128話 最後の戦い
さあ、残る敵はただひとり。皇帝レックスだけだ。
どうやって倒せば良いのか知らないが、何が何でも勝つ。人質が取れそうなら、そうしてでも。
まあ、期待薄だろうな。真正面から戦って倒すことになるはずだ。
俺が勝てば、未来が開ける。負ければ、すべてが終わる。
大変なものを背負っていると、あらためて感じるな。
「リオンちゃん、準備はいい? あと1人。あと1人だよ。あなたならきっと勝てる」
「任せておけ。何があっても勝ってみせる。お前達との未来のために」
「絶対だよ。リオンちゃんのいない世界なんて、意味がないんだからね」
絶望の未来での光景を思えば、よく分かる話ではある。
だからこそ、どうしても勝たなければならない。みんなの協力があってここまでこれた。みんなに託された。
そして何より、俺はみんなの笑顔がまた見たいんだから。いま死ぬ訳にはいかないよな。
俺はしっかりと決意を込めて、皇帝レックスのもとへと進んでいく。
たどり着いた部屋には、玉座に座る男がいた。
「あいつか?」
「そうだね。応援しているからね」
影武者のたぐいではないらしい。なら、全力を尽くして良い。
ここで全てを出し尽くしても問題ない。だから、やることは簡単だ。
俺の全身全霊をかけて、皇帝を討つ。それだけだ。
「よく来たな、勇者リオン。貴様の活躍はよく聞いているぞ」
金髪碧眼の、自身が全身に浮かび上がっているような男。声色からも、自分が絶対であるという自負のようなものを感じる。
一国の皇帝になるような男ともなれば、納得はできる。
まあ、レックスの人格なんてどうでもいい。殺すためには人柄も知ったほうが良いのは確かだがな。
とにかく、いまここで討つ。それだけを考えていれば良い。
「王国に戦争を仕掛けたのが間違いだったな。だから、お前は死ぬ」
「余は死なんよ。我がしもべ共がいくら討たれたところで、余が居ればそれで良いのだから」
ずいぶんと傲慢なことだ。そのまま油断してくれれば、言うことはないのだがな。
しかし、いままでの敵の動きにも納得だ。レックスほどのおごりがあれば、俺達に多勢でかかってこようとはしないだろうさ。
おかげで楽に進んでこられた。レックスの甘さを、今からの戦いでも命取りにしてやらないと。
「それが最後の言葉で良いんだな?」
「貴様こそ、それが最後の言葉で良いのだな?
レックスの首元に、チョーカーのようなものが現れる。
やはり、心奏具使いか。分かり切っていたことではあるが。
いったいどんな能力なのか、できるだけ素早く割り出したいものだ。
心奏具の能力による駆け引きは、この世界における戦いの基本だからな。
まずは敵に駆け寄って、剣を振り下ろす。相手は何もしない。そのまま直撃する。
だが、剣が弾き飛ばされた。俺も体勢を崩す。敵は何もせず笑っている。
「いま、何かしたか? くくっ、勇者と呼ばれていようが、その程度か」
何が起きた? 敵の心奏具が原因であることは間違いない。
だが、いったいどんな能力によって今の現象が引き起こされた?
とにかく、剣が跳ね返されたことが事実としてある。
衝撃波でも起こしたか? 斥力を発したか? 何も分からない。
今は情報を集めないと。剣を振ってダメなら、突いたらどうだ?
次は敵に剣を向けて、そのまま伸ばしていく。当たったらまた弾き返された。
手前側に強い衝撃が跳ね返ってきて、思わず剣を離しそうになってしまう。
原因は分からないが、とにかく攻撃が通じない。
なら、2ヶ所で同時に攻撃するのはどうだ。
今度は剣と盾のどちらも拡大して、盾の殴りと剣の振りを同時に当てる。だが、また通用しない。
この感じだと、強い集中が必要な能力ではない。自動で発動していることすらありえる。
そうなると、攻撃の反射だという仮説が思い浮かんでしまう。
だとすると、いったいどうやって対策すれば良い。いや、まて。物理攻撃だけに通じる技の可能性だってある。
「くくっ、どうすれば良いのか分からないという顔だな。当然のことだ。余はこの世で最も強いのだからな」
ふざけたことを。絶望の未来ではディヴァリアに焼き尽くされていた存在が。
この世界で最も強いのは、ディヴァリアをおいて他にいない。分かりきった事実があるというのに。
だが、今のままでは俺に勝ち目はない。何か手段を見つけないと。
ヘイトオブデッドエンドの炎に焼かれていたよな。なら、炎ならどうだ?
「ファイア!」
炎の初級魔法を放っていく。敵に向けて火が飛んでいき、そのまま跳ね返ってくる。
魔法でもダメか。なら、本格的にどうすれば良いのか分からない。
いや、まだ手段はあるはずだ。魔法と剣で同時に攻撃するのはどうだ。
ファイアを放ち、当たるタイミングに合わせてエンドオブティアーズを伸ばして突く。
だが、どちらも弾き返される。本気で打つ手がなくなった。
これでは、誰かに協力してもらったところで同じだ。
サクラに上級魔法を撃ってもらっても、反射されてこちらが危険になるだけ。
ミナに視界を乗っ取ってもらったところで、攻撃が通じなければ意味がない。
ルミリエの音による攻撃だって、跳ね返されるとしか思えない。
シルクの結界も、敵の体の中に潜り込ませられるか怪しい。
ノエルの弓は、当たり前のように弾き返されるだろう。
ユリアの剣だって、跳ね返されればユリアが危ない。
ソニアさんの剣技も、素早さも、どちらも通用しない。
シャーナさんの最上級魔法も無詠唱魔法も、どう考えても通じない。
エルザさんの銃だって、反射されれば自爆に等しい。
どうすればいい。どうすれば。
ディヴァリアの力があれば、あっけなく倒れていく程度の敵なのに。
俺は勝って、みんなのところに帰らないといけないのに。
何も手段が思い浮かばない。本当に何も。このままでは、負けて終わりだ。
「ウインド!」
風で体を加速して切りつけていくも、通じない。
分かり切っていたことではあるが、威力を少々上げた程度では意味がないらしい。
何も勝ち目が見つからない。ディヴァリアがどうにかする以外の手段は、何も。
俺はここで終わるのか。シャーナさんは、俺を勝たせるつもりじゃなかったのか?
なぜ、ここまで強い相手が敵だと分かっていて、俺に連戦をさせたんだ。
そんな事を考えていると、突然エンドオブティアーズが消えた。
「エンドオブティアーズ? いったい何が……。
いつものように心奏具を出現させようとしても、何も起きない。
何が起きているのかも分からず混乱していると、皇帝は笑い出した。
「ははは! まさか、ここまですぐに心が折れるとはな。勇者の名も、見合うものではなかったようだな」
心が折れた? 確かに心奏具は心の形と言われているが。
今の俺には戦う意志がないとでもいうのか? もう諦めたとでもいうのか?
ありえない。ありえてはいけない。それなのに、事実だと理解できてしまう。
「俺は、絶望の未来を……」
「何を言っている? だが、余興はもう終わりだ。さらば、勇者リオン。少しは楽しませてもらったよ」
皇帝レックスは、右手に剣を取ってこちらに近寄ってくる。
俺は逃げ出すこともできずに、ただ突っ立っているだけ。
「リオンちゃん、逃げて!」
そんな声が聞こえているのに、逃げる気力すら湧いてこない。
皇帝が剣を振り上げるのを見ながら、諦めに支配されていた。
そのまま剣は振り下ろされ、左肩から右の脇腹までを切り裂かれる。
「ディヴァリア……」
そんな言葉が、つい口からこぼれた。
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