129話 本当の想い
ああ、俺は皇帝レックスに負けたんだな。ディヴァリアも、他のみんなも置いて死ぬことになるんだな。
結局俺は何ひとつとして残せなかった。希望も、仲間も、未来も。
どうすれば良かったのだろうな。はじめからディヴァリアに頼っていればよかったのだろうか。
俺の実力など、大したものではない。そんなこと、最初から分かり切っていたはずなのに。
シャーナさんに未来を託されて、うぬぼれていたのだろうか。
俺にも何かできることがあると、思い込みたかっただけだろうか。
いまさら後悔しても遅いのだがな。もう俺は死ぬのだから。
どうせ死ぬのなら、最後にディヴァリアに会いたかったな。声が聞きたかったな。
最後の時まで、考えるのはディヴァリアのことだけか。
俺は何ができただろうか。3歳の頃からずっと一緒にいた。そんな相手に。
結局、ディヴァリアは外道のままだった。それでも、生きていてほしかった。
俺が死んでしまえば、女神アルフィラごと世界は終わる。当然、ディヴァリアも。
何のためにずっと努力を続けてきたのか。生きるためだったはずだ。
なのに、皇帝レックスを前にして、すぐに諦めてしまった。
それほど生きたいとは思っていなかったのだろうか。みんなと約束したはずなのに。
俺は何がしたかったのだろうな。なりふり構わずというのなら、ディヴァリアに頼ればよかったはずなのに。どうしてためらったのだろう。
俺が死んだら、ディヴァリアは泣くのだろうな。シャーナさんが見せてくれた映像のように。
泣き顔なんて、見たくないな。いや、どうせ死ぬのだから、見る未来はないか。
結局は、俺に勇者という名前は重すぎた。ディヴァリアが期待してくれた証のはずなのに。
最後なんだから、せめてディヴァリアの顔でも浮かんでくればいいのに。何も思い浮かんでこない。
ノエルが言ったように、結婚するような映像が見えたって良いじゃないか。
ディヴァリアと結ばれることができたなら、きっと幸せだっただろうに。
そうか。俺はディヴァリアが好きだったんだ。結ばれたかったんだ。
いや、まだ諦めるには早いはず。まだ俺には意識がある。まだ死んでいない。
そうだ。俺はディヴァリアとの未来のために、立ち上がるべきなんだ。
いつか告白するために。その先へと進むためにも。
想いを自覚した途端に、勇気が湧いてくる。だって、ディヴァリアだって俺のことを好きでいてくれるはず。
いや、本当はずっと分かっていたはずだ。ディヴァリアを外道だと言って誤魔化していただけで。
前世でつちかった倫理観からすれば、確かにディヴァリアは許しがたい存在だ。
だが、関係ない。俺はディヴァリアが好きなんだ。もう自分にウソをつくつもりはない。
ディヴァリアとしたいことなんていくらでもある。
話していたい。笑顔を見たい。声が聞きたい。手をつなぎたい。隣にいてほしい。
そうだ。恋人にだってなりたいし、結婚だってしたい。
どれほどの人を犠牲にした相手だろうが関係ない。だって、ディヴァリアと過ごした時間は幸せだったから。
一緒に遊んで、勉強して、同じご飯を食べて、笑いあった日々。
それがどれだけ大切な時間だったかなんて、いまさら考えるまでもない。
ディヴァリアを殺したくないなんて、当たり前だよな。大好きな、誰よりも大切な相手なんだから。
なのに、俺は愚かで仕方なかった。ディヴァリアの想いだって無視し続けていた。
俺とおそろいの、2人で買ったブレスレットをずっと大切にしてくれていた。
他のみんなには見せない顔を、俺にだけ見せてくれていた。
俺のことが大切だと、言葉で伝え続けてくれていた。
バカだよな、俺も。俺以外のみんなは、俺の想いもディヴァリアの想いも分かっていたんだ。
ノエルとエルザさんは俺とディヴァリアの結婚式を祝いたいとずっと言っていた。
サクラは俺が誰を好きなのか、告白された時点で理解していた。だから俺の返事など聞かなかった。
シャーナさんは俺の本当の想いに気づくことが大切だと言っていた。
みんな、俺とディヴァリアの関係を応援し続けてくれていたんだ。
にもかかわらず、俺は自分を誤魔化し続けるだけ。
くだらない自己防衛のための偽りに、みんなを付き合わせていた。
ディヴァリアが悪役だから、外道だから想いは届かないのだと信じ続けて。
結局、バレバレだったのにな。バカバカしい限りだ。
だが、もう迷いはしない。ディヴァリアと結ばれるために、全力で突き進むだけだ。
皇帝レックスが立ちふさがるのなら、踏みにじるだけだ。
これから何が敵になろうとも、同じようにするだけだ。
俺の世界には、俺とディヴァリアと、2人を大切にしてくれる人だけでいい。
仮に女神アルフィラが俺達をはばむのだとしても、打ち破ってでも突き進んでやる。
まあ、世界が滅ばないように気をつける必要はあるだろうがな。
だが、今から戦う皇帝レックスは、世界の命運に何の関係もない。
帝国ごと滅ぼしたところで、問題のない相手だ。
さあ、行くぞ。どこまでも。ディヴァリアが隣にいてくれる未来のために。
無用な犠牲を肯定するつもりはないが、立ちふさがる相手はすべて殺してやる。
ディヴァリアだけに罪を押し付けたりなんてしない。2人で罪を背負うんだ。
俺が外道に堕ちたって構わない。ディヴァリアがそばに居るのなら、地獄でだって幸せだろうさ。
だから、さっさと皇帝を殺してやらないとな。勇者の名を本物にするために。
だって、聖女に釣り合う人間にならないといけないのだからな。
誰からも慕われる、輝ける存在と。もうディヴァリアとの距離に怯んだりしない。
ディヴァリアに追いつけるように、どこまでも突き進むだけだ。
エンドオブティアーズの力では足りないのなら、もういらない。
もっと先へ、どこまでも強く。ディヴァリアと同じくらいに!
心奏具は心の形。なら、ディヴァリアのチェインオブマインドが俺とお揃いのブレスレットなのは、俺への想いが形になったから。
俺のディヴァリアへの想いが、負ける訳にはいかないよな!
ずっとずっと俺を大切にしてくれた相手に捧げる思いが、皇帝ごときに劣って良いはずがない。
なら、応えろ。俺の心奏具よ。
俺の想いにふさわしい力と形をよこせ。誰よりも大切な、ディヴァリアへの想いを形にするんだ。
さあ、拳を握れ。力を込めろ。立ち上がって突き進むんだ。
皇帝レックスだろうが、これから立ちふさがる敵だろうが、ディヴァリアへの想いを阻むすべてを打ち壊す力をよこせ!
簡単なことだ。ディヴァリアならば皇帝を打ち破れた。俺への想いを形にした心奏具で。
なら、俺の想いを形にした心奏具は、女神アルフィラすらも倒せるべきなんだ。
ディヴァリアが俺を想ってくれている以上の想いを、ディヴァリアに返すだけなんだから。
誰よりも大好きで、ずっとそばに居たい相手にすべてを捧げる。
その想いだけで、俺の心を埋め尽くすんだ。
目を開いて、倒れたままの体に力を込める。血が吹き出すが、関係ない。
命を絞り尽くしてでも、俺の想いを込めていく。
だって、命をかけられない想いなんて軽すぎるからな。
ディヴァリアへの想いなんだから、俺のすべてを込めて当たり前。
さあ、反撃の時間だ。想いを叫べ!
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