ディヴァリアは魔女と呼ばれていたであろう?」
「確かにな。だが、消え去った未来だ。それに、ディヴァリアがなんと呼ばれようが関係ないな」
俺の行動は、きっと何も変わらない。誰を大切にするかは、もう決めているのだから。
「いずれ魔女の本性を知っても、お主はうちを遠ざけない。心地いいものじゃ。だからこそ、お主の未来を切り開くために、すべてをかける」
「シャーナさんを嫌うなんて、ありえないからな」
「ああ。よく分かる。だからこそ、お主の未来を、うちは永遠に見続ける。お主がどんな道を選ぼうともな」
ありがたいことだ。尊敬する師匠にずっと見守っていてもらえるのだから。
これからもずっと、長い付き合いにしていきたいものだ。
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