4章 フェイトオブデッドエンド
100話 よりよい未来
今日はシャーナさんに呼び出された。おそらくは、未来を見てなにかがあったのだと思う。
未来視の魔女というのが本物だと分かって、シャーナさんの言葉に対する信頼は強くなった気がするな。
まあ、嘘をつかれることだってあるのだろうが。それでも、これまで師匠として支えてくれた人だからな。つい信じたくなってしまう。
待ち合わせ場所に向かうと、いつものように真っ黒なシャーナさんがいた。
やっぱり、特徴的な見た目だよな。いかにも魔女って感じの衣装は。髪も目も真っ黒だから、本当に黒ばかり印象に残る。
「よく来てくれた。ここには人目はないから、あまり細かいことを気にせずに話ができるな」
やはり、そういう目的か。少し外れた場所にある小さな建物だから、気になっていたんだ。
まあ、これで大事な話があることは確定したと思っていいだろう。いったいなんだろうか。
マリオ達の事件なんて、気にもしていなかったシャーナさんがわざわざ言うほどのことだ。きっとよほどの内容なのだと思う。
それこそ、戦争が起きるくらいの事はあるんじゃないだろうか。
「シャーナさんに呼ばれて、来ない訳にはいきませんよ」
「そこまで信頼してくれて、嬉しく思う。そんなお主だからこそ、わずかとはいえ道筋を作ることができたのじゃろう」
なるほど。シャーナさんが望む未来のために、俺の存在が必要だった理由は、道筋とやらを作るためか。
それが何なのかは分からないが、よほど大事なことなのだろうな。シャーナさんは、とにかく真剣な目をしているから。
「道筋、ですか。きっと、良い未来への道筋なんでしょうね」
「そうじゃな。うちにとっても、お主にとっても、良い未来だと言えるはずだ。お主の本当の心を満たせるのじゃからな」
俺の本当の心とはいったい何なのだろうか。分からないが、きっと良いことなのだろうな。
本当の心を満たせるという言葉からは、俺の心からの望みが叶うように思えるから。
まあ、何でも良いか。シャーナさんにとって良い未来で、俺にとっても良い未来。それだけで十分だ。
俺にとって良い未来なのならば、きっと大切な人に犠牲は出ないのだから。他のことは、そこまで気にすることじゃない。
「よく分かりませんが、良いことなんでしょうね。なら、楽しみです」
「うちも楽しみにしている。じゃが、まだ大きな障害がある。今はまだ、か細い道筋でしかないからな」
さっきも、わずかな道筋と言っていた。つまり、俺にとって大きな戦いが待っているのだろうな。
きっと、失敗すれば誰の望みも叶わない。俺も、シャーナさんも。だから、か細い道筋を俺につかみ取らせたいのだろう。
俺に話をすることで、望む未来に近づくことができるのだろうな。なら、話を聞かない理由がない。
結局、良くない未来では誰かが犠牲になるということは、簡単に想像できるからな。
「それで、話はなんですか? わざわざ呼び出したんですから、重要な話なんですよね?」
「ああ、そうじゃな。だが、もう少し前置きを話していたい。お主はディヴァリアを大切に思っているよな?」
当たり前だ。いくら外道であっても、幼馴染としてずっと一緒に居たんだ。
良いところなんていっぱい思いつくし、好きなところもたくさんある。人の命を軽んじていることだけが恐ろしくて、好ましくないところだ。
だからこそ、ディヴァリアを殺さなくていい道を探しているんだ。きっと、殺していいならもっと話は早かった。
「もちろんだ。大切な幼馴染で、ずっと一緒に居たい相手なんだ」
「じゃからこそ、お主は今のディヴァリアを作り上げることができた。他者に対して情を持つ、心もつ存在としてのディヴァリアを」
もともとディヴァリアが心を持っていなかったかのような物言いだな。
だが、そう大きく間違っているとは思わない。わずかでも敵対するものを即座に殺していたのが、原作のディヴァリアだった記憶があるからな。
それを考えれば、今のディヴァリアがどれほど人間らしいか。サクラやミナ達、ノエルを大切に思って、本当に友達や妹と考えているんだからな。
だからこそ、ディヴァリアを切り捨てられなくなっているのも事実なのだが。
完全に冷徹なだけの化け物ならば、敵視することを迷わなかっただろうに。
今のディヴァリアは優しいところもあって、可愛いところもあって、茶目っ気もある。
そんな姿が、どうしても嫌いになれないんだ。俺のしたことは間違いだったのだろうか。
なにせ、シャーナさんの言葉では、俺が何もしなければ、ディヴァリアは化け物のままだったのだから。
「お主の考えは間違っている。お主がいたからこそ、いま仮初めの平和が保たれているのだから」
相変わらず、俺の心を読んだかのような物言いだな。だが、シャーナさんに肯定されるのはありがたい。
俺の行動は間違っていなかったのだと、未来が見える人間に言ってもらえるのは。
結局のところ、何が正解なのかなんて分からないのが普通なのだから。
「ありがとうございます。救われるようです。俺は間違っているんじゃないかと、ずっと悩んでいたので」
「お主がディヴァリアと絆を紡いだこと。うちにとっては福音じゃった。おかげで、理想に近い未来にたどり着ける可能性が見えたのじゃから」
「なら、そこまで頑張っていくだけですね。でも、原作よりも良い未来だと言えるんですか?」
そこがどうしても気になる。マリオもエギルもキュアンも、きっとサクラの攻略対象だった。
みんな死んで、本当に良い未来だと言えるのかどうなのか。俺にとっては、親しい人が無事で居るのだから十分ではあるのだが。
「やはり、リオンの心配は分かりやすいな。ある種、うちと同じ悩みを持っているのじゃろう」
シャーナさんが未来を見ることができるように、俺もある意味では未来を知っている。
だから、本当にいま選んだ道が、いつか見た未来よりも良いのかと悩む。そんな感じだろうな。
なるほどな。確かに、俺とシャーナさんくらいしか持たない悩みだろう。共感しやすい。
「かもしれませんね。俺とシャーナさんにしか分からない悩みでしょう」
「お主は相変わらずじゃな。そういう発言をされると、少し困ってしまうのじゃが」
なぜ困るのだろうか。よく分からないが、誰も解説してくれないんだよな。
理由が分からないことには対策しようがないので、どうにもならない。
そもそも、みんな同じ原因で俺にあきれているのだろうか。答えを誰も教えてくれない。
「なら、気をつけたほうが良いのでしょうか。できれば、原因を教えてほしいのですが」
「教えた方がうちが困る事態になるからな。気にせんでくれ。それで、お主の悩みはうちが解決してやれる。未来が正しいのかどうかはな」
きっと、シャーナさんが見た未来のほうが、俺の知る原作よりも素晴らしいという話なのだろう。
だが、どうやって俺を納得させるつもりなのだろうか。言葉だけでいいのなら、とっくに解決していたはずだ。
「でも、どうやって? 口で何かを言われて納得するとは思えないのですが」
「分かっておる。
シャーナさんの右手に、魔女の持つ杖のようなものが現れる。
なるほど。よく分からないが、心奏具の力を使えば俺を説得できると。
「さあ、リオン。うちの力を受け入れてくれ。そうすれば、お主の抱える悩みは消え去るじゃろう」
そう言って、シャーナさんは俺に杖をかざす。そのまま無抵抗でいると、俺の意識は緩やかに薄れていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます