131話 心のつながり
目覚めると、目の前にディヴァリアがいた。
この感じだと、シルクに治療されて自宅に運ばれたのかな。いつも俺が過ごしている部屋に見えるからな。
やっとディヴァリアのところに帰ってこられた。とても長かったような気分だ。
顔を見ているだけで愛おしさがあふれてくるようで、なぜ今まで自分の感情に気づかなかったのか不思議なくらいだ。
「リオン、目が覚めたんだ。心配したんだよ。リオンが死んじゃうかもって」
本当に悲しそうな顔だ。ディヴァリアの今みたいな顔は見たくない。
やはり、もっと強くならないとな。心配なんてかけずに済むくらいには。
俺はディヴァリアの笑顔を、できればずっと見ていたい。だから、もっと頑張ろう。
もし俺の想いが届かないのだとしても、きっと変わらない心のはずだ。
「ごめん、ディヴァリア。俺がもっと強かったら、悲しませずに済んだのにな」
「ううん。リオンが無事だったのなら、それでいいよ。みんなだって一緒なんだから」
ディヴァリアが当たり前にみんなを線の内側に入れている。ありがたいことだ。
やはり、以前より人間に近づいている気がする。逆に、俺は遠ざかったかもしれない。
かつての俺ならば、もっと人を犠牲にしなくて済む道を模索していた。
そして、かつてのディヴァリアは誰だって平気で殺す人間だった。
ある意味では、お互いがお互いに近づいたとも言える。だが、好ましいものだろうか。
正直に言って、みんなと一緒にいられるのなら、どうでもいいことなのだが。
「ありがとう。負けそうな時。お前の顔が思い浮かんだんだ。それで、また会いたくて全力だった」
「嬉しい。私のこと、大切にしてくれているんだよね」
空間が華やぐような笑顔をみせてくれる。
誰よりも可愛いよな。やはり、帰ってこられて良かった。絶望の未来を抜きにしても、ディヴァリアの隣にいたかったから。また顔を見たかったから。
うん、そうだな。レックスの時みたいに、言いたい想いが言えなくなる瞬間はいつやってくるかも分からない。だから、言ってしまおう。
「そうだな。ディヴァリアが好きだったからこそ、ここに戻ってこられた」
「私もリオンが好きだよ。生きていてくれて、とっても嬉しい」
ああ、告白だと思われていないな。これまでの俺が悪いのだが。
自分の想いも、ディヴァリアの想いも、ずっと誤魔化し続けてきたからな。
だからこそ、全力で言葉を尽くそう。想いがすべて伝わるように。
「俺はお前が居なくちゃ生きていけない。お前と結ばれたい。俺の本心は、それだけだった。気づいただけで、心奏具の姿が変わる程度には」
「リオン……! 私も、リオンが大好き。ずっと一緒がいい。結婚したい。リオンの全部がほしいよ」
両思いだとは感じていたが、実際に言葉にされると嬉しいな。
転じて、今までの俺はきっとディヴァリアを悲しませていた。想いを伝えてこなかったから。
その分、これからの行動で埋め合わせをしていこう。もっと喜ばせるためにもな。
「
ディヴァリアとお揃いのブレスレットと同じ見た目の心奏具。チェインオブマインドと同じ。
心奏具が心の形であることを考えれば、どんな言葉よりも雄弁だろうさ。
本当に、簡単な答えだった。ディヴァリアが俺を好きでいてくれることなんて。
なのに、ずっとズレた考えをしていた。想われているかどうか分からないなんて、バカげた話だ。
ディヴァリアをただの幼馴染だと扱ってきたことが、どれほどディヴァリアを傷つけたのだろうか。
しっかりと、反省しておかないとな。もう二度と悲しませないためにも。
「私のチェインオブマインドと同じ。つまり、私が大好きだってことだよね。心奏具まで、私で染まるくらいには」
「ああ。誰よりも、何よりも、お前が好きだ。愛している。自分にウソをつくのは、もうやめるよ」
「なるほどね。なら、これからはもっとずっと、私を大切にしてね」
「もちろんだ。俺の人生のすべてをかけて、お前を幸せにしてみせる」
「リオンが居てくれるだけで、私は幸せだけどね」
「俺も同じ気持ちだ。でも、もっと大きな幸せをお前に教えたい」
まあ、俺だって大きな幸せはあまり知らないのだが。
それでも、ディヴァリアにはずっと幸福でいてほしい。間違いのない俺の本音だ。
だからこそ、俺のすべてを尽くす価値がある。大好きなんだ。ディヴァリアが。その想いだけで十分なはずだ。
「ふふ、どれだけ幸せにされちゃうのかな。楽しみだね」
「お前の期待を裏切らないように、頑張るよ」
「無理はしなくていいからね。リオンがそばに居てくれることが、何より大切なんだから。このぬくもりが伝わることが、とっても幸せなんだから」
ディヴァリアは俺の手を握ってくれる。小さくて柔らかい手から、俺の手にも暖かさが伝わってくる。
ずっとディヴァリアとの時間は幸せだったという当たり前の事実が、強く思い起こされる。
当然だよな。俺を大好きで居てくれる相手といて、俺を尊重してくれる相手といて、幸福に決まっている。
「ディヴァリア。俺はお前と並び立ってみせる。お前の隣にふさわしい存在になってみせる。だから、待っていてくれ」
「もちろんだよ。でも、勇者と聖女は、きっともう対等。功績を考えればね。救国の英雄なんだよ、リオンは」
そういえば、帝国の侵略はどうなったのだろうか。
俺がレックスを討ったことで、戦局はどう変わったのだろうか。
「じゃあ、帝国には勝ったんだな。良かった。命をかけた甲斐がある」
「リオンのおかげだね。だから、ご褒美と私の想いだよ。ありがたく受け取ってね」
ディヴァリアは俺の頬にキスをする。柔らかくて温かい感触が伝わって、思わず照れてしまう。
それにしても、ずいぶんと奥手というか。もっとグイグイ来てもおかしくないくらいだと思っていた。
「ありがとう。最高の気分だよ。こんなご褒美があるのなら、何だってできそうだ」
「それは良かった。本当のキスは、私達の結婚式でね。ノエルやミナ達が見守る中で、祝福とともにね」
「いつになるんだろうな。我慢できないかもしれない」
「リオンが心から望むのなら、いつだっていいよ。リオンは私に何をしても良いんだからね」
ディヴァリアの望みは、結婚式でキスをすることなのだろう。
だから、できるだけ早く結婚式ができるように努力するだけだ。
ディヴァリアとキスをしたいという思いは強いが、我慢するだけだ。
きっと本番では、耐えただけの幸せが得られるだろうから。
「ディヴァリアを傷つけたくないからな。ゆっくりとやっていこう」
「そうだね。別にリオンに襲われたって、傷つきはしないだろうけど」
「あまり誘惑してくれるな。俺だって男なんだぞ」
「分かっているよ。でも、大好きなリオンだから」
「ああ。俺もお前が大好きだ。だから、お前の願いを叶えたい」
「嬉しいよ。ずっと、一緒にいようね」
「ああ、そうだな。何が敵になったとしても、打ち砕いてみせるさ」
「私だって、力を尽くすよ。リオンと一緒にいるためにね」
ディヴァリアとずっと一緒にいるためにも、しっかりと足場を固めないとな。
結婚式を急ぎすぎてもダメだろう。まだ帝国には勝ったばかり。色々な問題が起きるはずだからな。
それらを乗り越えた後で、みんなから祝福されながら結婚する。きっと最高の瞬間になるだろう。
ああ、今から想像しているだけで楽しみだ。現実になるように、頑張っていこう。
――――――
リオンが皇帝レックスに負けかけたと聞いて、私は少し焦っちゃった。
ちょっとだけ、リオンを信じすぎていたみたい。誰が相手でも勝てるって思い込んじゃった。
だって、私のリオンだもん。他の誰より最高なんだもん。
でも、その考えは間違っていた。危うくリオンを失うところだった。
だから、もう私はためらわない。私の持てるすべての力を使う。
――人はね、自分だけが負けそうになると、暴走するものなんだよ。だから、バランスの取り方が大事なんだ。
リオンの言葉を考えると、暴走しそうな国に心当たりがある。
王国が帝国を飲み込んで、この世界からスヴェル帝国という国はなくなった。
だから、困る国があるんだよね。そうなると、また戦争かな。
でも、もうリオンにだけ任せたりはしない。私だって本気を出す。
それでも、リオンは私の隣にいてくれるって信じているよ。
ねえ、リオン。あなたが告白してくれて、嬉しかった。
だから、私達の結婚を邪魔する敵は皆殺しにしてあげるね。
そして、敵のいなくなった世界で、私達は幸せになるんだよ。
もう離さないからね、リオン。
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