5章 トゥルースオブマインド

132話 手の中にある友情

 今日はサクラと遊んでいる。ディヴァリアに告白しておいて、他の女と2人きりになるのはどうかとは思う。

 だが、むしろディヴァリアの方から勧められたんだよな。どういう意図なのだろうか。

 サクラに手出しするつもりはない。それを理解されているのだろうか。だとしても、おかしい気はするが。


 まあ、決まったことをいつまでも気にしても仕方がない。

 俺としては、なるべくディヴァリアに誠実でいるつもりだ。

 それでも、サクラをないがしろにするのは、2人のどちらにも失礼だろう。ディヴァリアを理由にサクラを軽んじる行為なのだから。

 人を尊重するという感覚からすれば、おかしいよな。まあ、控えめな接触にはするつもりではある。


「あんた、ついにディヴァリアに告白したんだって? 本人に聞いたわよ」


 ああ、伝わっているのか。じゃあ、サクラとディヴァリアの間で話はついているんだろうな。

 経験的に、女同士の話に口を突っ込むとロクなことにならない。

 変に何かを言わないほうが良いだろうな。2人は納得しているのだろうから、なおさら。

 今ディヴァリアへの配慮どうこうを口にすれば、ディヴァリア本人からも悪印象を持たれる気がする。


「ああ、そうだな。俺は結局、ずっとディヴァリアのことが好きだったみたいだ」


「リオン以外はみんな知ってたわよ。ま、めでたいことね。どう見ても両想いなのに、もどかしかったのよ」


「それは悪かったな。自分でも情けない限りだよ」


 サクラはため息をついてから首をふる。本当に呆れているのだろう。

 まあ、他人が同じ事をしていたら、俺だって似たような行動をするだろうな。

 とにかく昔の自分が恥ずかしくて仕方がない。まあ、いまさらではあるが。


「ディヴァリア、とっても喜んでいたわよ。幸せを形にしたような顔でね。だから、許してあげるわ」


 そうか。俺がディヴァリアを幸福にできている。嬉しい限りだ。

 誰よりも大好きな相手なんだ。幸せで居てほしいと思うなんて、当たり前だよな。


「俺が遠回りしたせいで、ディヴァリアを悲しませたとは思う。これから、埋め合わせをしていくつもりだ」


「いい心がけだけど、無理はしないようにね。あんたが傷ついて一番悲しむのは、きっとディヴァリアなんだから」


「ああ。俺を大切にしてくれる人を悲しませないようにするよ。一番はディヴァリアだが、みんなもな」


「ま、良いんじゃない? ディヴァリアだって、ミナ達は大事にしているもの。親しい人どうしが仲良くても、そこまで困らないでしょ」


「それでも、浮気にならないようには気をつけるけどな」


「当然ね。でも、あるいは浮気じゃなくなる未来もあるのかもね」


 どういう意味だろうか。重婚をするつもりは、俺には無いが。

 まあ、俺の意志を無視して状況が動く可能性はあるよな。

 例えばだが、ディヴァリアがサクラを側室にすると決めたら、俺は逆らえないのだし。

 嫌われたくないからと言うより、個人の問題で済むとは思えないからな。

 極端な話、アストライア王国全体に関わる案件の可能性がある。


 ディヴァリアの友達は、まあ俺の友達でもあるのだが。それはさておき。とにかく影響力の大きい人ばかりだ。

 政略結婚というか、感情とは関係のないところで話が進みかねない。

 俺の勇者という名声も、客観的に見れば大きいものだろうからな。救国の英雄ということになるのだし。


 例えば、ミナの王としての権勢を高めるために俺の名を利用する。ありえないことじゃない。

 ディヴァリアとミナが友達であるからこそ、排除できない可能性だ。

 ミナが王となることは、俺とディヴァリア、その友達たちみんなの願いだったから。


「俺としては側室は持ちたくないが、状況次第では俺の意志なんて無視されそうだもんな」


「そういうことね。ま、最悪の場合よ。あんたの心を大事にしたいのよ。あたしはね」


「ありがとう。サクラみたいな人を友達にできて、本当に良かった」


「それはお互い様よ。あんたが居なくちゃ、今あたしは生きてないんだから」


「俺だって同じだぞ。サクラのおかげで、いま生きているんだ」


 これまでの戦いで、どれほどサクラに助けられてきたことか。

 感謝を形にできるのなら、大抵のことはする。ディヴァリアを裏切らない範囲でなら。

 俺が望むことは、サクラが幸せであること。その気持ちは変わらない。

 さすがに、俺自身の手で幸福にしてやる訳にはいかないが。それはディヴァリアの特権だ。


「そういえば、心奏具が変わったんだって? どんな力なのよ?」


「ディヴァリアと似たようなものだな。すべてを破壊する光だ」


「そんなところまでお揃いなのね。ブレスレットなのは聞いていたけど」


 サクラとディヴァリアは本当に仲が良いみたいだ。ただの友達という範囲ではないだろうな。

 ちょっと親しい程度の相手に伝えなくて良いことまで知っているからな。だが、ありがたい。

 サクラがディヴァリアの敵になりそうにないこと。シャーナさんの見せてくれた未来があるからこそ、すばらしさがよく分かる。

 おそらくは、ディヴァリアを打ち破れる唯一の存在だからな。


「ユリアのホープオブブレイブが俺の剣と同じ見た目であることを考えれば、理由はハッキリしているな」


「あんた、ようやくユリアの感情も理解できたのね。ずいぶんと進歩したものね」


「結局、本音のところでは気づいていたのだろうな。だからこそ、みんなには申し訳ない」


「まあ、手遅れではないんだから別にいいのよ。あんた達には素晴らしい未来が待っているはずよ」


「そうだと嬉しいが。まあ、どんな敵が立ちふさがったとしても、ねじ伏せるだけだ」


「ディヴァリアだってやる気みたいよ。だから、敵なんて居ないでしょうね。もちろん、あたしだって手伝うわ」


 ディヴァリアが本気を出せば、誰にだって勝てる。

 いや、そもそも本気を出さなくても、個人では絶対に勝てない。分かり切っている。

 だからこそ、頼り切りになってはならない。俺の力で、隣に立ってみせる。


「ありがとう。サクラが居てくれたら、心強いよ」


「ふふ、あたしも、ありがとう。あたしを必要としてくれるあんた達がいる。だから、幸せなのよ」


「なら、嬉しいな。サクラの幸せは、俺にとっても大切なことだからな」


「ディヴァリアを優先しなさいよね。でも、あんたの気持ちは嬉しい」


「もちろんだ。サクラは俺とディヴァリアの大切な友達なんだからな」


 どんな未来が待っていたとしても、サクラと出会えた喜びは変わらないだろうさ。

 だからこそ、大切な友達なんだ。ディヴァリアにとってもな。


「あんた達が悪の道を進もうとも、あたしは絶対についていく。忘れないでね」


 サクラは柔らかく微笑んでいる。声も優しい。セリフとは似つかないくらいに。

 だからこそ、本気が伝わる。きっと、俺達の友情は壊れない。そう信じることができた。


「ああ。地獄だろうがなんだろうが、お前の居場所は必ず作ってやる」


「嬉しいわ。あんた達と一緒なら、どこでも楽園のはずだもの」


「そうだな。俺も同じ気持ちだ」


 もう後戻りするつもりはない。サクラを悪の道に引き込んだとしても、後悔はしない。

 それでも、サクラと未来をつかめるように。その努力だけは忘れない。

 どんな敵が待ち受けていようとも、ディヴァリアとサクラが仲間なんだ。負けるわけがないよな。


「ねえ、リオン。あんた達の結婚式。あたしも楽しみにしているわね。ディヴァリアのこと、絶対に幸せにしなさいよ」

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