98話 慕われるということ

 今日は、ミナが王に決まったことを祝うパレードがある。

 当然、俺も参加するつもりだ。ミナのことだからな。それに、勇者リオンの名があれば便利だと言われれば、拒否などありえない。

 まあ、俺も近衛騎士になる予定なのだから、ミナのそばに居るのはおかしくないよな。


 俺とミナ、シルク、ルミリエ、ディヴァリアは馬が引く豪華な荷台のようなところに集まっている。

 このまま、王都のあたりを周っていくのだとか。よくあるイメージ通りといった感じだ。

 ソニアさんが近衛を率いて周囲を警戒しているらしい。まあ、第1王子オルギアのようなことがあったら大変だからな。それは厳重な警備にもなる。


 ミナが中心に、みんなで手を振りながら民衆の中を進んでいく。

 ずっと立ったまま手を振り続けるのは、案外大変だな。

 ただ、面白いことが結構ある。みんなの手の振り方の違いとか、笑顔の感じとか。


 ミナは顔の横で小さく手を振っていて、可愛らしいというか愛らしいというか、そんな笑顔だ。

 ディヴァリアは大きく手を挙げて、ゆっくりと小さく手を振っている。そしてとても穏やかな笑顔。

 シルクは頭より少し上で、肘を曲げながらゆるやかに手を振っている。あたたかい笑顔が印象的だ。

 ルミリエは両手を挙げて手首から先を元気よく振っている。顔も、とても元気いっぱいという感じ。


 それぞれの個性を象徴するようで、本当に見ていて楽しい。だが、俺も手を振っているので、時々視線を移す程度だ。

 しっかりと民衆の方を向くのは、俺達の義務だろうからな。今みたいなことにも慣れていかないと。


 一通り回り終わって、王城の前の広場まで来た。これからは、ここでみんなが演説をする手はずになっている。

 ミナが中心であるとはいえ、俺達も大切な飾りだからな。ミナを装飾するための。

 ちゃんと、問題のない話をしないといけない。大変だな。俺は慣れていないからな。


 まずは、ミナが前に出た。最初と最後に話をするらしい。本命だから、いっぱい出ようということなのだろうか。

 理由は何でもいいが、最後まで引っ張ったりしないものなのだな。

 まあ、ミナの考えたことだから、なにか理由があるのだろう。印象を強く残すためだろうか。


 ミナは庇護欲ひごよくを誘うような可愛らしい顔を最大限に生かした、きれいな笑顔をみせている。

 そして、透き通るような声で、ゆっくりと話し始めた。


「皆様のおかげで、わたくしは王になるという未来を手に入れました。逆賊であったマリオの反乱により、第1王子オルギアが死ぬという悲しい出来事を、皆様の協力によって乗り越えたのです。感謝します」


 まずは感謝から言葉にするんだな。なんというか、ミナらしいというか。

 もっとマリオを悪し様に言ったりして、自分を相対的に高めるやり方をしないんだな。

 俺としては、どうせ死人なのだから全力で利用してやれば良いと思うが。

 まあ、ミナは俺よりもいろいろ考えて今の言葉にしたのだろうけれど。

 俺よりも賢いミナだから、俺が思うよりも効果がある言葉なのだろうな。


「今この場にも、わたくしを支えてくださる方が複数人います。聖女ディヴァリア、歌姫ルミリエ、大司教になるシルク、近衛騎士になる勇者リオンです。彼女達の支えによって、わたくしは大きくなれたのです」


 俺達のことを紹介していく。それぞれの名前を呼ばれる度に歓声が上がり、みんなの人気がうかがえる。

 シルクは無名だったが、流石に大司教になるという影響は大きいのだろうな。

 なんにせよ、みんなが慕われているというのは、嬉しい限りだ。みんなの魅力を、民が知ったということなのだからな。


「わたくしを助けてくれる人の存在が、わたくしを強くした。ですから、皆様にもわたくしを支えてほしいのです。代わりに、皆様に幸せを届けます。王として」


 民衆は盛り上がっているから、ミナの言葉は成功しているのだろうな。

 まあ、もともと王に任命された段階で、とても人気を高めていたから。

 ミナの容姿や声も相まって、とても魅力的な人間に見えることだろう。

 それに、ディヴァリアやルミリエもいるという事実だって大きいはずだ。

 聖女も歌姫も、とても人気だからな。そんな人が推している存在なら、素晴らしく見えるに違いない。


 次いで、ディヴァリアが前に立つ。優しさを全力で表したような笑顔で、柔らかな声で話していく。


「ミナ王女はとても力強い指揮で王都を奪還しました。その優れた手腕は、必ずこの国に発展をもたらすでしょう。私が支える子ども達も、ミナ王女を支持していますから」


 孤児院の人に慕われていることをうまく利用したな。さすがに、こんな場で娼婦を口にするわけがないのだし。

 ディヴァリアは元々弱い人に支持されているが、今回の件にも使うつもりだったのだろう。


「私自身も、ミナ王女の力になっていきたいと思います。よろしくお願いします」


 今回は簡単に終わらせたな。ミナが中心になるのだから、当たり前か。


 そして、今度はシルクが前に出る。とても穏やかな雰囲気を出しながら、よく通る声で話し始める。


「ミナ王女の治世に、女神アルフィラの加護のあらんことを。アルフィラ教会としても、ミナ王女の王位を祝福させていただきます」


 簡単な言葉だけで、シルクは下がっていく。それでも、大勢の拍手があった。

 やはり、大司教という立場は大きいのだろうな。当然のことではあるが。

 他にも、ミナやディヴァリアやルミリエと共に並んでいるから、すごい人間に見えるのだろう。

 何にせよ、シルクが認められるのはありがたいことだ。


 次にルミリエが前に出ていく。弾けるような笑顔で、元気に話していった。


「私がこの場に出て、求められていることは1つだよね。じゃあ、いっくよー!」


 そのままルミリエは歌っていく。ミナを褒め称えるような歌だが、その中に俺達の活躍もある。

 民衆はみんな静かに、しかしとても歌に入り込んでいた。若干体が動いている人が多い。


 さすがはルミリエだよな。いつもとはまったく違う曲なのに、的確に歌えているのだから。

 歌姫の名に恥じることのない、圧倒的な歌唱力。いつもの元気いっぱいの歌とは違って、情感たっぷりな感じだ。


 歌が終わると、爆発的な歓声に包まれた。やはり、ルミリエの歌は最高だよな。

 俺達が惚れ込んだ最高の芸術は、誰もが認めるものになったんだ。感慨深い。


 そして、次に俺の番がやってくる。本当に緊張していたが、なんとか隠せていると思う。


「私はこれから王になっていくミナ王女を、近衛騎士として全身全霊として支えると誓います。あらゆる敵を打ち破り、どんな危険からも守ってみせます」


 簡単な言葉だったが、みんなが応援の言葉を投げかけてくれた。やはり、大勢に認められるというのは嬉しいものだな。

 そして俺は下がって、再びミナが前に出る。


「聖女ディヴァリアも、大司教となるシルクも、歌姫ルミリエも、勇者リオンもわたくしの力になってくれる。その幸運を胸に、すべてを懸けてこの国を発展させていきます。皆様も、どうかわたくしの力になってください」


 ミナ王女、万歳。そんな声が大きく広がっていき、やがてここに居るすべての民が口にしていた。

 やはり、ミナは最高だ。彼女なら、きっと誰よりもアストライアを素晴らしい国にしてくれる。

 ミナが王になる瞬間が、今から楽しみで仕方がない。俺達みんなが求めていた瞬間が、もうそばにあるんだ。


 みんなと出会えて良かった。そうでなければ、今のような喜びは得られなかっただろう。

 これからも、俺達のつながりを何よりも大切にしていきたいな。

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