99話 大切かどうか
一通りいろいろなことが落ち着いたので、打ち上げのようなことをしている。
俺の知り合いはだいたいみんな集まっていて、ソニアさんやシャーナさんも参加しているんだ。
エリスやエルザさんも孤児院から来てくれて、本当に親しい人はみんな居る。
豪華な料理に飾り付けられた部屋。着飾ったみんなが華やかで、とにかく居心地がいい。
まあ、気分がいい理由は、参加者がみんな大切な人だからというのが大きいと思うが。
「リオンさんっ、これ美味しいですよっ」
ユリアが渡してくれる料理は俺好みのものばかりで、とてもありがたい。
よく好みを知られているのは、俺が分かりやすいからなのだろうか。まあ、嬉しいのだから理由はなんでもいいか。
「ああ、美味しいな。ユリアは俺の世話ばかりでいいのか?」
「良いに決まってますよっ。リオンさんのお役に立つことが、私の役目なんですからっ」
使用人であることを考えれば、間違ってはいないが。
それでも、ユリア自身の幸福も大切にしてもらいたいものだ。
俺にとって大切な存在であるユリアには、幸せになってほしいのだから。
「ならいいが。無理はしないでくれよ。ユリアに負担をかけるのは望みじゃないからな」
「大丈夫ですよっ。わたしは、今最高に楽しいんですからっ」
ユリアの顔からは本当に楽しそうな雰囲気が伝わるから、事実なのだろう。
なら、無理にやめさせる方が問題か。ユリアの楽しみを奪うのだからな。
「ほんと、ユリアはリオンが大好きよね。ノエルもだし、私が浮いちゃってる気がするのよね」
「フェミルか。お前の距離感には助けられているから、今のままでいいと思うが」
実際、ユリアやノエルがグイグイ距離を詰めてくるときに、フェミルが引き戻してくれることは本当に助かる。
正直距離が近すぎて、ちょっと困る瞬間もあるんだよな。2人は可愛い女の子なのだから。何も感じないわけではない。
「リオンお兄ちゃんったらひどいんだー! ノエルが近づくの、嬉しくないの?」
「嬉しいのは確かだが。男女だということを考えてほしいんだよな」
「まあ、リオンにだって性欲くらいあるわよね。ずっとくっつかれてたら、ムラムラもするか」
「えー? リオンお兄ちゃんって、えっちなんだー?」
否定はできないが、言い方がちょっと困るというか。ノエル達は可愛いから、そういう目で見たことがないといえば嘘になるが。
「そういうからかい方はやめてくれ……本気で困る」
「リオン、あんたも困ることがあったのね。両手に花どころじゃなくて、指全部に花くらいなのに」
指全部ってなんだ。指全部って。親しい女の人は、確かに10人くらいは居るのか? だからといって、恋人やら何やらではないだろうに。
まあ、女の人とばかり交流しているのだと言われたら、否定はできないが。狙っていたわけではないんだよな。
今では全員死んだとはいえ、マリオ達も大切な友達だったんだから。みんなが女の人だから仲良くしたわけではないぞ。
「女好きみたいに言うのはやめてほしいんだがな、サクラ。俺はそこまで好色ではないぞ」
「分かっているわよ。あんたがそんなやつなら、好きになってないもの」
サクラに好かれているのは知っているが、直接言葉にされると照れがあるな。
とはいえ、振ってはいないが振ったみたいになっているからな。少しだけ気まずい。
まあ、サクラはそこまで気にしていない様子だから、助かっているんだよな。
「リオンは優しいからね。サクラだって、リオンの優しさに助けられたんでしょ?」
「そうね、ディヴァリア。リオンがいたから、今あたしは生きているのだし」
「リオンがサクラを助けてくれてよかったよ。私も悲しかったからね」
本当にあの時はつらかった。二度と思い出したくないくらいだ。
それでも、サクラを救えた経験は、今後にも活かせるかもしれないからな。
感じた悔しさも含めて、しっかりと胸に刻んでいるんだ。
「お兄ちゃんが助けてくれた頃なんだよね? エリス、じゃまだったかな?」
「そんなことはない。エリスのことは大好きなんだ。エリスを助けたことも、大切な喜びなんだ」
「リオンさんは孤児院の子ども達をたくさん助けてくれましたからね。そんなリオンさんだから、私達は心を託せる」
エルザさんの言葉は本当に嬉しい。心を託すなんて、絶対にとても強い信頼の証なんだから。
俺のこれまでの人生に、しっかりと意味があったのだと思える。誰かに信頼される喜びを超える嬉しいことなんて、誰にだってほとんど無いはずだ。
「お兄ちゃんの使用人になるの、たのしみにしててね!」
「私から見ても、エリスは将来有望ですよ。リオンさんを支えてくれる、いい相手になるでしょう」
エルザさんのお墨付きなら、心から期待できるな。実際、エリスが使用人になる未来は楽しみだ。
きっと、エリスならば俺の信頼を裏切らないでいてくれる。まあ、多少の問題ならば構わないが。
「リオンには支えてくれる相手が必要ですからね。わたくし達を助けようとするばかりですから。勇者という名には、ふさわしいのでしょうが」
「同感です。だからこそ、私達もリオン君の力になりたい。もっと頼ってほしい。もっと求めてほしい」
「うんうん。私達がキラキラしてるのは、リオンちゃんのおかげだからね。リオンちゃんにも、ワクワクを返したいよ」
ミナ達の気持ちは嬉しいが、これからみんな大変な道のりが待っているはずだ。
王になるミナ、大司教になるシルク。歌姫であるルミリエはもともとか。
何にせよ、これからずっと苦難の道を行くことになるだろう。俺はそんなみんなを支えたい。
まあ、俺の力でどこまでできるのかは分からないが。
「お前達だって大変だろうからな。余裕があるときにお願いするよ。これからは、そうそう楽はできないだろうからな」
「リオンちゃんこそ、大変だと思うけど。お互い支え合えばいいよね」
「同意します。私達はずっとつながっている。だから、助け合うことは当たり前なんです」
「比翼の鳥、連理の枝のようにね。わたくし達は何があっても離れませんから」
本当に、ミナの言葉通りにありたいものだ。これから先も、ずっとこいつらと一緒に居たい。
それは、心の底からの願いなんだからな。全力を尽くして、守りたい未来だ。
「リオン殿は勇者とまで呼ばれるようになって、小生としても鼻が高いです」
「うちとしても、よくやったと言いたい。まだ先は長いが、それでも大きな成果じゃ」
ソニアさんとシャーナさんに褒められるのは、なんだかむずがゆい。
2人にはまだまだ遠く及ばないというのは、分かり切っているからな。
それでも、2人の期待に応えられるように、これからも精進していくつもりだ。
「ありがとうございます。2人の指導のおかげです」
「リオン殿の努力あっての成果でもありますよ」
「そうじゃな。うちの望む未来、リオンならば見せてくれるかもしれん」
本当に、この人達の望みも叶えたい。どれほどお世話になったか分からないのだから。
とはいえ、シャーナさんの口ぶりだと、まだ戦いは続くのだろう。
しっかりと、みんなで生きのびられるように、頑張っていかないと。
もう2度と失わなくて済むように、今ここにいる大切な人を、みんな守り切ってみせるんだ。
きっと、その先にシャーナさんの望む未来もあるはずだから。
必ず、最高の未来にたどり着いてみせる。俺達みんなが幸せになれる未来を、つかんでみせる。
――――――
マリオ達が片付いて、私の短期的な目標は達成できた。
リオンが誰が死ねば本気で傷つくのか計るという目的は。
今回開いたパーティに参加した人が死ねば、きっとリオンは絶望する。
だから、気に食わない人もいるけれど、しっかりと守っていくつもり。ある程度親しくするつもりもある。
――自分の中の大切な人を分ける線。自覚できるかどうかで、幸せは大きく変わるんだ。失ったあとに気づいたら、あまりにも悲しいでしょ?
リオンは自分の線を理解しているみたい。私はどうだろうか。大切だと思う人は、ハッキリしているつもりだけれど。
まあ、そこは大きな問題じゃない。リオンの大切な人が分かったのだから、こっちも配慮しないとね。
だって、自分の気持ちを押し付けるだけじゃ、いい夫婦とは言えないんだから。
あともうちょっと。ほんのちょっとで、リオンと結婚できるはず。
だから、待っていてね。私とあなたとの幸せな日々を。想像するだけで、とっても嬉しくなるような時間を。
ねえ、結婚したら、どんな私を見せてあげようかな。きっと、リオンも喜ぶ姿を見せてあげるからね。
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