110話 固い決意

 俺が生き延びるためと考えていても、あまり訓練に力は入らない。

 ただ、みんなの未来のためだと考えると、途端に身になってくる。

 ディヴァリアも、サクラも、他のみんなだって、絶対に生きていてほしいから。

 俺の望みはみんなの幸せなんだから。そう考えれば、生きるために頑張る気にもなる。


 そのために、ソニアさんとの訓練により熱を入れていた。

 剣技を向上させることは、これからの戦いでも必要になってくるだろう。

 だから、しっかりと技術を身に着けていかなければ。

 ソニアさんは明確に俺より強いのに、ある程度合わせてくれているので良い訓練ができる。

 近衛騎士団長を務めるだけあって、人を導くのにも優れているのだろうな。


 シャーナさんといい、ソニアさんといい、良い師匠ばかりに出会えて、俺は恵まれている。

 才能のない俺でも、ある程度の活躍ができているのは、間違いなく2人のおかげだ。


 今は剣の打ち合いをしていて、相変わらず完全に指導されている状態だ。

 追いつくどころか、いい勝負をすることすら遠く思えるな。

 それでも、ソニアさんに勝てるようになるというのが、きっと1つの指標になるはずだ。

 皇帝レックスがどれほど強いのかは知らない。それでも、俺が殺される未来がある程度には強いはずなのだから。


「リオン殿も、出会った頃と比べれば相当腕を上げましたね。感慨深いです」


 その強くなった俺でも、今のままでは負ける運命にある。

 だから、どうにかしてもっと強くならないと。自分の心を知る道はまだ分からないから、せめて剣の腕だけでも。

 みんなに協力してもらうことも必要なんだよな。心が痛むが、仕方ないか。

 結局、俺1人では勝てなかった戦いはあまりにも多い。俺は弱者でしかないのだからな。


「上達しているのなら嬉しいな。ソニアさんのおかげだ」


「リオン殿の折れない心があってこそです。小生ほど強い人間を相手にすれば、戦いを投げ出す例も珍しくない。かくいう小生も……」


 何か逃げ出したことでもあったのだろうか。まあ、それで今ソニアさんが生きているのなら、逃げたことにだって感謝したい。

 俺が強くなれたことには、間違いなくソニアさんの影響が大きいのだから。

 良い師匠と出会えたことは、俺にとって得難い財産であることは間違いない。

 様々な手段を手に入れて、戦いでもずいぶんと役に立ってくれたからな。


「ソニアさんは俺にとって尊敬できる師匠だ。それは何があっても、きっと変わらない」


「ありがとうございます。リオン殿の言葉、とても嬉しいです。貴殿を支えられることは、小生の誇りです」


 そんな事を言われたら、嬉しくて仕方がない。ソニアさんのことは本当に尊敬しているんだ。

 強くて、頼りがいがあって、優しい。物語の騎士のイメージにピッタリの、理想的な存在なんだから。

 一度失敗した過去はあるのかもしれないが、どうでもいい。俺にとって大事なことではない。

 今のソニアさんは間違いなく素晴らしい存在なのだから。それで十分だ。


「そう言ってもらえるのなら、自信になるな。ソニアさんほどの人の言葉なら、信用できる」


「小生など、絶大な力の前ではチリに等しい。だからこそ、リオン殿には期待しているのですよ」


 絶大な力、ね。俺に思いつくのはディヴァリアだが。知り合いだったりするのだろうか。

 原作では敵対していたが、今は敵という感じはしないよな。それなりに親しくしているようだし。

 まあ、ディヴァリアの力を見て心が折れたというのなら、むしろ納得するのだが。

 どう考えても、人に勝てる相手ではないからな。女神アルフィラをあっさりと打ち破るほどの存在なのだから。


「俺だって、あまりにも力の差を感じれば心が折れたりするぞ。勝つイメージすらできない相手は居るからな」


「それでも、リオン殿は大切な人の為ならば立ち向かう。知っているのですよ、小生は」


 どうだろうか。勝てないと思いながらも挑んだ相手なんて、ユリアの時の敵くらいだ。

 他の相手は、みんな勝算があって挑んだし、実際に勝つことができた。

 今でも勝てると思えないほどに高い壁。きっと、再戦しても負けるのだろうな。


「まあ、親しい人の命がかかっていて、逃げられないよな」


 実際、俺は親しい人に死なれるよりも自分が死ぬ方がマシだと思う。

 俺が死ねば世界が滅ぶという前提が生まれてしまったから、考えを変える必要があるが。

 みんなに生きていてほしくて命をかけるのだから、根底から意味がなくなってしまう。

 ディヴァリアが世界を滅ぼすのだと知っていても、恨むことすらできないバカバカしさもあるが。

 正しい人間ならば、ディヴァリアを排除しようとするのだろうな。原因はハッキリしているのだから。


「誰かの命がかかっているくらいのことで、挑むことができない相手はいます。少なくとも小生には」


「仕方ないことですよ。例えばディヴァリアなんて、万の軍勢くらいなら、息を乱すことすらなく全滅させられるだろうからな」


 俺が見た映像のことを思えば、ソニアさんが1万人いても同じことかもしれない。

 そう考えてしまうくらいには、圧倒的すぎる力を感じた。

 俺が立ち向かったところで、傷を負わせることすらできないのは分かり切っている。


「……そうですよね。聖女様はあまりにも強い。小生も知っています」


 まさか、本当にディヴァリアの力を見て心が折れたのか?

 俺としては、仕方ないとしか言いようがない。あれは無理だろう。

 王を守ることができないと諦めたって、責めることなどできはしない。

 ハッキリ言ってしまえば、ディヴァリアみたいな強さはおかしいどころではない。

 現実はあまりにもむごい。たった1人で世界を滅ぼせる存在を生み出すなよ。間違っているだろうが。


「それでも、俺はディヴァリアを孤独にはしたくない。誰かが隣に立ってくれるのだと、教えてやりたい」


「小生も、リオン殿のようにあれたら……きっと聖女様は、貴殿の心を喜ぶでしょう」


「サクラだって同じ気持ちなんだ。俺1人では絶対に無理だが。ソニアさんも、協力してくれないか」


 ソニアさんほどの人が力を貸してくれるのなら、心強い。

 俺はこれからの未来のためにも、誰かの力を必要としている。

 その相手として、ソニアさん以上の存在などなかなかいないだろうな。


「リオン殿が望むのであれば、是非もありません。小生の全力を尽くします。なにせ、貴殿は小生の希望ですから」


 理由は分からないが、シャーナさんに見せてもらった映像でも俺を希望だと言っていたな。

 嬉しいことには嬉しいが、本当になぜなんだ。まあ、ソニアさんは信頼しているから、無理に聞く気はないが。

 それよりも、ソニアさんが協力してくれるのなら、百人力だ。

 今でも俺より数段強い相手だからな。そんな人の手を借りるのだから、うまくやりたいものだ。


「ありがとう。ソニアさんの期待に応えられるように、俺も全力を尽くすよ」


「リオン殿ならば、きっと聖女様だって心を許しています。だから、もっと良い未来をつかみ取れるはずです」


 まさに、俺の望みだ。ソニアさんの保証があれば、自信になるな。

 心強い協力者も手に入れたことだから、俺ももっと頑張っていこう。

 シャーナさんが見せてくれた未来には、絶対にさせない。

 ソニアさんだって笑っていられる未来を、絶対につかみ取ってみせるからな。

 それが、協力してくれることへの恩返しになるはずだ。やるぞ。やってみせる。

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